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転生したら悪徳お嬢様だった件について ~男子高校生、ツンデレを極める~

作者: 春風

目が覚めたら、そこは金色のシャンデリアが煌めく天井だった。


「え?えっ?天井、金ピカ?」


俺の名前はハルキ、17歳の男子高校生。朝の目覚めはいつも目覚まし時計と母の怒声だ。なのに今日は、ふわっふわの羽毛布団と、バラの香りに包まれていた。


そして、異変はそれだけじゃなかった。


「きゃあああああっ!!な、なにこれ!?声が、高い!?ていうか、カワイイ!?ていうかおっぱいあるうううう!?」


鏡の前には――ふりふりレースのナイトドレスを着た、金髪ロールの美少女がいた。


「……まさか……」


俺は震える指で、鏡の中の少女の頬をつついた。すると、彼女もつついた。


「一致ぃぃぃぃ!!完全一致ぃぃぃ!!鏡の中の美少女、俺えええええええええ!!?」


どんだけ美少女なんだよコレ!目が宝石みたいにキラキラしてるし!肌すべすべすぎて加工済みみたいだし!口を開けば「あら、いやですわ」って自動再生されそうな勢いだし!


「う、嘘だろ……夢か……?」


絶望のあまり、ベッドに再ダイブして枕をかぶった俺。しかし、バラの香りはリアルすぎるし、ナイトドレスのレースはチクチクするし、なにより――


「お嬢様、起きていらっしゃいますか?」


ノックと共に響くメイドの声で、俺は確信した。


「完全に……異世界転生してる……しかも……お嬢様に……!!」


「お嬢様、朝のお紅茶でございます」


スッ……メイドさんの完璧な所作で差し出されたのは、金縁のティーカップに注がれた紅茶。香りは優雅で、なんかすごく高そうだ。


「お紅茶って、お前……これティーパックじゃないやつだろ……?」


「ご冗談を。このダージリンは、お嬢様が先日『この茶葉でなければ尿と変わらぬ』とおっしゃったものですわ」


「俺そんなこと言ったの!?」


前世の自分、どんな暴君だよ!?っていうか尿って言うな尿って!


「お嬢様、今日はご学友との社交会もございます。レディとしての振る舞い、再確認なさいますか?」


「無理!オレ、男子高校生だったから!“ご学友”って誰!?社交会って何!?ていうか“レディ”って言葉が一番重い!!」


「ご冗談を。お嬢様は“微笑むだけで他人の婚約者を粉砕するレベルの女帝”でいらっしゃいますのよ」


「それ社会的にどうなの!?」


そんな混乱の中、ノックの音と共に一人の青年が現れた。


「お嬢様。お目覚めのご様子、安心いたしました」


長身で涼しげな目元、完璧な笑みと無駄のない所作――そう、これは間違いなく“執事”のテンプレ男子。


「ど、どなたですかあなたは」


「おや、お嬢様……冗談がお好きで。わたくしは執事、クロード。物心ついた頃からお嬢様に仕えております」


「物心ついた頃から!?じゃあ俺がうんちしてる時代からずっと!?」


「……はい。お嬢様の“金メッキ便器事件”は今でも忘れられません」


「えぇ……俺、そんな伝説の持ち主だったの……」


「――おほほほほ!またお会いしましたわね、“ジャスミン・ティーの貴婦人”こと、クラリス=フォン=サクラミヤ=ツチヤ様!」


「だっ……誰!?」


この世に存在しない名乗りをされた俺(クラリス様)は、つい叫んでしまった。


「まぁ、お嬢様ったら……“ご学友”でございますよ。お嬢様のライバル、アナスタシア嬢にございます」


アナスタシア嬢は、銀髪ストレートの美少女。そして目が死んでる。


「また破談になったのよ、私の婚約。あなたの“おほほほほ!”一撃で」


「ご、ごめん……ていうかそれで破談になるの!?」


「次は負けませんわ!私も“おほほ”を習得してきましたの!」


「え、それ技なの?」


「参ります!『お~っほっほっほっほっほ!』」


「こわっ!」


思わず一歩引いた俺。声量がすごいし、スカートが風圧で揺れてるし、何その必殺技感!


「――お嬢様、心してご覚悟を。今日の社交会は、“令嬢たちの紅茶バトルロワイヤル”と呼ばれております」


「どうして女子会がバトロワなんだよこの世界!」


「クロード……オレ、もう限界だよ……お嬢様って……つらい」


「……お嬢様、どうか前を向いてください。あなた様は“ツンデレの女王”でいらっしゃる」


「その称号いらない!」


「いいえ。ツンデレは高貴なる者の義務。こう言ってみてください――『べ、別にあなたのために紅茶を淹れたんじゃありませんわ!』と」


「いや、なんでツンデレ指南始まってるの!?これ修業なの!?」


「ではもう一度。どうぞ、胸に手を当てて」


「べ、べつに……あなたのために、紅茶なんか……いれてないんだからねっ!!」


「……完璧です」


「これで完璧なの!?どこに向かってるのオレ!?」


ーーーー


俺はもう、普通の男子高校生には戻れないのかもしれない――そう思い始めたある日の夜、クラリスお嬢様の日記が出てきた。


そこにはこう書かれていた。


《誰かが私の中にいる気がする。私の身体を乗っ取る誰かが……》


「……え、じゃあオレって……このクラリス様の中に“降りてきた”状態……?」


《でも、不思議と嫌ではない。だって、彼(?)は私を笑わせてくれるから》


「……俺、笑わせてたの?」


《このまま消えるのは嫌。でも、彼が“本当にやりたいこと”を見つけたとき……私はきっと、笑って送り出せる気がする》


「クラリス様……めっちゃ良いヤツじゃん……」


俺は思い出す。社交会、ツンデレ指南、紅茶バトル、全部本気でやった。誰かに笑ってもらうのが、思いのほか――楽しかった。


その瞬間、部屋が光に包まれる。


『クラリスの魂は、そなたに満足した。よって、元の世界へ戻る資格を与える』


「マジで!?クラリスありがとう!」


『ただし――“ツンデレの魂”は、永遠にそなたに刻まれるであろう』


「いやあああああああああ!!」


ーーーーー


「ハルキ、昨日は欠席だったけど、何してたの?」


「……ちょっと、金髪ロールで紅茶飲んでた」


「え?」


「ツンデレって、尊いよな……」


「お前、大丈夫か?」


俺はもう知っている。ツンデレの極意も、紅茶の香りも、そして何より――


「“誰かの人生を本気で生きる”って、尊いことなんだな……」


「保健室行け、お前」

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