呪霊学園の実態
花壇の呪霊を祓ったオレ達は職員室に向かう。
放課後だけあって生徒達の数はまばらだ。
四年生からはクラブ活動もできるから、今残っているのは上級生だろう。
「さすが呪霊学園、そこら中に気配を感じるよ」
「え? ヨーヤ、ほんと?」
「第一怪位に満たないしょぼい呪霊ばかりだけどね」
「すごい……」
オレには呪力が備わっているから些細な呪霊も感知できる。
といっても父さんに鍛えられたおかげというのもあるけど。
「例えばそこの消火栓の陰に小さな毛玉みたいなのが見え隠れしている。呪力的にほとんど害はないと思うけどね」
「気づかなかった」
リーエルが毛玉を見るとサッと消えてしまった。
祓ったほうがよかったかな?
とにかく花壇の件は報告をするべきだと思って職員室で不和利先生を探した。
「あら、あなた達まだ帰ってなかったんですかー?」
「不和利先生、花壇の呪霊を祓いました」
不和利先生は自分の席で仕事に勤しんでいた。
その机を見ると日本人形やフランス人形が並べてあって正気を疑う。
オレ達が花壇の呪霊討伐の報告をすると不和利先生が口に手を当てて驚いた様子だ。
「あら、まさか生徒に先を越されるなんてねぇ……」
「先生はあの呪霊の存在を知っていたんですか?」
「前に職員会議で話題にあがったんですよ。ただ見ての通り、私も他の先生達も忙しくて……。明日の授業の準備やプリント作成とやることが山積みなの。更に家庭訪問や保護者会もあるし……」
「は、はぁ……」
噂には聞いていたけど教師というのは本当に忙しいみたいだ。
心中お察しするけど校内の安全管理があまりできていないようで少し残念でもある。
つまりあのパンフレットには建前しか書かれていない。
でも呪霊学園なんて言われているけど、オレとしては危険が少ないほうがいいと思う。
「あそこには……というよりこの学園には呪霊が集まりやすいんです。だから花壇の呪霊も元々この学園にいたわけじゃないんですよ」
「元は病院だったと聞いたんですけど、そのせいですか?」
「病院ってほら、人の負の感情が渦巻いているじゃないですか。だからそういう場所には呪霊が集まりやすくて、ここも例外じゃないんです」
「じゃあ祓っても切りがないってことですか?」
不和利先生が頷く。
そんな場所を学園にしたのが意図的なものなのかわからなくなる。
「でも強い呪霊は結界によって寄りつけないはずですよー。いるのはせいぜい第一怪位かそれ以下……そのくらいは耐えて見せてほしいですねぇ」
「でも二年生の女の子は気絶しちゃいましたね」
「二年生でもある程度は身を守れるようになってほしいんです。これを子どものうちからやるのが重要だと先生は思ってます」
「確かにあの呪霊は大したことなかったからなぁ」
試練の場と言われているだけあってそこまで甘くはない。
さっき消火栓の陰で見た呪霊だって一年生といえど、あのくらいは祓えるはずだ。
現に三次試験でフライングした少年は霊力強化までやって見せた。
二年、三年と進級するにつれて祓える範囲も広がると思う。
「ちなみに中等部になると第一怪位なら祓える子もちらほらいますよー。といってもこのレベルの子はすぐに上にいっちゃうような子ですけどねぇ」
「確か高等部から退魔師免許試験の受験資格があるんですよね」
「そうですねぇ。早い子は高等部二年生の時点で免許とっちゃいます。ちなみに先生は一年生ですけどねー」
不和利先生、若手の中でもかなり優秀だと父さんから聞かされている。
教師としては新人だけど二十歳くらいですでに中の位にまで昇級している天才肌だ。
ん? じゃあ今は何歳なんだ?
「何か?」
「いえ……天才なんですね」
年齢を聞くのは失礼か。
戦う時はあの日本人形やフランス人形がずらりと並ぶんだろうか?
試験の時は明らかに手加減していたからちょっと気になる。
「そうなんですよー、よく言われますねぇ」
「なんで先生になったんですか?」
「それはもう子どもが大好きだからですねー。ほら、この子達を見れば子ども好きってわかるじゃないですか」
「そ、そう、かな」
この子達というのは日本人形とフランス人形だ。
そいつらが一斉にこちらに目を向けてきた。
退魔術で操ってるんだろうけど、そういうことする必要なくない?
「ほらー、かわいいでしょー?」
「そ、そう考えるとフランス人形焼いちゃってごめんなさい……」
「あぁ気にしなくていいんです。試験に使ったのは私ですし、呪霊討伐でもそういうことはよくあるんですー」
「それならよかったけど……」
不和利先生は笑って許してくれた。
この人形に対する思い入れがあるから、もしかしたら怒ってるのかと思ったよ。
でもさすがにいい大人がそんなことで怒らないか。
「それにラケシスちゃんは私の中で生き続けてますからぁ」
「……ラケシスちゃん?」
「あなたに焼かれた子ですよー」
オレは返答に困った。
これはなんて言えばいいんだ?
「あ、あぁー、なるほど。オレ達、そろそろ帰ります」
「気をつけて帰るんですよー」
なんか肌寒くなってきたからオレ達は早々に退散することにした。
大人でも趣味は人それぞれだからな。うん。
「皆さん、二人にバイバイするんですよー」
後ろを確認してないけどたぶんあの人形がバイバイしてるんだろうな。
オレ、呪霊は全然怖くないけどあれはちょっと苦手かな。
* * *
「ヨーヤ、呪力感知のやり方教えて」
帰り道、リーエルがこんなことを言い出した。
それはいつもの眠そうな目じゃなくて力強い目だ。
「急にどうしたの?」
「ヨーヤ、すごい。だから私もすごくなりたい」
「いいけど……」
もちろん大歓迎だけどコツを聞かれてもどう教えたらいいのか。
オレは生まれた時から膨大な呪力を持っているから慣れが早いというのもある。
オレが生まれながらに持っているこの感覚を伝えるのは難しい。
「じゃあ休みの日に一緒に訓練する?」
「する!」
「よし、じゃあ次の休みの日に初めて会ったあの裏山でやろう」
「むふー!」
リーエルがよっしゃみたいなポーズで鼻息を荒くしている。
なんか独特の興奮の仕方だなぁ。
なんて考えながらオレは電柱の陰にいた小さいムカデみたいな呪霊に目をつけた。
「ギチ、ギチチ」
「狐火」
「ギッ……」
ああいう第一怪位にも満たないモブ呪霊はたまに人に憑依する。
命までは取られないけど謎の体調不良を引き起こす原因にもなるから見つめ次第討伐していた。
それを見ていたリーエルの目が輝いている。
「ヨーヤ、早い」
「そ、そう? 慣れたらこのくらいはできるようになると思うよ」
「ほんと?」
「……たぶん」
適当なことを言ったけどちょっと自信ない。
リーエルの才能は本物だけどね。
「ヨーヤ、好き」
「え? あ、ありがとう」
リーエルがオレの手を取って急に走り出した。
なぜかテンションがやたら高い。
気がつけば日が落ちる時間に差しかかっていて、オレ達は帰路についた。
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