入学試験 4
「不破先生、今年初めて試験を担当した気分はどうだ?」
昼食の時間、職員室で学園長に話しかけられた。
試験会場は他にもいくつかあって他の担当職員もここで待機している。
二年生の子が保健室に運び込まれた時みたいに、ここでは何があるかわからない。
「えぇ、人を試すというのは意外と気持ちいいものですねぇ」
「そうだろう。私なんかは試したくて仕方ない。そうでなければ教育者などやっていられんよ」
私は弁当を食べながら、あの陽夜君のことで頭がいっぱいだった。
あの子は私の全力の霊力を注ぎ込んだ日本人形をまったく恐れていない。
「ところでそちらの試験会場に目ぼしい子はいたかね。こちらでは北の大地を開拓した一族の末裔である狩代家、鬼の末裔と言われている鬼ヶ島家がツートップだったよ」
「そっちもそっちで大変そうですねぇ」
「試験担当の先生も苦労されていたよ。加減して霊力を放出していたようだが、鬼ヶ島家の子に突き飛ばされてしまった」
「私は日本人形でしたから、その心配はありませんでしたねぇ。こちらの会場ではあのエーテルハイト家と花条家の娘がいます。それと……神の子」
神の子、そのワードを聞いた学園長や他の職員に緊張が走った気がした。
「……二年前の会合の場にいた者達を一瞬で魅了したという少年か。五神家の子だったね」
「解呪不可能と言われた条件発動型の呪いを解呪して瞬く間に祭り上げられた。これだけ聞くと本当に神の子ですよねぇ」
「その彼はどうかね?」
学園長の問いに私はなんて答えればいいか迷った。
教え子になるかもしれない子をこんな風に言うのはあまりに乱暴だ。
だけどそれ以外に表現しようがない。
「……怪物」
他にもアンサーはあった。
期待以上の子、天才、神童。
一番近い答えでわからない、だ。
「ハッハッハッ! そうか! しかし奇遇だね! 私もちょうど狩代家や鬼ヶ島家の子の実力を見てまったく同じことを思ったよ!」
「私の全力の霊力をもってしてもあの子は怯えませんでした」
「入学前の子ども相手に本気を見せたのか?」
「申し訳ありません。ですが……あんな機会でもなければ、あの子と力比べなんてできないと思えば、つい……」
私は口にしてしまって後悔した。
受験生相手に本気を出すなんて叱責されてもおかしくない。
でも学園長は静かに湯飲みに口をつけた。
「……午後からの三次試験、そちらを見させてもらうよ」
学園長の口調にさっきまでの柔らかさはない。
ふと見ると全身からかすかにひりついた霊力が迸っていた。
* * *
「はい、お腹いっぱい食べて元気いっぱいですねぇ! それでは張り切って三次試験を始めちゃいましょう!」
この不和利さんは引き続き張り切っていた。
この三次試験の後は面接、それから合否の通知が家に届けられるといった流れだ。
いやぁ、ドキドキしてきたな。
「あれ? あそこにいるのって……」
「オレ知ってる! がくえんちょーだ!」
「五大退魔師! すごい! 本物だぁ!」
体育館の隅に厳格そうな顔つきをした壮年の男が立っていた。
白髪が目立つ年相応の見た目だけど感知した霊力によれば五大退魔師というのは本当みたいだ。
たぶん父さんと同じくらい強い。
「まぁ、学園長が見に来られるなんて私も緊張してしまいますねぇ。三次試験はこちらです!」
不和利さんが合図をすると体育館のステージの幕が上がる。
ステージに並んでいたのはたくさんのフランス人形だ。
「あのかわいい人形ちゃん達が私の退魔術で動いちゃいます! 皆さんにはあのフランス人形を迎え撃っていただきます! 安心してください! 一人一体でいいです! 霊力を込めたものであれば、当たればすぐに動きが停止しますよ!」
受験生達の顔に不安の色があまり見えない。
何せここまで残った受験生だからな。
多少の腕に覚えがある子どもがいて当然だ。
「ハッ! 何かと思えば……じゃあオレから行かせてもらうぜ!」
「あ、まだ説明が終わってないんですよ。あのお人形さんはね……」
不和利さんの説明を聞かずに受験生の一人がフランス人形に飛びかかった。
霊力強化でなかなかの速度が出ている。
やっぱり三次試験まで残るだけあるな。
「ハハハッ! 一番抜けさせてもらうぜー!」
「ダマレコゾウ」
「へ?」
フランス人形がドスの利いた声を出したと思ったら受験生に頭ごと突撃した。
受験生が吹っ飛ぶ、かと思いきや。
「あ……ぇ……」
受験生がそのまま昏倒してしまった。
白目を剥いて完全に意識がないように見える。
「人の話は最後まで聞きましょうねぇ。あのお人形さんに触れると気絶しちゃうんですよ。理由は秘密です。あ、今の子は特別に再挑戦可能にしますねー」
不和利さんが人差し指を立てながら気絶した子を起こした。
一撃必殺かよ。子ども相手にえげつないことをするな。
「じゃあお人形さん達、張り切ってがんばりましょー! 攻撃は真っ直ぐにしかしてこないので簡単に回避できますよー」
不和利さんがエイエイオーとばかりにポーズを決めた後、人形たちが一斉に襲いかかってきた。
フランス人形の口がクワッと開いてなかなかの迫力だな。
不和利さんの宣言通り、この人形は体当たりしかしてこない。
ひょいっとかわしたら、人形がくるりとこちらを向いてまた体当たりしてくる。
まるでアクションゲームの単調な動きをするザコキャラみたいだ。
「さて……」
この二年間でオレは言霊というものを更に掘り下げた。
言霊には霊力や呪力、オレの場合は妖力がこもっていてそれが力となって言霊となる。
ただし言霊には限界があった。
まず一つ、久里間の時には効き目が薄かったんだ。
理由は二つあって、オレの感情が高ぶらないと妖力内の呪力の性質が発揮できない。
久里間に対する怒りが最高潮になってようやく効き目があった。
もう一つ、相手が手練れであったり強力な呪霊であるほど効き目が薄い。
相手にも霊力や呪力があって、それらで阻まれてしまうからだ。
つまり結局は力対力という安直な構造になりがちになる。
その言霊を更に昇華させなければこの先の戦いを勝ち続けるのは難しい。
だからオレは猛勉強と努力を重ねてついに開発した。
「この世の起源たる五行の力、今こそ発揮せん」
オレは片手で印を結んだ。
印を結ぶことによって五行、即ち火・水・木・金・土を感じ取ることができる。
この世の起源たる五つの力を妖力によって最大限に顕現する、それが――
「陰陽術……火の印! 狐火ッ!」
人魂のような炎がいくつも揺らめいて浮く。
それがフランス人形の四方八方を取り囲むようにして放たれて直撃。
「なっ、なんだ、なんだぁ!」
「燃えて……」
逃げ場がなくなったフランス人形が自然発火のごとく炎上。
皆が驚き終わる前に跡形もなく燃え散った。
火の粉が空中にパラパラと飛び散って消え去る。
「これで合格……なのかな?」
口を開けたままへたり込んでいる不破利さんに問いかけた。
返事がないから顔の前で手を振るとようやくハッとなる。
「え、はい、はいっ……ご、ご、合格です、ねぇ……アハッ、アハハ……」
不和利さんがやや壊れたように笑った。
これで三次試験突破か。いやぁよかったよかった。
オレは安心して体育館の隅に座ると、ちょうどそこに学園長が立っている。
「あ、こ、こんにちは……」
挨拶したものの、学園長が眉間に皺を寄せて怖い顔をしていた。
なんかすごい厳しそうな人だな。
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