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入学試験 1

 久里間がやらした会合から二年が経過してオレは七歳になった。

 今日は退魔師養成学園の入学試験が行われる日だ。

 二年前、父さんから入学試験があると聞かされて驚いたな。


 いくら退魔師協会が退魔師養成学園に人を呼び込みたいといっても誰でもウェルカムじゃない。

 退魔師という仕事柄、一定の水準というものが必要になる。

 入学試験に合格できなければ大人しく一般の小学校へいくしかないというわけだ。


「父さん、入学試験って難しい?」

「試験の内容は毎年変わるようだ。私の時は校内のどこかに隠されている呪物を発見するというものだった」

「霊力の意識が重要になってくるのかな?」

「そうだ、偉いぞ。今は運転中だから身動きが取れないが全力でなでなでしてやりたいところだ」


 車を運転しながら真顔なでなでとか言ってる。

 代わりに母さんがオレを抱き込んでなでなでしてきた。

 ちなみに助手席にはワコが座っている。

 あそこがお気に入りみたいだ。


「進む進む進むのです! ワコがこの乗り物を動かしているみたいなのです!」


 これから入学試験があるというのに緊張感がない。

 退魔師養成学園の入学試験。

 それは父さんの言う通り、毎年変わるから対策のしようがない。

 ただ霊力の理解、意識、操作という基本が重要になってくるのは間違いない。


 オレの場合は妖力だからその辺がどうなるんだろう。

 この二年間でオレは父さんとひたすら訓練を繰り返した。

 基本の三つだけじゃなくて体術や陰陽術の開発など、やれることはやってきたつもりだ。


 父さん自身も会合の時に呪いのDVDのせいで身動きが取れなくなったことを気にしていた。

 だから初心からやり直すつもりで隠れて特訓していたみたい。

 つまり父さんはオレと自分の面倒を見るという凄まじいハードスケジュールをこなしていた。


 それに加えて退魔師の仕事もあるんだから頭が上がらない。

 体を張って一家を支えてくれる父さんをオレは尊敬していた。


「陽夜、試験に合格したら今夜は素敵なお店に予約しているの。楽しみにしていてね」

「え? 予約したの?」

「だって陽夜の記念すべき小学校入学だもの。30万円のコース料理よ」

「そ、それって……」


 万が一、オレが試験に落ちたらお通夜みたいな雰囲気で料理を味わうことになる。

 そう口から出かけたけど黙っておいた。

 合格前提でそんなすごいものを予約するのはどうかと思う。

 とんでもないプレッシャーが圧しかかってきた。


「が、がんばらないと!」

「陽夜なら絶対受かるわ! 陽夜だから言ってるんじゃなくてこれは確信なの! あなたの実力はすでにプロの域に達しているわ!」

「そうだといいんだけど……」


 とんでもない金額のコース料理を味わうためにもがんばろう。

 何せ母さん、すでにランドセルを膝に乗せて張り切っているからな。

 これから試験だというのにすごいプレッシャーかけてくるじゃん。


* * *


 試験は退魔師養成学園で行うことになっている。

 建物は想像以上に古くて壁に亀裂が入っていたり植物の蔓が覆っていた。

 ハッキリ言って学園だと言われなかったら廃墟か何かだと勘違いする。

 この学園の門を新入生としてくぐれることを祈りながらオレは校舎に向かった。


「お、おい。あれってまさか神の子じゃ?」

「あの左手の紋は間違いない。二年前に呪いを祓って救済した神の子だ」

「学園に入学するのか! 挨拶してくる!」

「あ! 抜け駆けするな!」


 保護者や受験生の子達がドドドドとばかりにオレ達に押し寄せた。


「陽夜様ですね! お初にお目にかかります! 二年前の奇跡のお話は聞き及んでいます!」

「幼くして呪いのDVDを祓った神の子と同じ学園に我が子を通わせられるなんて光栄ですな!」

「ありがたや、ありがたや……」


 そう、オレはすっかり忌子から神の子へとクラスチェンジしている。

 道を歩けば知らない人に拝まれるし、お年寄りからはお菓子を貰えた。


「シッ! シッ! なのです! 話は専属式神のワコを通すのです!」

「し、式神?」

「ご主人ちゃまは今日はぷらいべーとなのです!」


 なんだ、専属マネージャーって。

 ワコがどこで手に入れたのか、サングラスを装着して芸能人のマネージャー気取りだ。

 またテレビか何かで影響されたな。

 父さんと母さんもワコにこういうものを買い与えないでほしい。


「かわいいっ!」

「む!?」

「ワコちゃんっていうのね! 神の子の専属マネージャーだけあってかわいらしいわ!」

「見る目があるのです。では特別にご主人ちゃまと握手する権利を与えるのです」


 はい、懐柔完了。

 オレは一切了承してないからな。

 こんなひどいマネージャーがいてたまるか。


「コホンッ! 陽夜のために道を開けてもらえるかね」

「伍神家のお父様とお母様ですね! 見るからに聡明! お父様はしぶいダンディーな男性で奥様は美人ときた!」

「フ……それほどでもあるがな。確かに私は陽夜に似てハンサムだな、うん」

「あら、いくら陽夜の母親だからって褒めすぎよ。オホホホホ」


 どうしよう、オレを守るものが消えうせた。

 芸能人を取り囲む人だかりみたいなのをかき分けて進むしかない。


「騒がしいと思ったらずいぶんとお気楽ムードですこと」


 この高飛車な声は奴が来たか。

 振り向くと付き添いらしき黒服の男二人に挟まれた華恋がやってきた。

 くわえていたバラをポイッと投げ捨ててそれを黒服の一人が拾う。

 なにそのバラ。なんで投げたんだ。なんで持ってきた。


「陽夜さん、ご機嫌ね。先日のパーティ以来かしら」

「この一年でそっちの家からはずいぶんとお呼ばれした気がするよ」

「たまには仲良くしてあげてもというわたくしの優しさですわ」

「たまにはってレベルじゃ済まないくらい会ってる気がするんだけど……」


 会合の時から花条家からはやたらとアプローチされていた。

 食事のお誘いからレジャー施設、果てには旅行など。

 あれだけうちを毛嫌いしていたのにこの変わりようはずっと不気味だ。


「ところで陽夜さん、入学試験の自信はおありなのかしら?」

「いや、自信なんてないよ。どんな試験があるのかわからないからね」

「わたくしを打ち負かした殿方がずいぶんと弱気ですこと。せいぜいわたくしをガッカリさせないことですわ」


 などと言いたい放題の模様。

 終始あんな感じでオレと仲良くしたいのかそうじゃないのか、ずっとわからない。

 そしてこんな家族は一つじゃない。


「ヨーヤ!」

「リ、リーエル……」


 後ろから抱き着いてきたのはリーエルだ。

 すかさず正面にくるりとまわって頬にキス。

 もう何度もされて慣れたけど、こんな大勢の前でやられるのは恥ずかしい。


「ヨーヤ、一緒に入学する」

「試験がんばろうね」


 リーエルがオレの手を握っていると、その横で華恋がしかめっ面をしていた。

 確かに初見だと驚くよ。うん。


「リーエルさん、ずいぶんと陽夜さんと親しいのね」

「ヨーヤと結婚する」

「そ、それは親同士が認めたということかしら?」

「うん」


 華恋はですぐ様両親達のほうを見る。

 なんか華恋の両親も修羅みたいな顔をしているんだけど。


「ほぉ……。華恋、こっちに来なさい」

「は、はい」


 華恋が父親の花一に呼ばれていく。

 何かコソコソと話しているようだけど、そろそろ試験会場に行かないと。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。

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