隣の君(きみ)と そばの夢(前編)
外出から帰宅した私は、洗面所へ向かい、鼻歌交じりに手を洗った。カゴに置いてあった部屋着に着替えて、足取りも軽くリビングに向かう。
いた。
リビングのソファでは、先にひと仕事を終えた彼がくつろいでいた。
「ただいま!」
私は両手を挙げて帰宅の喜びを表現する。
「おかえりなさい。元気が良いのは大変結構だけど、この距離に対してその声量は適切だろうか」
ふふっ。
私は、いつもの彼の口ぶりに嬉しくなり、思わず笑みがこぼれる。
「なに?」
彼は、いぶかしげな顔をした。
「やっぱり家は落ち着くなぁと思って」
ソファに座り、すすーっと彼の隣までにじり寄る。
「いつも隣にいてくれてありがとう」
「そっちが寄ってきたんでしょ」
彼は、くわーっと大きな欠伸をした。
「君の存在は、私にとって、とてつもなく大きいのです」
私がしみじみ言うと、
「確かに大柄な方ではある」
彼はつれなく答える。
「照れ屋のキジトラ猫」
「照れたことない」
彼は間髪入れずに答え、これ見よがしに毛づくろいを始めた。
「キッジ」
「三十秒で考えた名前だね」
ぱたん ぱたん
キッジの尻尾がソファを鳴らす。
「お、尻尾が挑戦的だね。やるかい?」
「おぉ、望むところだ」
後編に続く