表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/75

忌子への反応、両親の怒り

 会合の会場には父さんが運転する車で向かう。

 昔は運転手を雇っていたけど呪いのせいで仕事ができなくなってからは辞めてもらったらしい。

 ちなみに会合ではお酒を飲むから帰りは母さんが運転することになっている。


「着いたぞ。ここが会合を行う退魔師会館だ」


 退魔師会館は退魔師協会が管理する施設だ。

 駐車場にはすでに多くの車が停められていた。

 これ全部が退魔師の人達なのかな。


「お待ちしておりました。伍神家の宗司様ですね。お久しぶりです」

「久里間、久しぶりすぎて忘れられてないといいがな。ハハハッ!」


 父さんが受付の男に軽口を叩いた。

 スーツ姿のこの人は退魔師協会本部所属の久里間さん。

 退魔師協会は退魔師達の管理を行っている中枢機関だ。

 父さん達退魔師はそんな退魔師協会から呪霊の討伐依頼を引き受けている。


 いくら父さん達が強くても呪霊の情報なんて簡単に集められない。

 だから退魔師協会は実力に応じて各退魔師に討伐依頼をする。

 地味に中抜きがひどいと父さんが愚痴を言っていたこともあったな。


「忘れるものですか! あなたこそが選ばれし退魔師であり、日本の誇りなのですよ!」

「そうだといいがな」

「何を弱気な! 私はあなたを心から尊敬しているのです!」

「ハハ……それは光栄だ」


 この久里間さん、なかなかの心酔ぶりだ。

 こんな人もいるんだな。


 それはそうとこの会館はなかなか立派だ。

 瓦屋根の平屋で中庭もあって池にはシシオドシもある。

 すごいな。これ退魔師協会が管理しているのか。


「さて、なんだかなつかしい空気だな」

「えぇ、すでにぴりついた霊力で満ちているわ」


 長い廊下を渡った先に会合を行う宴会場みたいな大部屋がある。

 そこから感じられるのは敵意とも似つかない緊張感のある霊力だ。

 ここに退魔師達が集まっているのか。

 本当にドキドキしてきた。


「ほぉ、これはこれは……」

「まさか伍神家が……?」


 中に入るとさっそく視線の的にされた。

 老若男女が一斉にこっちを見たんだから、オレも思わずぺこりと頭を下げる。

 父さんと母さんは気にせず自分達の席へと向かった。


 伍神家の席は入り口から遠い上座にある。

 席にはネームプレートが置かれていて、オレの名前のものもある。

 だけど伏せられて置かれていた。


「クスクス……」

「フッ……」


 そういうことか。

 子ども相手に子どもじみた嫌がらせをするな。

 父さんが一瞬だけ険しい表情になる。


「やぁやぁ宗司どの、お久しぶりですな」

「宗司様、復帰おめでとうございます。あなたが優れない間は本当に呪霊が元気で困りましたよ」

「おぉ宗司さん、伍神家が出席されるとは大変嬉しい限りです」


 父さんのところに何人もの人達が挨拶にやってきた。

 全員、当たり障りのない言葉で父さん達を歓迎しているように見える。

 どこか腫物に触るような話し方だ。

 

 でも全員オレにはまったく触れない。

 父さんと母さんに笑顔を作っているけど、オレとは目も合わせない。


「私などまだまだ……」

「何をおっしゃいますか! 宗司どのは退魔師最強と名高い! 私はエーテルハイト家より伍神家を推しますぞ! ガハハッ!」

「ハハ、お世辞がとてもお上手だ」

「いやぁ! すべて本心ですからな! ガハハ!」


 なんだろう、父さんも大変なんだな。

 会合のたびに心にもなさそうな言葉を浴びせられて、それに愛想笑いをする。

 ここは一般的な社会人と変わらないのがちょっと悲しい。


 そんなオレにかすかに刺さる視線。

 見渡すとオレを遠巻きに見ながらヒソヒソと何人かが話している。


「おいおい、あれって……噂のあれだよな」

「あの手にあるのって邪傑紋? 初めて実物を見たわ……」

「よく出てこられたよな。恥を知らないのか」

「大体いくら実績があるからって退魔師協会も甘いんだよ。伍神家って何年もろくに活動できてなかったんだろ?」


 オレはため息を吐いた。

 覚悟はしていたけど風当たりが強いな。

 邪傑紋を隠してすらいないオレにも問題はあるけど、ここが正念場だ。


 そもそも今更隠すことに意味なんかない。

 すでにネットなんかでも忌子が生まれたという情報は出回っている。

 漏らした人間を恨まないこともないけど、仕方ないとも思っていた。


 ここでオレがへこむようじゃこの先、邪傑紋を引っさげて生きていけない。

 挫けるようなら最初から隠して細々と暮らすべきだとすら考えている。

 でもオレは堂々とこの場にやってきた。


 これがオレだ。これが親からもらった体だ。何が悪い。

 オレは無言で周囲にそう訴えているつもりだ。


「ところで宗司どの、聡明そうな息子さんですなぁ」

「いやぁ賢くてかわいくて才能に溢れていて欠点が見当たらないんですよ。ハハハッ!」

「は、はぁ、それは結構なことですな……」

「この前も自分から食後の片付けを手伝ったんですよ! 偉いでしょう? ワハハハハッ!」


 さすがにオレに触れないのはバツが悪いと思ったのかな。

 強引に褒めてくれたけど、父さんの親バカ発動で見事にドン引きさせている。

 まさかとは思うけどここ以外でもこのノリでオレのことを話してないよな?


「何が欠点が見当たらないだよ……邪傑紋が見えないのか」

「あの男は昔から恥を知らない。まったく……子も子なら親も親だな」

「忌子なんか連れてなんで笑ってられるんだかな」


 しょせん外野の戯言だ。

 オレは目を閉じて自分を落ち着かせた。

 これはいい訓練になるな。


 退魔師の仕事は平常心が大切だ。

 こんなことで心が乱れるようじゃとても務まらない。

 というわけで外野はせいぜいオレの糧になってくれ。


「ねぇ、そこのあなた」

「は? な、なんですかな?」


 母さんが突然陰口を叩いていた男に話しかけた。


「さっきからずっと聞こえていたのだけど、もっとハッキリ言ってくださらない?」

「いや、その……」

「私のかわいさが限界突破してるとしか思えない陽夜があなた達に何をしたのかしら?」

「い、いえ、その、ハハハ……」


 まさかの母さんが殴り込んだ。

 母さんはオレにすら一切怒らないけど笑顔のまま怒るんだな。

 怒られた人達がタジタジになって冷や汗をかいている。


「あのね、勘違いしないでほしいの。私は何もあなた達に陽夜を貶すなとは言ってないの。誰にだって発言権はあるもの」

「は、はい……」

「でも発言には責任が付きまとうのよ。それはリアルでもネットでも同じ。だからもっと私に聞こえるようにハッキリと言ってくださらない?」

「す、すみませんでしたッ!」


 陰口を叩いていた人達が綺麗な土下座をした。

 これで一件落着かと思いきや、今度は話を切り上げた父さんがやってくる。

 その表情を見てオレは背筋が凍った。


 鬼がいる。現世に鬼が顕現した。


「お前達、私にも聞こえるようにハッキリと言ってくれないか? 誰が忌子だって?」

「か、勘弁して、してください……すみませんでした……」

「私は陽夜のことをどこに出しても恥ずかしくない素晴らしい息子だと思っている。何か至らない点があればハッキリと言ってくれて構わんぞ。まずはその忌子だと何が問題なのだ?」

「問題一切ありませんッ! 私達が間違っていましたぁ!」


 全員、額を畳みにこすりつけた。


「あぁ!? てめぇら今更芋を引くような分際で私の息子に忌子とか抜かしてんじゃねぇぞコラァッ! あぁ!?」


 オレは血の気が引いた。

 オレが知る父さんとはまるで別人だ。

 あんな鬼に凄まれたらそりゃ失禁だってする。


「ひいぃぃ……」

「それ見たことか。偉そうなことを言っておきながら、お前達は大人のくせにお漏らしをしてるじゃないか。陽夜はきちんとトイレにいくぞ?」

「と、トイレに、いってきまず……」

 

 お漏らしした人達がすごすごと大部屋から出ていく。

 普通は止めるだろうに、この場にいる誰もが沈黙していた。

 それはたぶん父さんがほぼ殺気みたいな霊力を放っているせいだ。

 なまじ霊力を感知できるとこういう時に恐ろしい思いをする。

 なるほど、勉強になった。

面白そうと思っていただけたら

広告下にある★★★★★による応援とブックマーク登録をお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ