勝也の敗北 ~テニス編~
「ジュース!」
飲み物ではない。テニスの決勝戦でのコールだ。
つまり、同点で今後はポイント連取したほうが勝ち、という意味のコールだ。
勝也のサーブ。
得意のセンターギリギリを攻め、意表を突かれた修はボールに届かず、勝也はガッツポーズをする。
絶対に勝つ。
勝也の脳裏に、昨日、修が美奈と楽しそうに歩いていた姿が浮かぶ。
あんな泥臭い修なんかに美奈が惚れるはずがない。
修に勝って、美和を映画に誘うんだ。
「アドバンテージ、サーバー!」
勝也が1ポイント先取しており、続けて勝也がポイントを取れば勝ち、という意味のコールだ。
勝也はコーナーを攻める打球を打った。
修が打ち返す。
ここで勝也は、今まで一度も試合で使っていない、スーパードライブショットを打った。
秘技ってやつだ。
修は棒立ち。
勝った。勝ったぞ美奈!
コート脇を戻っていると、美奈が小走りでやってきた。
勝也が声をかけようとすると、
「修!惜しかったね」
「いや、完全に俺の負けだよ。あんな技が出るとは思わなかった」
修に駆け寄る美奈。
「何だよ、勝った俺には一言も無しかよ」
「あっ、勝也・・・、おめでとう」
「よそよそしいな。お前ら付き合ってるのか」
「うん、実は昨日から・・・」
照れる修。
「一生懸命練習する修を応援しているうちに・・・」
照れる美奈。
「なっ!・・・そうかよ。幸せにな」
砕け散った勝也。
秘技なんて狙わずに堂々と隠れずに醜態をさらして練習すれば良かった。
何のための優勝だ。
試合に勝って、勝負に負けた勝也だった。