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入学試験 3

 筆記試験が終わって次は体育館に行くらしい。

 移動中、リーエルと華恋がオレの両サイドを歩く。


「陽夜さん、さきほどのテストはお見事でしたわ。何かコツでもありますの?」

「コツって言われてもなぁ……こう直観というか……」

「もっと具体的に教えていただけないかしら?」

「難しいなぁ」


 華恋やその他の子達に質問攻めにあっていた。

 父さんが言うには霊力感知は食事やトイレの時でも行っていろとのこと。

 そうやって体を慣らしていくことでより体に霊力が馴染む。

 オレは妖力だけど要領は同じだ。


「ヨーヤ、私は一分かかった」

「へぇ! 十分すごいよ!」

「……それだけ?」

「え? ほ、他に何かあるかな」


 リーエルが意外そうな顔をした。

 何か褒め足りないのかなとか色々と考えたけどまったくわからない。

 確かに少し軽薄だったかな。

 でもリーエルが突然手をぎゅっと握ってきた。


「ヨーヤ、やっぱり好き」

「なんで!?」

「リーエルさん! 神聖なる学び舎でずいぶんとはしたないことを!」


 手を繋ぐのがはしたないってどういうことだ?


「わー! らぶらぶー!」

「神の子とエーテルハイム家の子が恋に落ちたー!」

「ひゅーひゅー!」


 なんか皆、すごいませてるね!?


「陽夜さん! あまりデレっとしないことね!」

「いったぁ!」


 華恋がオレの手を強く握ってきて痛い。

 なんなんだよ、まったく。

 そんな華恋の後ろから何かが走ってきた。

 あれはもしかしてワコか?


「ご主人ちゃま! マネージャーの続きやるのです!」

「ワコ!? 父さんと母さんのところにいたんじゃないのか?」

「二人が偵察にいってこいとワコを頼ったのです!」

「それって許されるのかな……?」


 オレはちらりと不和利さんを見た。


「陽夜君、その子は誰かしら?」

「い、妹です」

「ふーん……?」


 不和利さんがワコをジロジロと観察した。

 式神だと見抜かれたら色々とまずいことになりそうなんだけど。

 座敷童子の霊力自体は大したことがないから早々バレないはずだ。


「ご主人ちゃま、このぷるるんは誰です?」

「ぷる……! 試験官の先生だよ! 大人しくしていてね!」


 確かに胸のほうがなかなか豊満だけどストレートすぎるだろう。

 怒ってないか心配だったけど不和利さんはあらあらうふふと笑うだけだ。


「そうなのよぉ、これって意外と邪魔なのよねぇ」


 不和利さんが胸を両手で上げてため息をついた。

 子どもの前でやることじゃねぇ。

 思春期の男子がいなくてよかったな。


* * *


 体育館に着くとオレは言葉を失った。

 そこには日本人形がずらりと並んでいる。

 無機質な表情でオレ達を出迎えてくれた日本人形はちょうどオレ達の人数と同じ数があるように思えた。

 オレは特に恐怖を感じることはないけど苦手とする人が多いのも納得できるビジュアルだ。


「はーい、それでは二次試験を始めたいと思います。説明の前に私の退魔術について教えましょうかねぇ」


 一体の日本人形がぴょこりと立ち上がった。

 おや、日本人形の様子が?


「う、動いたぁ!」

「なんだよぉ!」


 そりゃ受験生達も阿鼻叫喚だ。

 日本人形がトコトコと歩いて不和利さんの肩に乗る。


「これが私の退魔術、私が愛する友人(ドッペルマスター)です。自分の霊力を何かに分け与えることによって思い通りに動かせまーす」

「オマエタチ、コロスゾ」


 日本人形が何か仰ってるんだけど?

 その途端、受験生達がいよいよパニックになった。


「う、うわあぁぁあぁ!」

「怖い怖い怖い!」

「もうやだぁぁぁ!」


 大量の受験生達が体育館の入り口に向けて一目散に逃げていく。

 半泣きになって逃げていく子ども達が少しかわいそうだ。

 なるほど、二次試験の内容が見えてきたな。

 残っている受験生達の中にも青ざめている子達がいる。


「あらあらぁ……。では残った皆さんで試験をしましょうか。二次試験の内容はこのお人形さんを抱きかかえる。それだけです」


 なるほど、そうと聞いたら簡単だ。

 オレはずんずんと歩き進めて――


「はい、完了」

「サワルナ、カス」


 なんか言ってるけどオレは日本人形を抱いた。なんてことのない試験だ。

 あの日本人形には不和利さんの霊力が込められている。

 この試験は不和利さんの霊力に恐れを抱かずにいられるかどうかを確かめたいんだろう。


 霊力の意識、自分の霊力の総量を把握。

 霊力の感知、相手の霊力を把握。

 この二つが優れているほど相手との霊力差が理解できる。

 その結果、恐怖が芽生えるというわけだ。


 心霊スポットで何も感じない人とそうでない人がいるという話がある。

 怖がる人というのは霊力の意識と感知が普通の人より優れている証拠だ。

 この試験は霊力の意識と感知がどれだけできているかを試すものだと思う。

 その上で一定以上の霊力を持った人間だけがクリアできる。

 一次試験で足切りしただけあって、残っている受験生はそれなりに技術を持っているだろうからな。


「よ、陽夜、君……怖くないのぉ?」

「全然?」

「全然って……」


 不和利さんがかすかに歯軋りをする。

 不和利さんの瞳にどこか挑戦的な光が見えた気がした。

 おい、まさか――


「霊力……注入」


 日本人形に突然大量の霊力が流れ込むのを感じた。

 まるで濁流のように流れ込むそれを見ているだけでも不和利さんの実力がうかがえる。

 大量の霊力が注がれた日本人形の顔が口裂け女みたいになってオレを睨み上げていた。


「コロスゾ」


 これはこれで趣があるな。

 一種の芸術作品として後世に残せないか? 無理か。


「ひ、ひいぃぃーーーー!」

「陽夜君、早く逃げてぇーーー!」


 子ども達が驚いているけど、霊力の総量でいったら父さんにまったく及ばない。

 父さんの化け物みたいな霊力に比べたら、こっちはチワワみたいなもんだ。


「わ、私の全力の霊力でも怯えないというの……?」

「オレは合格でいい?」

「え? そ、そうね……陽夜君、合格……」


 不和利さんが力なくオレの合格を宣言した。


「それと他の子達が怖がってるからやめたほうがいいんじゃ」

「ハッ!?」


 不和利さんが慌てて日本人形から霊力を抜いた。

 この人、霊力操作の技術が半端ないな。

 さすが上の位の退魔師ってところか。


「ふぇ、ふぇ……」

「ひっく……」

「は、はーい! 皆さんの日本人形はこんなに怖くないですよー!」


 不和利さんが手を叩いて試験の続行を促す。

 大多数が苦戦しているところを見るとそれだけ選りすぐりが集まっているのがわかる。

 それなりの家柄の子が多いんだろうけど、それでもここでふるい落とされるんだろう。


「ふぅ……なんとか完了しましたわ。あの先生、とんでもない霊力ですの……」

「だきっ!」


 リーエルと華恋もなんとか合格したようだ。

 リーエルは澄ました顔をしているけど華恋のほうは脂汗を流している。

 この様子だと霊力はリーエルのほうが高いのか。


「はーい! これで二次試験は終わりです! 合格できた子もそうでない子もお疲れ様でした!」


 不和利さんが二次試験終了を宣言した。

 次は午後から三次試験だけどその前に昼食――


「陽夜ぁぁ! 昼食の時間だ!」

「父さん!?」

「母さんね! 14なべしてお弁当を作ったの! 食べましょ!」

「それ以前に試験会場に入ってきていいの!?」


 両親が体育館に突撃してきた。

 ちょっとこれ大丈夫なのか?


「だって我慢できなかったもの! ほら! 手の震えが止まらないのよ!」

「コホン、陽夜君のお父さんにお母さん?」


 不和利さんが無言で体育館の出口を親指で指した。

 いちいち言わせんなってところだろう。

 その後、二人は小さくなって体育館から出ていった。

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