家と血筋と繁栄
両親のおかげで場がすっかり冷えた。
オレは自分の席についてこんな時でもしっかりと瞑想をしている。
その時、周りがざわついた。
「あら、すでにこんなにもたくさんのお客様がお見えになってますのね」
大部屋に入ってきたのは巫女装束を着た女の子、その両側には袴と着物を着た大人二人。
オレは一瞬だけ圧を感じた。
あの三人が放つ霊力はあまりに挑発的だ。
特にあの父親らしき男、父さんほどじゃないけどかなりの高い霊力を感じる。
母親らしき女性もそれに次いで少しでも触れようなものなら刺されかねない霊力だ。
極めつけはあのオレと同い年くらいの女の子、オレ達にまとわりつくような霊力だな。
この空間自体が自分のものと主張するかのような身勝手で鼻につく霊力、そんな印象だ。
「き、来たか……!」
「よし! チャンスだ!」
大部屋にいる人達の一部が親子のところに向かう。
なんだなんだ? オレ達が来た時とは大違いだな。
あの人達、子どもを連れてどうしようというんだ?
「これはこれは花条家の花一様! 本日もお会いできて光栄です! 太郎も挨拶をしなさい!」
「華恋お嬢様! また一段と大きくなられましたな! ほれ! 和夫!」
「私の倅の吉彦です! 前回一度お会いになられているのですが覚えておられますか!?」
オレ達の時とは大違いだ。
割とそれなりの数の人達がヘコヘコして機嫌を取ろうとしている。
その中には父さんに愛想笑いをしていた人も交じっていた。
そんな人達を当主の花一は冷たく一瞥してフンと鼻を鳴らす。
「華恋、この中で婿に迎えたいのはいるか?」
「お父様、ご冗談遊ばせ。このわたくしに釣り合う子がいるとでも?」
「愚問だったな。さぁお前達、邪魔だ。失せろ」
親子三人はシッシとばかりに手で群がった人達を散らせた。
なんとも不遜な態度の親子だけど、あの群がっていた人達も少し異常だ。
全員が自分の子どもを売り込んでいるように見える。
オレの隣で父さんが小さくため息をついた。
「ふぅ、花条家は相変わらずだな」
「でも自分の子どもを婿にしてほしくてしょうがない人達にまとわりつかれたら嫌になるのもわかるわ」
「優秀な血で濃くなればより優れた血統となるからな。わからんでもない」
「でも一番人気のエーテルハイト家の到着がまだのようね」
父さんによると高貴な家は生まれる前から親同士が子どもの結婚を決めていることが多い。
しかしこの花条家のようにそうじゃない名家もあるから親が必死になって取り入ろうとする。
あの人達は自分の子どもをあの生意気そうな子と結婚させたいわけか。
子どもの自由なんてないんだろうな。
子どもの年齢は幼稚園児くらいから上は中学生くらいと幅広い。
中学生くらいの子を幼稚園児くらいの子の結婚相手にしようとするってすごいな。
そんな子ども達は邪見に扱われてもまだ諦めきれていない様子だ。
知らない少年が告白でもする勢いで華恋という子に花を差し出した。
「か、華恋さん! 僕が育てた花です! 受け取ってください!」
華恋が花と少年を交互に見比べる。
それからクスクスと笑いだした。
「あなたと結婚したらわたくしの美しい肌が皺だらけになりますわ」
「え? ど、どうして?」
「この花、水不足ですもの。お花一つ育てられないような子が誰を幸せにできるのかしら? あなたは上辺だけ取り繕っているだけの薄っぺらい人間、何の魅力もありませんわ」
「う、うっ…ふぇっ……」
少年が泣きだした。
もう少し言い方があるだろうに。
本当にオレと同じくらいの歳なのか?
泣きじゃくる少年を素通りした華恋を父親が満足そうに見てニヤついていた。
「か、華恋さん! プレゼントを受け取ってください! クマさん人形です!」
「なぁにこれ? ブサイクね。あなたにそっくりですわ。一人で抱いて仲良く寝てなさい」
「華恋さん、この指輪は500万円以上の値打ちもので」
「それを買ったのはあなたの親でしょう。あなたと結婚したら親と同居させられそうで気持ち悪いですわ」
なんというか本当にオレと同じ歳とは思えない。
ことごとく切り捨てられた子ども達は茫然とするか泣くかのどっちかだ。
子どもにアプローチさせる親もまともじゃないな。
そこまでして優秀な血を残したいのか。
「華恋、その辺にしておけ。彼らはお前ほどの器量も美貌も実力も持ち合わせていないのだ」
「あら、お父様。わたくしは本当のことを言っただけですの」
親子が実に楽しそうにやり取りをしている。
その近くでは見事に玉砕した親子達が意気消沈していた。
「ヒソヒソ……だから花条家はやめておけと言ったのだ」
「しかし日本三大呪霊を封印した巫女の家柄だからな。血筋としてはこの上ないだろう」
「何を言う。まだ本命がいるだろう。その証拠にまだ多くの者達があの方々を待ちわびている」
まだ何かくるというのか?
今のでお腹いっぱいなんだが。
退魔師というのはオレの予想上に尖った連中が多いらしい。
「失礼。まだ会議は始まっていないようでよかった」
その四人が入ってきた時、場が静まった。
あの花条家すら沈黙して、それでいて華恋が歯軋りをしている。
「エーテルハイト家の席はあちらです」
「そのようだな、クララ」
クララ?
もしかしてあのクララさんか?
じゃああの家族は、と改めて確認しようとしたら大勢が一斉にその四人のところへ向かった。
ドドドという効果音が聞こえてもおかしくない。
さっきまで花条に媚びへつらっていた人達なのに節操ないな。
「バドワイド様! お久しぶりです! 先月の第七怪位の討伐は実に見事でした!」
「エーテルハイト家が来日されてからは日本の呪霊による被害が減っているそうでとても素晴らしい!」
「リーエルお嬢様共々席までご案内します!」
こりゃすごい人気だ。
芸能人でもやってきたのかと思うほどの人だかりで四人が見えない。
オレが驚いていると父さんが肩に手を置いてきた。
「陽夜、あれがエーテルハイト家だ。フランスからやってきた世界的に有名な退魔師の一族だよ」
「せ、世界的!?」
「血筋が数千年にわたって途絶えていない生粋の退魔師の一族だ。エーテルハイト家は中世の魔女狩りの時代を生き延びた魔女の家系……。伍神家とは歴史も重みも違う」
「世界は広いってことかー……」
「自分の子どもを結婚させれば、世界に進出する大きなきっかけになる。どこの家も必死になるというものだ」
それであの群がりが形成されているわけか。
納得はしたけど子どもはそれで幸せなんだろうか?
親が決めた相手と結婚させられて下手をすれば不本意な人生を歩む。
それを望む親がいるなんて信じたくないな。
まぁオレは何一つ望まれてない人生を送ったことがあるけどさ。
「リーエル様、また一段と凄まじい霊力ですな」
「ぷーい」
「リーエル様のお召し物はどこの世界的なブランドですかな?」
「ぷーい」
なんか肝心の子どもにそっぽを向かれているんだが。
というかこの感じに覚えがある。
しかもやっぱりあそこにいるのはあのクララさんか?
オレが気づいた時、そのリーエルが人だかりの間からするっと出てきた。
「ヨーヤ!」
「やっぱりリーエルだっ……」
オレが喋り終える前にリーエルが抱き着いて、しかも軽くキス。
「え、えっと……」
「ヨーヤ、パパとママに紹介する」
今のは海外流の挨拶だよね?
少なくともオレはそう思うんだけど、どうも皆様の見解と相違がある気がした。
だって色んな親子からピリッとした視線を感じるんだもん。
面白そうと思っていただけたら
広告下にある★★★★★による応援とブックマーク登録をお願いします!




