神の子と崇められた少年
「ま、まぁ感謝はしてますわ! でもそれだけですのよ!」
開口一番に華恋がそっぽを向きながらオレに礼の言葉を述べた。
てっきり助けなんかいらなかったとか罵倒してくると思ったけど意外だな。
華恋の両親はというとバツが悪そうな顔をして俯いたままだ。
感謝しろとは言わないし、オレが嫌いならそれでいい。
「陽夜ッ! 陽夜ッ! よぉぉぉうやぁぁーーー!」
「父さん、涙と鼻水がすごい……」
「涙なんぞ一生分流す!」
「いや、意味がわからないから……」
元気になった父さんはオレを抱きしめながらおいおいと泣く。
母さんは母さんでオレの足にすがりついて頭をすりすりしてくる。
上と下で完全に抑えられて身動きが取れない。
「陽夜、母さんね……30なべして陽夜が好きなものを作るわ……」
「30なべもしたら冷めちゃうし無理しないでいいからさ」
「冷めるわけないわ! 私の陽夜への愛は熱々よ!」
「違う、そうじゃない」
上と下を両親が押さえているのはまだいい。
まだいいんだ。いや、そろそろ離れてほしいけど。
「ヨーヤ、好き。結婚しよ」
「それはともかく離れてくれないかな?」
「ダメ。日取りと式場を決めないと」
「まず離れよう?」
リーエルがオレに抱き着いて上中下と完全に押さえられていた。
上が父さん、中がリーエル、下が母さんと何かのモニュメントみたいになってると思う。
五歳のリーエルの口から結婚式だの日取りなんて言葉が出てくるのがこの世界なのか?
そんなオレの周囲を囲んで手を合わせて拝んでいる人々。
モニュメントどころか御神体みたいになっている。
「忌子などではない……この方は神の子じゃ……」
「長生きしてみるもんじゃのぉ」
「そう、我々は長年に渡って勘違いしてきたのだ」
いや、何なら今も勘違いしてるけど。
オレに陰口を叩いて父さんにしばかれた人達なんか土下座してお金を置いてる。
まったく意味がわからない。
「どうぞ、こちらをお納めください」
「持って帰っておいしいものでも食べてください」
「神の子に無礼を働いた無知蒙昧で卑しい下等生物である私達にできることなどこのくらいしかありません」
「もっと自分を大切にしてくださいね……」
なんでさっきまで忌子と恐れられていたオレの前にお供え物が置かれているのか。
確かにオレは皆を妖力で助けたけど、それにしてもこの転身ぶりはおかしい。
こういうのなんていうんだろう。
たぶん科学的に説明できる言葉があるんだろうけど人間はつくづく怖い。
「ヨウヤ、君の力はクララから聞いていた通りだったな」
「えっと、リーエルのお父さん?」
「ヨウヤ。これからの親戚付き合いが楽しみだよ」
「どう考えても話が飛躍してますよね?」
エーテルハイト夫妻がほがらかな笑顔で握手を求めてきた。
応じたものの、オレは親戚付き合いをすることを了承したわけじゃない。
続いてクララさんが握手を求めてくる。
「陽夜さん。朧げな意識ではありましたが、あなたの戦いぶりを見せていただきました。先日はあなたの実力を疑ってすみませんでした」
「クララさん、オレの実力はプロから見てどうですか?」
「……私では批評の資格すらありません。あなたの力はそれほどまでに常識を逸脱している」
クララさんにそこまで言わせるほどオレは強いのか?
オレとしては反省点は多々あるし、これで満足はしたくない。
「私の実力は日本で言うところの匠の位に位置しますが、この国はあなたを含めてあらゆる意味でレベルが高いと実感しました」
「匠……。退魔師の位は頂、極、匠、上、中、下の順だったかな」
「実は次に会った時に少しだけ手合わせしたいと考えていたのですけど、やめておいたほうがよさそうです。陽夜さん、リーエルお嬢様をお願いします」
「何を?」
この一家、どう考えても飛躍している。
そしてオレに絡みついていた三人がするっと解けた。
「バドワイド、まさか私の陽夜をリーエルちゃんの婿に迎えたいと?」
「ソウジ、君なら私の性格をよく知っているだろう。たとえ大統領の息子だろうとリーエルを嫁にはやらない。その私が言うのだ」
「フ……ならば決まりだな」
決めないで。親同士で子どもの将来とか決めないで。
この団結力はどういうことだ。
「おい、貴様ら。そんな下らんことを話し合っている場合ではない。あの久里間の所業といい、片付けることが山ほどあるだろう」
ド正論をかましてきたのは花恋の父親の花一だ。
さっきまで意気消沈していたけど、さすがは名家の当主だな。
汚れていた室内は呪霊の消滅によって綺麗さっぱり消えている。
問題はなんでDVDが持ち出されたのか。
久里間のあの様相はなんだったのか。
考えることはたくさんあるはずだ。
「久里間は模範的な人間だった。退魔師としては中の位で頭打ちだったようだが、退魔師協会本部の勤務になってからは同僚からも慕われていた。なぜこんなことを……」
「宗司、あの程度の人間に何を憂う必要がある」
「その思い上がりが久里間のような人間を生んだのかもしれないぞ。もっと彼と向き合う人間がいれば違ったのかもしれない」
「フン、戦鬼と呼ばれた男が何を女々しいことを……奴は弱かった。ただそれだけだ」
そんなオレ様キャラみたいな発言をしながらもなぜか花一がオレと目線を合わせてしゃがんだ。
「やはり退魔師は強くあらねばいかん。私は強い者が好きだ」
「そ、そうですか」
「陽夜、この度は感謝する。私はお前を認めよう」
「あ、はい」
花一が意味深な笑いをしてから立ち去る。
捻くれた親父だと思っていたけど少しは人間らしいところがあるんだな。
でも母親のほうは一言も喋らないな。
花条家、掴みどころのない一家だ。
ところでこの状況じゃもう会合どころじゃないか。
進行役の久里間はいなくなったし、どうするんだろう?
そう思っていたら父さんが手を叩いて皆の注目を集める。
「こうなった以上は会合は中止だ。今回の件は私が退魔師協会に報告しよう。各々、私の天才息子によって解呪されたものの呪いの後遺症の心配はあるだろう。希望があれば呪癒師を紹介しよう」
呪癒師というのは解呪の他、呪霊による被害にあった際のメンタルケアもやっているそうだ。
特に呪いの後遺症は医学じゃどうにもならないことが多いから重宝されている。
これは退魔師とは別の資格がいるみたいでなかなか興味深い。
「さすが神の子の父だ」
「ありがたや、ありがたや……」
「陽夜様共々、今後もあやかりたいものですなぁ」
今度は父さんが褒められている。
オレはオレで忌子呼ばわりされるよりはマシかなと思ったんだけどさ。
そもそも神の子ってなんだよと思考に原点回帰してダメっぽい。
オレの周りにはお札や果物、お菓子が次々と置かれていった。
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