呪われし者達
「忌子でありながらなぜ……」
久里間が口の端から血を流しながらもオレと対面する。
顔半分の肉が腐食したようにただれて目玉が異常に浮き出ていた。
体中の至る所もドス黒く変色していて死者に片足を突っ込んでいるとわかる。
「それは両親がオレを人として認めてくれたからだ。他の誰に嫌われようともそれだけで生きていられる」
「ならば伍神家は終わりだ! 忌子を生んで育てた時点で退魔師協会本部からは監視の対象だ! 今は見の段階に過ぎない! いずれ然るべき処置が取られるでしょう!」
「そこまで内部事情に精通しているくらいだから呪いのDVDを持ち出せたのか」
「もっとお教えしましょう! 退魔師協会内ではあなたの処分を求める方々が過半数を超えている! 処分が下れば伍神家の存在が今後の歴史に残ることは未来永劫ない!」
久里間が霊力ではなくて呪力を解放した。
あの状態だと本来の退魔術はどうなるんだろう?
「定刻を刻む針! 刻限……24時間ッ!」
久里間の真上に呪力で形成された時計が浮かぶ。
時計の針が激しく回転しつつ久里間の体が二倍ほどに膨れ上がる。
「私の定刻を刻む針は設定した刻限の間、あらゆる力を二倍以上引き出す!」
久里間が跳ねるようにして殴りかかってきた。
なかなかの速度でギリッギリのところでかわす。
拳だけで畳をぶち抜いて、まるで怪物が暴れているみたいだ。
「ふっ飛べ」
「……ぬぐぅッ! はあぁぁぁ……」
久里間はオレの言霊に耐えて見せた。
息を吐きつつ、してやったりとばかりに邪悪な笑みを浮かべる。
「無駄です! 今の私は刻限までに仕事を終わらせるサラリーマン……戦えるのですよ! 24時間ッ!」
「かなり負荷がかかっていそうだな……」
「24時間を超えるとさすがに体が限界を迎えますが今の私は普通の体ではない! 24時間365日戦えますよッ! ビジネスマァーーンッ!」
訳の分からない歌のような口調で久里間は猛攻を仕掛けてきた。
しかも敵はこいつだけじゃない。
「アアァァ……アァアッ!」
女の呪霊が髪の毛を部屋中に展開してオレの足をからめとってきた。
「はいヒットォォーーー!」
「ぐっ……!」
髪の毛で足を取られたせいで久里間の一撃を受けてしまった。
脳が揺れるほどの衝撃だけど、父さんに近接戦の指導を受けていたおかげで後方へと衝撃を受け流す。
「アアァッ! アアーーーー!」
髪の毛が凄まじい速度でオレの全身を縛り上げられた後、女が目を見開く。
その瞬間、オレの心臓に呪力が浸透しつつあるのがわかった。
が、しかし。無駄だ。
「解けろ」
オレを縛っていた髪の毛がバサァとばかりにオレの周囲に散った。
「……!?」
「呪霊なのに驚いているのか?」
続いてオレの中に侵入した呪力は妖力に取り込まれる。
「弾けろ」
「アアァッ! アアッ!?」
女の呪霊の腕や足が破裂して畳に黒い血をまき散らした。
ついでとばかりに久里間の膨張した筋肉からも血が噴き出して噴水みたいになっている。
「うぎゃああぁぁーーー! なんだ、なんだこれはッ!」
「そっちの呪霊は生前の凄まじい霊力が呪力に変換されているみたいだね。だけど呪力なんてオレはとっくに通り過ぎている……砕けろ」
久里間の片腕がバァンと音を立てて弾け消えた。
呪霊はすでに至る部分を失ってもがいている。
ずいぶんと効き目があるようだけど理由は至って単純だ。
「久里間、まともな最期を迎えられると思うな」
オレはこいつらを許さない。
今日の会合だってワクワクしていたのにメチャクチャにしやがって。
両親まで傷つけられたオレの怒りは最高潮に達していた。
「定刻を刻む針で強化した体がこうも容易く……!」
「そっちの呪霊はともかくとして久里間、一番性質が悪いのはお前だよ。もうお前を人とは思わない……千切れろ」
「ぎぃやぁぁぁッ!」
久里間のもう一つの腕がねじ切れた。
どれだけ呪力で身体強化されていようが必ず潰す。
こいつは人じゃなくてもはや呪霊だ。
自分で自分を呪縛で縛り上げて勝手に視野を狭める。
前世のオレもひょっとしたらそうなっていたのかもしれない。
もがいて畳をはいずる久里間の頭を上から踏みつけた。
「ま、待って! 退魔師協会は本気ですよ! 呪力が忌むべき存在として扱われた歴史は100年や200年どころじゃない! その力も私も呪われている! もう誰も私達を受け入れない!」
「お前と一緒にするな。少なくとも両親や子ども達はオレを歓迎した」
「まだ子どもだからだ! いずれあなたのその力を恐れる時がくる! だから我々と」
「……破裂しろ」
久里間の体が風船みたいに膨らんだ。
呪力で抵抗しているみたいだけど抗えるはずもない。
「あ、あうぷぷ! や、やめ、やめて、やめッ……!」
久里間が破裂して綺麗な黒い花火が大部屋に広がる。
やがて黒い霧状となってかき消えていった。
「……やっぱり呪霊じゃないか」
などと呟いた後は倒れている呪霊のほうへと向かった。
この世の憎悪を見てきたかのような瞳がオレを見上げる。
「呪霊にこんなことをいうのはナンセンスかもしれない。あなたの境遇には同情するけど、ここは祓わせてもらうよ」
「ア、アッ……ア……」
「来世であなたが幸せな家庭に生まれてくれることを願う」
月並みだがオレは黙祷した。
言霊でそこまで出来るかわからないけどあえて口にする。
「……成仏しろ」
呪霊が動きを止めて、やがて久里間と同じく消えていく。
砂のようになった呪力の残滓がやがて見えなくなった。
――アリガトウ
オレの空耳かもしれない。
それは呪いの言葉じゃない人の気持ちがこもった言葉だった。
「後は……オレにどうにかできるかな」
「ご主人ちゃま!」
「ワコ、よくやってくれた」
ワコは何もしていないだろうけど、ここにいてくれただけで十分だ。
見たところ皆は生きている。
ワコのおかげで呪いの進行が遅れたのかもしれない。
オレは目を閉じて集中した。
父さんの呪いを解いた時と同じ要領で部屋中に倒れている人達に妖力を注ぎ込む。
「う……」
「か、体が……」
少しずつ息を吹き返す人達が出始めた。
オレの中に眠っている膨大な妖力なら必ず皆を救える。
妖力の粒子が散らばって、蛍の光みたいにホワホワと浮いていた。
「これは……」
「あの子が……伍神家の……」
むくりと起き上がった人達がオレに注目した。
オレを中心として放たれる妖力が全員に浸透していく。
「これが……忌子なのか?」
「なんだかとても暖かくて気持ちいい……」
「神様……?」
誰かがそう呟いた。
そんなものじゃないけど、オレはオレのやれることをやっているだけだ。
オレが目を開けると全員が立ち上がって囲んでいた。
「まるで神が降臨されたようだ……」
「この神々しさ……我々を救ってくれたことといい……君は忌子なんかじゃない」
「神の子だ……!」
誰かの発言を皮切りに皆がオレに祈りをささげた。
オレは思う。なんか違う、と。
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