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第一話:美桜の憂鬱

 高校の入学式。

 校門前にあった入学式の看板の前で、久々に同じ写真に収まった緊張気味のハル君は、やっぱり格好よかった。

 

 少しボサボサっとした、だけどハル君らしい快活さを感じさせる黒髪。

 凛々しいってわけじゃないけど、ずっと見てきたからこそ、どこか生意気さを感じる顔立ちも、とっくにあたしの理想系。


 正直、同じ高校に行けるのは嬉しくもある。

 だけど……。


 入学式を終えた夜。

 お風呂を済ませパジャマに着替えたあたしは、ベッドに横になりながら手にしていた写真立てをベッドボードに戻すと、大きなため息を漏らす。


 あたし、小杉こすぎ美桜みおはハル君こと、大瀬おおせ陽翔はるとが好き。ううん。大好き。


 ハル君はあたしの幼馴染。

 家がお隣同士だったから、物心が付いた時には一緒に遊んだり、家族ぐるみで出掛けたりなんかもしてて、お互い仲は良かったと思う。

 小さい頃からハル君はほんと元気で、生意気で、ちょっとおっちょこちょい。

 でも、泣き虫だったあたしを慰めてくれたり、お母さんに怒られる所を助けてくれたりもしてくれて。気づいたら、あたしはハル君のお嫁さんになりたいって思ってた。


 それが、あたしの早すぎる初恋であり、恋心は今でも変わってない。


 ハル君に相応しい女の子になりたい。

 ハル君とずっと一緒にいたい。

 いつしか、それはあたしの夢になった。


 髪が綺麗だねって言ってくれたから、少しずつ髪を肩まで伸ばし、しっかり手入れしてきたし。中学に入る頃には、お肌のケアも欠かさず頑張って、女の子らしくなろうって頑張ってきた。

 毎年ハル君と一緒に行く初詣でも、ずっと一緒にいられるようにって、一生懸命お祈りして。効果があったのか。無事に同じ高校にも進学できたけど……。

 あたしはまたため息を漏らすと、改めて写真立てを手にして、二人が収まっている写真を見た。


 入学式の看板を挟んで左右に立つ、あたしとハル君。

 他人が見たら、きっと笑われそうなその一枚には、あたし達の非情な現実が写っている。

 

 ……なんであたし、こんなに背が伸びてるのよ。


 あからさまに、彼より大きい自分の姿。

 隣でハル君を見る時だって、見下ろす羽目になって辛いのに。写真で見ると身長差がより強調されてて、一層悲しくなる。


 あたしの身長は、百八十五センチ。

 女子どころか、男子の平均すらあっさり抜き去るくらいに成長した自分の姿は、あたしの一番のコンプレックス。


 中学校に入ったくらいから、何故か一気に身長が伸びちゃって、中三の頃に男子に付けられたあだ名は『プチ八尺様』。

 いや、プチって何よ。プチって。まあ、普通に八尺様って呼ばれたって、絶対ムカつくけど。


 あの時も、ハル君はそう言って馬鹿にしてきた男子に怒ってくれたし、あたしに「気にすんなよ」って慰めてくれて、やっぱり格好良いなって思ったけど。

 同時に、ハル君もこんな悩みを持ってるんだよねって、ちょっと悲しい気持ちになる。


 写真に写るハル君は、身長が高いあたしと比べたら、やっぱり小さい。

 でも、それはただ小さいんじゃない。()()小さいの。


 あたしと彼の身長差は、なんと四十センチ。

 つまり、ハル君の身長は男子の平均を遥かに下回る、百四十五センチしかない。


 彼の身長が伸び悩み始めたのは、私と同じく中学校に入ってから。

 ぴたりと身長が伸びなくなって、クラスで列を作る時は常に一番前。

 一時は『チビ猿』なんて酷い呼ばれた方をしたのも、ある意味あたしに似てる。


 で。一気にあたしと身長差が開いたせいかもしれないけど。中学二年くらいからかな。ハル君が、学校でも少し余所余所しくなった気がするの。


 その頃にはあだ名で呼ぶ子もいなくなって、お互いに同性の友達もいたから、それぞれ友達とよく遊んでたっていえば、そうなんだけど。

 高校受験の時。近くの高校に行くと思ってたハル君が、まさか電車で一時間も掛かる高校を受験するなんて、思ってもみなかった。

 千景ちかげおばさんが教えてくれなかったら、あたしはきっと同じ学校に行けなかったかも……。


 あ。千景おばさんっていうのは、ハル君のお母さんね。

 凄い気さくで優しいんだけど、同時にあたしの恋心も知ってて、ハル君に内緒でこっそり応援してくれてる。

 でも、そんな千景おばさんも、ハル君が今の高校を受験した理由、教えてもらえなかったんだって。


 自分のお母さんにも理由を言わない。

 それって、あたしに漏れたらいけない理由が含まれてるんじゃって、実はずっと不安。


 ……もしかして、あたしの事避けてるのかな。

 やっぱり、大きい女の子と一緒なのは嫌なのかな……って、不安な気持ちが大きくなる。


 一応、今日の入学式の帰りにハル君()の車に一緒に乗せてもらって、みんなで帰ってる途中。


  ──「明日からも、一緒に学校に行こうね」


 そう伝えたら、隣に座ったハル君は笑顔で頷いてくれた。

 だから杞憂だって信じたい。信じたいけど……って。もうっ。考え過ぎちゃ駄目。

 これからも、ハル君と一緒に学校に行けるんだから。素直に喜ばなきゃ。


 そう自分を励ましてみたけれど。

 四十センチの身長差のせいで、大きい身長に似合わないくらい、あたしの自信は小さく萎んじゃって。

 不安になってはため息をくのを繰り返している内に、気づけば夜も随分更けて。


 ──翌朝。

 あたしは思いっきり寝坊した。

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