最終面接
「本日の試験はこれで終了となります。最後は保護者の方を交えた面接となりますので各自、指定の教室前でお待ちください」
学園長が三次試験の合格者達の前で朗らかな笑顔を見せた。
さっきの形相からは考えられない面持ちだよ。
なんでオレ睨まれたんだろう?
何にせよ、これで残るは面接だけだ。
父さんによれば面接はよほどのことがない限りは問題ないとのこと。
そりゃ小学校入学前の面接なんて保護者次第なところがあるからな。
その保護者というのが今、左右からオレを挟んでヨシヨシの嵐だ。
「陽夜、痛みに耐えてよくがんばった!」
「なんか聞いたことある……」
「お母さん、心配で心配でハンカチがこんなことになっちゃった」
「ボールになってる!?」
固められたボール状のハンカチが見事すぎる。
喧嘩師の握力でもなければこうはならないと思うんだけど。
そのハンカチボールを高く上げて遊んで待つこと一時間、オレ達の番がやってきた。
「伍神様、お入りください」
案内してくれたのは不和利さんだ。
面接担当までこの人なのかと思いきや、中で待ち構えていたのは総勢5人。
不和利さんを含む教師3名、副学園長、そして学園長だ。
その5人が圧迫面接でもするかのようにずらりと雁首を揃えて座っていた。
「かけなさい」
学園長に促されてオレ達は席に着く。
この学園長、日本五大退魔師の一人なら父さんとも知り合いだったりしないかな?
知り合いのよしみで、なんてせこいことを考えるのはやめよう。
「……伍神家にこうして受験していただけるとはな。宗司、調子は良さそうだな」
「学園長」
「そうだった。今は面接の場だったな」
副学園長に咎められた学園長が手元にある資料をパラパラとめくる。
あれは両親の履歴書ってだけじゃないよな。その割に枚数が多い。
「では面接を始めよう。伍神陽夜君、将来はどんな退魔師になりたい?」
「もちろん私みたいな退魔師に決まっている!」
「お父さんには聞いてません。お座りください」
父さんがしゅんとなって着席した。
どんな退魔師、か。そんなの決まっている。
「強い退魔師になりたいです」
「強い退魔師とは? どの程度かね?」
「家族を守れる退魔師です」
オレは即答した。
こんなもの答えなんて決まっているからだ。
「お父さんは優秀な退魔師、お母さんも引退したとはいえ元は極の位まで登り詰めた退魔師だ。そんな二人を守る必要があるのかね?」
「まぁ失礼ね! 私がまるで猛獣のような女だと仰りたいの!?」
「そこまで言ってません。それとお母さんには聞いてないのでお座りください」
父さんに続いて母さんもしゅんとなって着席した。
まともに進まないんだけど。
「守るというのは一つの意味じゃないんです。家庭を守る、家族を安心させる。そういう本当の意味で強くなりたいんです」
「なるほど。将来は楽をさせてあげたいということだね」
「そうです」
「わかった。では次の質問をしよう。学園で君は何を学べると考えている?」
学園長の目がどこか鋭い気がした。
言っちゃなんだけど、子ども相手にそこまで突っ込んだ質問するか?
「威蔵、妙にねちっこい言い回しをするな」
「保護者の方には聞いてません」
「ぬぅぅ!」
父さんが悔しそうに膝の上で拳を握っている。
学園長の名前は威蔵なんだ。
すんなり流されたけど。
「三次試験のみだが君の力を見せてもらった。ハッキリ言おう。君の力は最低でも上の位の退魔師に比肩する。そんな子どもが学園で何を学べると考えている?」
「何を、ですか」
父さんの言う通り、なんだか意地が悪いな。
そっちがその気ならこっちだって応戦してやる。
「学園で学べるものは勉強や退魔術だけですか? もっと他にあるでしょう」
「……確かにそうだな。では君は何を学ぶ?」
「すべてです。見聞きしたもの、体験したものを経験として糧にする。ただそれが役に立つかどうかは誰にもわかりません。わかるなら退魔師どころか予言者です」
「それが学園である必要性は?」
「あります。学園でしか学べないこと、その時にしか学べないことがあります。それはきっと大人になってからじゃ学べません。オレは一時だろうと大切にしたいんです」
教師達が互いに顔を見合わせて、不和利さんはずっとオレから目を離さない。
もしかしてフランス人形を燃やしたことを怒ってるのかな?
確かに止めろとは言われたけど燃やせとは言われてない。
あとで怒られたらどうしよう?
「そうか……では最後の質問だ。忌子が退魔師としてやっていけると思うかね?」
「う……!?」
オレの隣から凄まじい霊力が放出された。
室内どころか部屋の外にまで漏れ出るほどのすべてを圧する霊力。
それでいてオレを優しく包み込む霊力。
「威蔵、その侮辱は伍神家への挑戦と受け取っていいのか?」
「それは学園代表として質問しているのね? 一応最終確認してあげる」
キレてる。両親がかつてないほどキレてる。
霊力は教室の外にまで漏れ出しているようで、至るところから悲鳴が聞こえた。
教師達が受験生を避難させる主旨の声が飛び交っている。
この場にいる教師達が壁際まで下がって完全に抵抗の意思がない。
不和利さんも席から離れて途方もない化け物を見るような目をして絶望しているように見える。
「こ、これが伍神家……学園長! 今すぐにでも謝罪をされたほうが!」
不和利さんの言葉も学園長は無視してオレと視線を合わせた。
「……私は陽夜君に聞いている」
「威蔵、お前との仲もこれまでのようだな」
「ちょ! 父さん、待って!」
オレは思わず立ち上がって学園長の前に立った。
学園長はとんでもない霊力を一身で感じながらも姿勢を崩さず座ったままだ。
「やっていきます」
オレは毅然として答えた。
「根拠は?」
「ありません。でも何があろうとオレの人生です。誰にも口を出される筋合いはないし、何を言われようと気にしません。言いたい奴には言わせておきます」
「忌子ということで君はこの先、不当な差別を受けるかもしれない。その悪意が家族や友達にまで及ぶとしたら?」
「オレが守ります。それもオレの人生の一部だと思っています」
これがオレの正直な気持ちだ。
学園長は黙ってオレの話を聞いていた。
「世の中には忌み嫌われるどころか誰にも愛されずに不本意な人生を歩んで死ぬ人間が多くいます。それどころか生まれた時から自由すらない人達だっています。そんな人達と比べたらオレは不幸だなんて思えません。オレはオレのことを理解してくれる人がこの世に二人もいれば十分です。それだけで人生をかけて戦えます」
オレは迷いなく言い切った。
壁際まで下がった教師の一人がメガネを指で直して、不和利さんが静かに頷く。
「……そうか。何があっても揺らがないというのだな?」
「はい!」
学園長が別の書類を取り出してオレに見せつけた。
「合格だ。ようこそ、退魔師養成学園へ」
「……え? 今、合格?」
伍神陽夜さんへ。退魔師養成学園への入学が認められました。
そういった主旨の文章が書かれている。
つまりこれは合格通知だ。
「意地悪してすまなかった。どうも私は試したがりでね。そのせいで君のご両親のように相手を怒らせてしまうことが多々ある」
「は、はぁ……」
「そういうわけだからそちらの二人も矛を収めてくれないか?」
未だ霊力を解放したままだった二人。
学園長が頭を下げるとようやく二人の霊力が収縮していく。
オレもオレでどうなることかとヒヤヒヤした。
合格の喜びより安堵の気持ちのほうが大きいかもしれない。
ブックマーク、応援ありがとうございます!
「面白い」「続きが気になる」と思っていただけたなら
ブックマーク登録と広告下にある★★★★★による応援をお願いします!




