その名は陰陽師
「改めて意地悪をしてすまなかった」
学園長が書類を揃えながら謝罪した。
両親の怒りも子どものオレが落ち着いたことで収まっている。
「威蔵、お前の真意はなんとなくわかる。しかし教育者とはいえ、褒められたやり方ではないな」
「ごもっともだ。実は陽夜君の三次試験の様子を見ていてね」
「なに!? 我々ですら追い出されたのにお前が陽夜の活躍を見ていただとッ!」
「いや、学園長が試験の場にいて何が悪い。こら、離せ」
父さんが学園長の胸倉を掴んで頭をぐわんぐわんと揺らしている。
一応まだ面接中だよね?
「ケホケホッ……まったく、まさか戦鬼がこんな親バカになるとはな」
「責任をとって陽夜の活躍を記録した映像をよこせ。今すぐにだ」
「何の責任だ。そんなことより陽夜君、君が扱っているものは霊力ではないな」
やっぱり学園長は見抜いていたのか。
それならオレへの警戒心も納得できる。
ただでさえ忌子なんて恐れられている上に得体の知れない力まで使っているんだからな。
ここで包み隠していても仕方ない。
忌子であることを含めてひた隠しにするつもりはないから披露することにした。
オレは指先に妖力を集中させて小さな紫色の球を宙に浮かせる。
「これは妖力です。簡単に説明すると霊力であり呪力でもあります」
「妖力……君から感じた違和感はこれだったのか。膨大な霊力でもあり、そうでもない。実に奇妙な感覚だった」
「オレの中には膨大な霊力と共に呪力もあります。これらを合わせました」
「その技術をどこで学んだ?」
「家の蔵です。そこには妖力にまつわる本がたくさんありました」
オレが妖力と口にすると学園長が目を開いた。
「妖力?」
「はい。昔の本にそう書かれていました」
「宗司、どういうことだ。一から説明しろ」
学園長に振られたものの、父さんも困惑している。
あの時は父さん達に迷惑をかけちゃったな。
封印が解けた理由はよくわからない。
「……私達も驚いたよ。あの蔵は遥か昔……遠いご先祖様が封印を施したと聞かされている。私の代になっても解けないほどの強力な封印をな」
「蔵だと?」
「威蔵、ここからは私も初めて見る昔の書物から知った情報だ」
父さんが学園長に妖力について説明した。
話を聞いているうちに学園長の表情が強張っていく。
封印か。何気なく解いたんだよな。
オレの中に眠る霊力と呪力が偶然合わさって妖力となり、封印に施されていた霊力を中和したんじゃないか?
そう考えれば資料ありきとはいえ、オレが妖力に辿りつけたのも頷ける。
父さん、さすがに0歳児の時にそれをやったことは黙ってくれるみたいだ。
「ご先祖様がなぜ妖力に関する書物を封印したのかはわからない。見られたくないものであれば処分すればよかったはずだ」
「それが本当なら退魔師界隈に激震が走るぞ! 妖力! 忌子! これらは繋がっているように思える!」
陰陽術、即ち妖力は人の到達点だとオレは思っている。
霊力を駆使して戦う退魔師はあくまで通過点、ただその先がなぜか葬り去られた。
まるで都合の悪いページを破り捨てるかのように。
「妖力、それは現代における退魔術の力の原点にして到達点……」
「陽夜? どうした?」
「退魔師というのは現代における名称、その昔はこう呼ばれていた……」
オレの中にふとその言葉が浮かぶ。
「陰陽師」
陰陽師。
自分で口にしたその言葉がオレの中に優しく定着する。
何の違和感もないどころかむしろ故郷に帰ってきたかのような安らぎさえ覚えた。
「陰陽師……陽夜君、君がそれだというのかね?」
「わかりません。オレがそう呼ばれるに相応しいかとなると自信ありませんし……。ただなんとなくしっくりきます」
そう言葉で濁したものの確固たる自信がある。
オレは陰陽師、その昔に忘れ去られた妖力を駆使して戦う退魔師の原点だ。
「ふぅ……まったく。今になって君という子が計り知れなくなった。末恐ろしい」
「学園長、オレがどんな力を使おうと入学を認めていただけるんですよね」
「二言はないさ。私はただ陽夜君という人間を知りたかった。君は忌子なんて蔑まれる立場だ。危険な存在かどうか知りたかった」
「でもわかっていただけたんですよね……?」
学園長がニィと笑って答えた。
資料をパラパラとめくってため息をつく。
「名前、年齢、家柄、両親の出身地、仕事……こんな表面的な情報には何の意味もない。人の本質が見えるのは追い詰められた時だ」
「だからって意地悪されてもなぁ」
「誤解しないでほしいが君以外にはこんな面接はしない。ただそれだけ私が君に興味を持った証拠でもある。もし君が癇癪を起こすようなら入学をお断りしていたよ」
「あ、あぶなぁ……」
「おや、内心は苛立っていたのか?」
学園長がニヤついた。
やっぱりこの人、普通に性悪では?
「普通の面接だと思ったのにとんでもないことを聞かれて驚いただけです」
「重ねてすまない。でもね、陽夜君。この学園には様々な生徒がいる。初等部だけではなく中等部や高等部にもな。君が忌子とわかれば反発する生徒だって少なくないだろう」
「それも含めて経験ですよ」
「歳の割にずいぶんとしっかりしているものだ。とても子どもとは思えん」
転生してますから、と冗談を言いたくなる雰囲気だ。
そんな中、ドアがコンコンとノックされた。
「あの、学園長。次の面接はまだでしょうか? 後の予定が……」
「おっと、そうだった。伍神家の方々、後日、改めて合格通知を送ろう」
次の面接の催促に来た教師を見て時間がかかっていたことに気づく。
オレ達が教室から出ると、そこにいたのはリーエルと両親だ。
「おぉ、ソウジ。試験の時のヨウヤはすごかったらしいね。まさにエキサイティングだよ」
「なに!? なぜそれを知ってる!」
「なぜって噂になって……な、何をする! 離せ!」
「私達でさえ試験会場に入れてもらえなかったんだ! それを知っているのはおかしいだろう!」
「だから噂になっている! 落ち着け! 何があった!」
父さんの興奮に火がついてしまった。
バドワイドさんの肩を掴んですごい揺らしている。
これから面接だというのにダル絡みされて気の毒だ。
「ヨーヤ、すごかった」
「あ、ありがと」
「激しかった」
「うん……」
などとリーエルに顔を赤らめて言われた。
こんな風に家族以外に認めてもらえるのは幸せなことだ。
何より今年から同じ学校に通うことだし、知り合いがいるのは心強いな。
「じゃあリーエル、面接がんばってね」
「うん」
リーエルに励ましの言葉を送ると頬にキスをもらった。
教室に入っていくリーエルだけどバドワイドさんはまだ父さんに捕まっている。
さすがに迷惑だから食事の時にオレがたっぷり話をするということで落ち着いた。
今日の高級ディナーは気持ちよく食べられそうだ。
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