春告花 〜 東風吹かば、春な忘れそ
(書:辻堂安古市)
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梅の花が雪が降る中で咲き誇っている。
「学問の神様」として菅原道真が祀られている太宰府天満宮の境内には、受験生とその親らしき人達が溢れている。参拝した後にお守りや絵馬を買い求める人たちも多く、こちらも結構な行列をなしている。
こちらに来てから、もうすぐ2年。
故郷では「梅で見送り、桜で迎える」と言われていて、梅を見るとどうしても昔の事を思い出す。
彼と二人で歩いてるときに見た、あの梅の花の景色。
二人とも最初は「桜がもう咲いてる?」と勘違いしていたけど、調べてみたら梅の花だった。二人で「受験生が桜と梅の区別もつかないなんて……!」って、変に可笑しくて笑いあったっけ。それから梅が旧暦では春を告げる花として「春告草」と呼ばれていたり、花言葉が「忍耐」とか「不屈の精神」だったりするのも知って、二人で受験頑張って同じ大学に合格して、梅の花でお花見しようって約束した。
けど、ダメだった。二人とも。
彼は浪人を選び、私は志望先を変えて合格し、ここに来た。
距離が開いた私達の関係は、それから間もなく切れてしまった。
それからと言うもの、梅を見るたびに、その花の香りがするたびに「なつかしさ」と「ほろ苦さ」が心の中にこみ上げる。
「私の事を、私と同じように彼は思い出すことがあるのかな……」
私は、この時期が少し苦手だ。私のとっての春は「新たな門出」というより、「別れ」の季節だから。それでも毎年、ここに梅の花を見に来てしまう。我ながら未練がましいとは思うんだけど……そろそろこの気持ちも整理しないといけないなあ……
よし、「梅が枝餅」買って帰ろう!
こんな気持ちになるのもぜーんぶアイツのせいだ!
~♪
……着信……誰だろう?
え? ええっ? なんで今頃……?
『今どこにいる?』
「……太宰府だけど」
『そっか、やっぱり間違いなかったか』
「……どーいうこと?」
『うしろ、見て』
その声の通りに後ろを振り返った私は、スマホを思わず落としそうになった。
「……なんでここにいるの?」
「今更だけど、約束果たしに来た。遅くなって、ゴメン」
……前言撤回。
これからは梅の花を見るたびに。
花の匂いをかぐたびに。
春が来るたびに。
今のこの気持ちを思い出すだろう。
毎年二人でここに御礼参りにちゃんと来ます。
ありがとう、神様。
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こちふかば にほひおこせよ うめのはな
あるじなしとて はるなわすれそ
「春になって東風が吹いたなら、その香りだけでも私のもとへ届けてほしい、梅の花よ。主人(私)がいないからといって、春を忘れないように」
出典は平安時代後期の歴史物語である「大鏡」。
菅原道真が詠んだ句です。
一昨年夏までJR二日市駅で焼きたての梅が枝餅が買えたのです。
なんと67年も営業していたとのこと。
なくなったの、悲しい。
(花より団子かい!)
「天満宮」・・・元々は雷神「天満大自在天神」=天神サマとなって都で暴れまわっていた怨念マシマシの道真サマのお怒りを鎮めるために建てられたもの。学問の神様になったのは後の世になってからのことです。