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第1王女の命令で第3王女を殺しに来たのに、第1王女に惚れてしまったので第3王女を守ります

作者: 八艘宗八


「来たのね」


「ギルドで最も優秀な暗殺者。『名無しの男ネームレス』」


「何一つ痕跡を残さず、依頼人と自分の正体を掴ませない霧のような男」


「誰一人として、貴方の素顔も名前も声すら知らない」


「貴方のことを一番知っている者がいるとすれば殺されたターゲットだけ。ふふ、だってそうよね。刃で貫かれた者だけが、貴方に最も接近出来るのだから」


「殺しの依頼よ。『名無しの男ネームレス』」


「私の妹を、第三王女シャンティ=ファラン=ベルリア=ルーンベリーを、殺しなさい」

 

「アレは不出来な癖に、眉目秀麗なプロシュット王国のルベール王子と婚約したの」


「だから、私、アレを殺して、その王子は私の物にするって決めたの」


 そう冷たく言い放ったのは、巻いた金の髪を棚引かせ、高貴な衣装に身を包んだ女性。


 ターゲットの姉、第一王女ムース=ファラン=ベルリア=ルーンベリー。


 第一王女の中で燻っていた火種に、ついに火が灯った。

 身内を、妹を殺すという禁忌。第一王女には、それなりの理由があるのかもしれない。


 しかし、そんなことは、第一王女の目の前で跪く暗殺者には関係がない。

 彼は暗殺者として、依頼人の要望を叶えるだけ。

 そこに、彼の意思は存在しない。


 返事もせず立ち去り、任務を遂行する。

 これが、『名無しの男ネームレス』と呼ばれる彼のスタイル。


 だが、彼は顔を上げ、目線を第一王女に向けると、そのまま石のように固まっていた。


「どうか、俺のことはアムレートとお呼びください」


 それは『名無しの男ネームレス』と呼ばれる男の本名であり、

 口元のマスクを下げて表した顔もまた素顔であり、

 常に張っていた緊張と警戒の糸は簡単に解かれてしまった。

 

 何故、そうなったか。


 貴賓のある見た目。立ち振る舞い。口の悪さ。死者を嘲る性根の悪さ。肌に触れただけで首が飛ばされそうな威圧感。依頼の動機。


 それら第一王女の要素は、

 睨んでいるように見える三白眼の暗殺者の男を、一目惚れという沼に引き摺り込んだのだった。




「依頼の通り、このまま第三王女(妹さん)を殺してしまったら、第一王女(お姉さん)第三王女(妹さん)の婚約者プロシュット王国の王子と結婚してしまう」


「だから、俺は第一王女(お姉さん)暗殺者()を使った略奪愛を防ぐ為、第三王女(妹さん)を守ることにした」


 朝日が登るまで幾許か猶予のある夜更け時。

 月に照らされた寝室で、俺は思いの丈を語る。


 誰もが寝静まる時間帯、俺の初々しい恋と今後の方向性を聞かされている者がいた。


「私にそんなことを仰られましても……」


 うとりうとりとした瞼に込めながら答えるのは、身も麗しい長い金髪の女性。

 第三王女シャンティ。今回の暗殺依頼のターゲット、その人。


 俺は暗殺と同じ要領で、城にあるシャンティの部屋に忍び込み、シャンティと接触した。

 無論、俺の心情を知らないシャンティは突然現れた闖入者を前に大声を出しそうになっていたが、そこは『名無しの男ネームレス』としての面目躍如、シャンティに声を出させないなど造作もない。


「お姉様が私の命を狙っているというのは嘘ではないのでしょう。それが本当であるという理由も心当たりがあります。お姉様が私をどうしても殺したいと言うなら、私は……」


 自己犠牲の精神か、はたまた姉に狙われているというショックからか、儚げにシャンティは呟く。


「ダメだ。妹さんに死なれては俺が困る。妹さんは生きて、プロシュット王国の王子と結婚しろ」

「……貴方様が、暗殺依頼を断るのでは、いけないなのですか?」

「あぁ、それでは意味がない。俺が暗殺依頼を辞めれば、他の暗殺者が用意される。同様に俺が暗殺依頼を達成せず引き伸ばしにしてもそうなるだろう」


 暗殺者は俺だけではない。

 ましてや、第一王女ムースは多額の報酬を用意しているのだ。


「どうすれば、妹さんが死なず、俺が恋を成功させることが出来る?」


 一拍の間。


「……どうして私に聞くのですか?」


「俺に協力するしか妹さんが生き延びる道がないからだ」


 『名無しの男ネームレス』と呼ばれる俺には友人知人家族が存在しない。

 つまり、この初恋の悩みを相談する相手がいないのだ。


 なので、ムースの妹でありターゲットでもあるシャンティは相談相手としては完璧で。


 断られれば、俺は恋を叶えられず、シャンティは死ぬ。

 逆に俺の恋が成就すれば、シャンティを殺す動機が無くなり、シャンティは生きる。


「分かりました、協力致します。第三王女ですから、私に役に立てる力は少ないでしょうが」

「構わない。妹さんのことは俺が必ず守る」


 深夜の突然の出来事で混乱していたシャンティだったが、どうやら一旦は、この状況をひとまず飲み込んだようだ。


 俺は俺で安心感のある言葉を放つが、正直、ムースへの下心しかない。


「なら、始めにだが、俺がこの暗殺任務に手古摺っている理由を考えなければならない。最初に暗殺の為の調査時間が欲しいと言っているが、その時間も無限ではないからな。長すぎると怪しまれる」

「それはそうですね……あの、貴方様は優秀な暗殺者ということですが、そもそも今までに暗殺が失敗したことはあるのですか?」


「ない………………いや、幼い時に一度だけあったな」

「それはどうして?」


「ターゲットに大男の護衛が付いていた。ターゲットへの接近を勘付かれた俺は、護衛の男の首に剣を突き刺したが、その当時は、まだ力が無く、即死させることが出来なかった。それで、反撃を喰らって、撤退した」


 三日後には完遂したが、失敗と言われれば失敗。

 しかし、それは幼い時で、『名無しの男ネームレス』と呼ばれるようになってからは、一度も失敗はしていない。


 その話を聞いたシャンティは、何かを思い付いたのか口を開く。


「それでは私に護衛を付けましょう」

「…………俺は優秀な暗殺者だと思われている。そんな幼い頃の言い訳を使っても不審がられるんじゃないか?」


「普通の護衛なら、そうかもしれません。ですが、護衛もまた優秀であるとすれば、いかがでしょう? どちらも優秀であるが故の矛盾。これならば、お姉様に暗殺出来なくて仕方がないと思って頂く事が出来るかもしれません」

「なるほど……アテがあるのか?」


「えぇ、一人だけ。『王の盾』と呼ばているルーンベリーきっての最優の騎士、ジェイゴルド様でございます」


 ルーンベリー王国が誇る騎士団。

 その中でも際立っていた戦果を挙げたジェイゴルドは、王の目に止まり、王を守る近衛として重宝された。

 それから二十年に渡り、『王の盾』として如何なる暗殺者をも退け続けている傑物であった。


「分かった」


 案を提供したシャンティだったが、俺の返答が意外とばかりに驚いた顔を見せる。


「いえ、しかし……すみません、そうは仰られましても、お父様を守る騎士なのです。あの方が、第三王女たる私の警護に付き続けることなど出来ません。ですのでこれは机上の空論、他の策を考えた方が……」


「問題無い。手を一つ思い付いた。待っていろ」


 そう言い残し、静かに夜明けと共に姿を消した。


 

 二度目の謁見は夜の始めに行われた。


「来たわね。アムレート、今日はどんな用かしら? アレを殺す日程でも教えに来てくれたのかしら」


 俺の雇用主、第一王女ムースは俺に目も向けず、部屋に咲いた花を手折り、鼻に近づけ香りを嗅いでいた。


 俺は侵入した窓から足を降ろし、部屋に入り込む。


 第一王女による、妹殺しなど知られては王家の品位に関わるので、これは極秘も極秘の依頼であった。

 なので、暗殺者である俺がムースと会うには、ムースが人払いをし終わった合図を確認し、窓から侵入するという手間を踏んでいた。


 有り触れた暗殺者と雇用主の密談方法だが、まるで恋人同士の逢い引きのようで、独りで心を踊らす。


「それなんだが……第三王女は護衛を雇ったようだ」

「なんですって!」


 俺は第三王女シャンティが護衛を雇った経緯(事前に決めておいた)、そしてその人物が『王の盾』と呼ばれる騎士であることを伝えた。


 俺の報告を受けるムースは思わず手に持った花をへし折り、最終的にムースは花を放り投げ、ガンガンと地団駄踏んでいた。


「まさか、私が命を狙っていたのに気付いた? いいえ、そんなことは有り得ないわ。この計画は慎重に進めていたのよ……ただ運が良いっていうの? シャンティめ」


 あぁ、悔しがる姿も可愛いく、また愛おしい。

 その悩みを取り除いてあげたいが、その種を蒔いているのも自分なので、どうすることも出来ない。


 普通に考えたら、真っ先に俺を疑いそうなものだが、『名無しの男ネームレス』と呼ばれる程の暗殺者が、裏切るなんて夢にも思わないのだろう。


 『名無しの男ネームレス』なんて、勝手に呼ばれている称号だが、この時ばかりは、そう呼んでくれた見ず知らずの人達に感謝した。


「しかも護衛が、あの『王の盾』……厄介な相手ね」


「護衛が誰だろうと、第三王女を殺すのは可能だ……だが、万が一、奴が抵抗し『王の盾』とも有ろう者が怪我でも負えば、国家の威信に関わるのではない?」


 勝てるが殺さない方が良いという風に演出する。

 俺の格が下がり、ムースから嫌われたりクビを宣告されない為の策である。


「そう、ね……それにしても『王の盾』が、どうしてアレになんか……」

「どうやら『王の盾』自身が第三王女の危険を悟って、志願したようだ」

「なんですって!」


 嘘。

 いくら『王の盾』と呼ばれる程の傑物であったとしても、ジェイゴルドに未来予知染みた能力は無い。

 なので俺がジェイゴルドの自宅に侵入し、密約を交わしたのだ。

 具体的には、彼が休みの日に綺麗な奥さんと二人の子どもと楽しく遊んでいる中、彼に接近し、『とある証拠』を突きつけ脅した。


 どんな実力者であったとしても、一度ボロが出てしまたら零落するのは一瞬。


 この脅しが俺一人なら、俺を切って仕舞えば終わりだったのだろうが、バックに第一王女及び第三王女が付いていて、尚且つ第一王女が第三王女を殺そうとしていると聞いた彼は、俺の指示に従うしか無かったのだった。


「いえ、流石は『王の盾』と言われる男ね。将来私の盾になる男が、こんなにも今はこんなにも鬱陶しいなんて。私が王になったら、真っ先に取り潰してやるわ!」


 このまま、シャンティの暗殺を諦めたとなれば、俺はクビになりムースと出会う機会を失うのだが、


「ふふふふふふふふ」


 恨みと誇りが混じった高笑いが部屋に木霊する。


「アムレート、少し待機しておきなさい。『王の盾』は私がなんとかするわ」


「シャンティ、見てなさい。その程度の妨害なんて、押しのけてやる。ルベール王子は私の物よ」


 第一王女ムースに『諦め』の二文字は存在しなかった。


 勝ってもいないのに、あんな笑いをして。

 逆境と困難でもなんとか出来るという、根拠なき自信。


 あぁ、いい。


 ムースが天から与えられた使命に燃えたぎるように、俺もまた彼女の姿に高揚した。



 そして、数時間後、同じ城の別の部屋に忍び込んだ。

 時刻は夜明け前、第一王女は俺と会ってから寝るが、今目の前にいる人物は俺に起こされ、そのまま朝を迎える。


「時間は稼げたということなのですね。しかし、お姉様は私を殺すのを諦めはしなかった、と」

「壁が高くなればなるほど、恋の炎が燃え上がるタイプのようだ。痛いほど気持ちは分かる。俺も同じ気持ちのようだからな」

「お姉様が、そこまでルベール王子を気に入っていらしたとは、知りませんでした」


 いつもより早く寝て、俺の来訪に備えていたシャンティは前に会った時より、声にハリがあった。


「……」


 思い付くのは、ルベール王子を暗殺してムースの想いを無理矢理終わらせるという手段だが、ムースに嫌われたくない。

 仮に恋が実ったとしても、あの性格上、今度は俺を目の敵にして、暗殺者を放つ可能性もある。俺はムースと添い遂げたいのであって、殺されたくはない。

 

「いったい誰を殺せば、彼女は喜んでくれるんだ」

「誰かを排除するのではなく、好かれるように動かれてはいかがですか?」


「ん? それはどういうことだ」

「いえ、ですから、殺すこと以外でも貴方の良さをアピールすることは出来るかと」


「なるほど」


 目から鱗とはこのことか、考えてもみなかった案に驚嘆し策を練ることにした。



「お父様に掛け合ったけど、『王の盾』はの緊急の時以外は好きにさせるという事で、アレから遠ざけられなかったわ」


 いつもの時間帯、夜の始まりに俺はムースの部屋に忍び込んでいた。


「あぁぁあ、どうしたらいいのかしら!」


 整えられた髪を掻き乱し、苛つきを露わにするムース。


 悩んでいる様も可愛い。

 一言一句の声色が、俺の心をドキドキさせる。


 だが、心を揺らすのは、ムースの言動だけじゃない。


 ムースは俺が暗殺依頼の近況を聞きに来たと思っていだろうが、俺が今日ムースに会う約束を取り付けたのは、もっと重要な案件があるからだ。


 俺のことを意識して貰う、という超難関ミッションを行う為だ。


「た、偶々、街で人気のマカロンを買ったんだが、食べるか?」


 俺は懐に隠していたお菓子の箱を取り出し、近くにあったテーブルの上に置いた。


「マカロン……ふん、気が効くのね。優秀な暗殺者は、依頼人の機嫌を取るのも上手なのね」


 強気な口調と裏腹に、俺が箱の包みを開けるのを目を輝かせて待つムース。

 俺に近付いたことで、ムースの香水が鼻腔を刺激する。

 少し緊張し手先が震えるが、腐っても暗殺者、どんな状況であろうとターゲットを|解ききる(殺し切る)。


 箱を開けると、ムースは少し逡巡し、一つのマカロンを選び取った。


「うーん、美味しい」


 オレンジ色のマカロンを小さな口で齧るムース。


 この作戦は第三王女シャンティと事前に打ち合わせておいたもので、ムースがマカロンが好きな事も、お気に入りのマカロンのお店も、シャンティから聞いたもの。

 それを伝えたら激昂するんだろうなと思いつつ、余計な事は言うまいと、口を固く閉じ直す。


「お茶が飲みたいわね。ねぇ、アムレート、そこにティーポットあるから、淹れて頂戴」

「……わかった」


 俺は指示に従い、紅茶を準備した。


「どうぞ」

「ん……美味しい」


 想像を超えたのか困惑と喜びの混じった顔を浮かべるムース。


 暗殺者である紅茶を作らされる可能性、そんなのは想定内で、もちろん、練習した。

 ただ湯を沸かし、茶葉を突っ込むのが紅茶ではない。

 お湯の温度に、茶葉を蒸らす時間など気を付けなければいけない箇所があることを、シャンティに教えられ、シャンティの部屋で永遠と紅茶を作っては味をチェックして貰った。


 念の為にと、努力して良かった。


 美味しい紅茶に菓子と、両方ともパクパクと食べるムースはリスみたいで可憐。


「褒美に、一個だけ食べて良いわよ。そうね、この黒いのをあげるわ。可愛く無いし」

「あぁ」


 マスクをズラし、黒のマカロンを頬張る。


 甘い。

 マカロンも、この二人でテーブルを囲んで深夜のお茶会をしているということも。

 自分が暗殺者で、彼女が依頼主であることを忘れてしまいたくなる。


 この映像を切り抜いて永久に飾っておきたい程、幸せな時間。

 しかし、色取り取りのマカロンが姿を隠せば終わる僅かな、ひととき。


 ムースの機嫌が良いと思った俺は、更に畳み掛ける。


「どうして、プロシュット王国の王子の事を好きになったんだ?」


 好きなヒトの好きな男のことなんて、全く聞きたく無いが、情報には価値がある。

 ムースのことを知る為にも、避けては通れない壁。


「アンタには関係ないでしょ……って言いたいところだけど、このマカロンに免じて、許してあげる」


 ムースは、口に付けていたティーカップを机に置いた。


「アレが好きになった男だから、奪いたいの」

「……それだけ?」

「えぇ」


 略奪愛という奴だろうか。

 徹底的な悪女。

 普通に、どうかしているような理由だが、自分も同じようなことをしようとしているので、一切嫌悪感はない。


 むしろ、そんな理由で心底安心した。


 一目惚れだとか、昔から愛を誓い合っていたとか、死にかけた所を助けて貰ったとか、致命的でドラマチックな理由なら、俺も手を引くか悩んだかもしれない。


「そうだ! イイコト思いついた。今回の縁談を破談にさせるってのはどう? 王子がアレのことを嫌いになればいいのよ!」


 キラキラと顔を輝かせ、妹の恋路を邪魔する案を思い付く姉。


「アムレート、アンタ、暗殺者ってことは隠密が得意なんでしょ。だったら、工作兵みたいなことも出来るわよね。ルベール王子に接触し、あることないことデッチあげて来なさい」


 割と無茶な要望。


 マカロンと紅茶の件で、ただの暗殺者から、何でも出来る暗殺者にランクアップしたようだ。

 一歩前進したようで、嬉しい。


「ちょうど七日後、ルベール王子がこの国の舞踏会招かれてるの。そこで、アンタからアレの悪い情報を聞いた王子は不信感を抱き、アレを皆んなの前で振る」


「あぁ、あぁ、なんて素晴らしい筋書きなのかしら。私、劇の才能もあるのかもしれないわ!」


 興奮したように顔を赤らめるムース。

 子どものように無邪気に喜んでいるが、望むのは身内の不幸。

 そのアンバランスさの原動力は、どこから来たものなのか。


 俺は、彼女のシナリオを聞きながら、そう『愛おしく』思った。



 夜明けを待ち、決まったルーティーンのように、第三王女シャンティの部屋を訪れた俺は、『お姉様の好きな物を差し入れ、歓談を試みる』作戦の結果を伝えた。


 紅茶を淹れる所くらいまで、自分のことのように喜んでいたシャンティだったが、ムースがルベール王子を奪う理由を聞いてからは、顔の色を戻した。


「そうですか、お姉様はそう仰ったのですね……やはり私は死んだ方がいいのかもしれません」


 自分に言い聞かせるように、第三王女シャンティは呟く。


 そういえば、ソレは最初に会った時も言っていた。


 大切な家族の願いに対する自己犠牲かとも思ったが、望んだ縁談があるのに、姉の為に死んでも良いと言う妹がいるのだろうか。


「どうして、そんなに仲が悪くなった」


 この問いに全てを込めるように尋ねた。


「貴方は、私のもう一人のお姉様……この国の第二王女シューラのことはご存知ですか?」

「いや」

「シューラお姉様は、本当に優しく可愛らしい方で、私もムースお姉様も愛していました」


 俺はこの国の人間では無く、多くの情報を持っている訳ではない。

 知っているのは、このルーンベリー王国には二人の王位継承者がいるということだけ。


 だから気にしていなかった。

 第一王女と第三王女の間にいる人物のことなど。


「そのシューラお姉様を、私が殺したんです。だから、ムースお姉様は、私の事を殺したいんですよ」


 そう言い切るシャンティは灰色の笑顔だった。




 隣国の王子ルベールを招いて行われる舞踏会までの間、俺は度々第一王女ムースに呼び出されては、第三王女シャンティに対する悪口リストの覚え込みを行った。


 悪口リストと言っても、書かれていた内容の殆どが、禿げてないのにハゲと言ったり、オマエの母ちゃんデベソ、といった、子どもが喧嘩した時に雑に吐き捨てるような悪口だった。


「ふふふ。これで、アレも終わりよ」


 いつものように根拠の自信に満ちた悪意の笑み。

 どんなに下らない内容でも、俺は非常に癒されたのだった。


 そして、舞踏会の幕が上がる。



 ルーンベリー王国で行われる舞踏会。


 それは王侯貴族が招待客として列席し、並べられた豪華な料理や耳触りの良い音楽を楽しむだった。


 そして、そこに遅れながら登場したのは艶やかな金髪の男。


「やぁやぁ、皆皆様麗しゅう。ルベール=オーラ=パリストン=プロシュットが参ったぞ」


 一目見て軽い感じと思える男。

 この男こそ、プロシュット王国の王子であり、シャンティの婚約者である。


 何人もの貴族が挨拶を済ませた後、合間を縫うようにシャンティがルベールに近づいた。


「ルベール様、お久しぶりでございます」

「おぉおぉ、これはこれは、我が麗しの君。シャンティ姫、息災であったか?」

「はい」


 物静かな至宝の姫と、煩そうだが明るい二枚目の王子。

 絵になる二人だ。是非そのままゴールインして欲しい。


「ルベール王子!」


 もちろん、その二人に割って入る邪魔者は存在する。

 俺の片想いを気にもせず、ルベールに声を掛けるムース。


「これはこれは、ムース姫。姉君もいつもながら、お元気そうで」

「えぇ、貴方もね、ルベール王子…………姉君。今は、ね」


「何か言ったか?」

「いいえ、なんでもありませんわ。それではこれで失礼、ルベール王子、今日は楽しんで下さいね」


 いつも俺に見せるのとは違う、屈託の無い笑み。

 裏を知っているので、あの笑みが作り物だと分かるが、それもまた良い。


 ムースは遠目で様子を伺っていた俺のすれ違い様に、


「覚えたわね。あとは任せるわよ」


 と呟いた。

 シャンティの悪口をルベールに吹き込み婚約を破棄させる。

 その任務のゴングが鳴った事を意味していた。


 夜も更け、並べられた料理も数を減らした頃。


 ムースは俺をチラリと見てきた。

 恐らく、任務が上手く行ったのかを確認する為だろう。


 俺は静かに頷き返す。


 すると、ムースは立ち上がり、両手を叩いた。

 舞踏会を盛り上げる為の演奏は中断され、その場にいる全員の視線がムースへと注がれる。


「皆様、本日は舞踏会に参加頂きましてありがとうございます。父に変わって感謝をお伝えいたします。まだまだ楽しみたいという所ですが、まもなくお開きとさせて頂きたく存じます」


 招待客達は満足そうにも、後少しゆっくりしたいとも思える表情でムースの言葉の続きを待つ。

 ムースは大きく息を飲み込み、近くにいた、ルベールに声を掛けた。


「ルベール王子。一つお願いではあるのですが、最後にお好きな方と一曲踊っては頂けませんか?」

「あぁ、構わない。今宵は楽しかったな。素晴らしい舞踏会の締めとして、我が踊りを皆々の前で披露するとしよう」


 これからが、今日という日のムースにとってのメインディッシュ。

 シャンティへの不信感や嫌悪感を募らせたルベールは、シャンティの手を取ることがない。

 それに驚いたシャンティが声を上げると、ルベールは聞かされた悪口をシャンティに問い、怒りのまま縁談を破棄する。


 これがムースがシャンティに恥を掻かせる為のシナリオの全貌であった。


「それでは」


 ムースは右手をルベールの前に出す。

 シャンティを切れば、ルベール王子に釣り合うのはただ一人。そんな表情。


 が、それはルベールの視界には入っていなかった。


「シャンティ姫! シャンティ姫はいるか!」

「は?」


 周りにいた貴族達はシャンティを探し見つけると、大きく後退り、シャンティを浮き立たせた。


「はい、ここに」

「おぉおぉ、月に照らされた白のバラのような君よ。どうか、芳しい花の蜜に誘い出された愚かな蜂と一曲踊っては頂けぬか?」


「えぇ、もちろんでございます」


 周りに注目されるのを照れくさそうに、シャンティは笑顔でルベールに応えた。


 婚約者同士の華やかな踊りは演奏と共に始まった。


 誰もが美男美女に目を奪われている中、憤りを露わにしたのは、ムースただ一人。


「こ、これはどういうこと……何も変わっていない。あんなことを聞いて、なんで!」


 きっと思い当たる事があったのだろう。ムースは首を左右に揺らし、何かを探す素振りを見せたが、見つけられない。


 必死に探しているようだが、俺はもうムースが見つけやすい場所にはいなかった。

 暗殺者として磨いた隠密を駆使して、決して見つからない場所からムースを見つめていた。



 二人の踊りは無事に終わり、舞踏会もまた終わりを迎えた。

 客人が続々と帰路に着く頃。

 舞踏会の会場となっている城の広間には、城の近くに家がある上流貴族と王族達が残っていた。


 そんな中、仲睦まじく話していたのは、婚約を誓った二人。


「シャンティ、すまないが少し君の部屋に行ってもいいかい? 渡したい物があるんだ」

「はい。ご案内致します」


 そのままルベールはシャンティと並び、城の中へと進む。

 何度かの角を曲がり、件の部屋に辿り着くと、そのままシャンティの背を押すようにして、二人で部屋に入った。


 その二人の一部始終を遠目で見ている者がいた。

 その人物は少ししてから、カツカツと靴を鳴らしノックもせずその部屋の扉を開けた。

 

「失礼いたしますわ! ルベール王子! 少しお聞きしたい事が!」

 

 先程の気に食わない結果に、怒りを露わにしたムース。

 いなくなった暗殺者の代わりに訳を直接ルベールから聞き出そうと押し入ったのだった。


「暗い……なんで?」


 しかし、ルベールとシャンティが入ったはずの部屋は暗闇。

 暗くて誰がいるかも分からない。


 部屋を間違えたかと思ったムースは外に出ようとしたが。


 開けていたはずの扉が独りでに閉まっていた。


「なんなの? 開かない……こら、開けなさい。どういうつもり。この私を閉じ込めて、どうなるか分かっているでしょうね!」


 ガンガンと扉を叩くが扉はびくともしない。


 ムースが閉じ込められたと自覚するよりも先に彼女に声が掛かった。


「……お姉様」


 いつの間にか、明かりが灯った部屋の奥、立っていたのはシャンティ。

 それ以外には誰もいない。一緒に入ったはずのルベールも忽然と姿を消していた。


 異変はそれだけでは無かった。


 シャンティの手に握られていたのは、鋭い銀の刃。


「そのナイフ……そう、やっぱりアンタは私の企みに気づいていた。ということかしら?」

「はい。幸運の巡り合わせのお陰です」


 ルベールがどこにいるかなどに気を回す余裕は、ムースの中にはもう無かった。

 シャンティが凶器を握っていることで、狩る側であった自分が、獲物に落ちたことを理解していた。




「ルベール王子と共謀して、ルーンベリーの第一王女である私を殺す。そうなれば、ルーンベリーの残された血筋はアンタだけ。後は父上が亡くなった後に、この国をプロッシュットに売り渡す。差し詰め、このルーンベリーはアンタの嫁入り道具ということになるのかしら」


 ムースは静かに推測を巡らせる。

 対するシャンティは無言。言葉を返さない。


「アムレート……状況から察するに『名無しのネームレス』もアンタの手駒で、『王の盾』もきっとそう。私は何も知らずにアンタの手の平で踊っていた……アンタを甘く見ていた私の負けね」

「お姉様……」

「アンタの話なんて何一つ聞くことはないわ。殺すなら、さっさと殺しなさい」


 全てを諦めたようにムースは下を向く。


「お姉様は私のことを恨んでいらっしゃるのですか?」


 シャンティが何を言っても反応するつもりが無かったムースだったが、その言葉を前に顔を持ち上げる。


「なんですって?」

「いえ。私がシューラお姉様を殺した事を、まだ根に持っていらっしゃるのかと思いまして……もう七年も前の話だと言うのに」


 冷ややかな薄い笑みがムースの目に入った。


「過去に髪を引っ張られ、前を向けないムースお姉様。あぁ、なんて可哀想なのでしょう。これでは死んだシューラお姉様が悲しまれますよ」

「シャンティ、アンタ!! 何をふざけたこと言ってんのよ!!」

 

 激昂し掴み掛かろうとしたムース。

 しかし、その手は届かない。

 シャンティはナイフの切先をムースに向け、静止させた。


「私は昔、お転婆でした。城の中も外も走り回り、野で蝶などの虫を捕まえるような、やんちゃな性格。ムースお姉様は姫らしくあれと、よく怒ってて、泣く私をシューラお姉様が慰めてくれた」


「私とムースお姉様はしょっちゅう喧嘩をして、それをシューラお姉様が止めて仲直り。そんな三姉妹。周りには仲が悪いと思われていたようですが、私はそうは思っていませんでした」


「そんなある日、私はシューラお姉様を誘い、水遊びに行きました。これが全ての原因」


 シャンティは目の前のムースではなく、どこか遠くを見つめる。


「私は魚を捕まえる為に潜ったり、川の流れに逆らって泳いだりと、川遊びを楽しみ、一方シューラお姉様は、私を眺めながら話をしたり本を読んだりと別の楽しみ方で時を過ごしました」


「そして、一つの出来事が起こったのです。朝から夕方まで、ずっと遊び通しだった私は疲れに気づかず、足が攣り溺れてしまいました」


「川底から腕が伸び、私の足を掴む感覚は今でも覚えています。息が出来ず頭が回らず、ただ助けを求める声と共に水を飲んでしまい、更に体は沈んでいきました」


 死との邂逅。

 誰かの死ではなく、シャンティ自身が初めて出会った自身の死。

 どんなに踠き苦もうとも、自分ではどうすることも出来ない状況。


「私が溺れたことに気付いた、シューラお姉様は……私を助ける為に川に入り、命と引き換えに私を……」

「そうよ。シューラはアンタを救う為に命を投げ打った……シューラは泳げないというのに、沈んでいくアンタを見て飛び出したっ」


 ムースはまるで、その場面にいるかのように話す。


「知っているわ。だから……それがなんだって言うの! アンタはシューラが泳げないのに川遊びに誘った! 馬鹿みたいにずっと遊んで力尽きた! だから! シューラは死んだのよ」


 ムースの目に薄らと浮かぶ涙の粒。


「これは不幸な事故なんだって、私は私に何度も何度も言い聞かせたわ。それでも、私はアンタを許す事ができなかった」


「アンタがシューラを殺した、その事が頭から離れなかった。私は幸せの欠片を失ったのに、アンタは第三王女という理由だけで国を捨て、好きな王子と添い遂げる。そんな幸せが許されて良いはずがない……」


 狼狽しながら、噛み付くような目つきでシャンティを睨むムース。


「あの時、貴方が死んでいれば……ッ!」


 雨を受ける泥のように濁った声色。

 その言葉は感情に流されるままにムースの口から出ていた。

 ずっと思っていたムースだったが、あの事件以降シャンティと関わりを薄めた事で、決して口には出せず、心の底に沈んだはずの言葉だった。


「はい、そうです。私があの時、静かに死んでいれば、シューラお姉様は死ぬことは無かった。ムースお姉様も悲しみを背負う事が無かった」


 シャンティは物寂しそうな笑みを浮かべ、手に持っていたナイフを投げ捨てる。


「だから、私の命で、ムースお姉様が救われるなら、どうぞ、好きにしてください」


 目の前に滑ってきたナイフ。

 ムースは震える手で、それを拾う。


「私には私の罪は裁けない。ムースお姉様なら、きっと」


 一歩、一歩、とシャンティに近づくムースのナイフを握る拳は固くなっていく。


「今も昔も愛しています、ムースお姉様。どうか、お幸せに。もし宜しければ、ルベール様のことも、大切にしてあげてください」


 シャンティの言葉は最期にしては明るいもので、

 目から溢れる涙は温かく、その満面の笑みは、心からムースを想っているように思えた。


 ムースが振りかぶったナイフはシャンティの胸元へと。


「……できない。私には、アンタを殺せない」


 カチャンと、刃物が床に落ち、ムースもシャンティの前で倒れるように膝を突く。


「……ムースお姉様」


「違う。違うの。私がシューラを殺した!」


「私も、あの場所にいたの。二人で遊びに行ったのが、羨ましくてコッソリ着いていってた。だから二人ともが溺れていた時も……私は側にいた」


 顔を覆うように両手を当てる。


「シャンティが溺れる前に、姿を見せるべきだった。溺れてるのに気付いた私が川に着いた時には二人とも……あの時の私には、どちらかしか……だから、私は……」


 心の嗚咽が部屋に響き、

 バキバキとムースに張り付いていた仮面にヒビが入った。


 シャンティも膝を突き、涙を溢しながらムースを抱き抱える。


「えぇ、知っていましたよ。全部、全部。きっとムースお姉様よりも多くのことを」


「私気付いてたんです。ムースお姉様があの場にいたことも」

「先に生まれて仲良しだったはずシューラお姉様ではなく、シューラお姉様が助けようとした私を助けてくれたことも」

「そのことを悔い、私の所為にしなければ心が壊れてしまいそうになっていたことも」


「全部知ってたのに、私は、ムースお姉様に対して何も出来なかったんです。私を殺して救われるなら、それがムースお姉様への贖罪になるのだと、そう思っていたのです」


「ごめんなさい。ごめんなさい。私は、また大切な家族を失う所だった……」


「謝らないでください。謝るのは私の方です。全部知ってたのに、私は、ムースお姉様に対して何も出来なかったんです。私を殺して救われるなら、それがムースお姉様への贖罪になるのだと、そう思っていたんです。そうなっても、お姉様は真に救われないかもしれないのに」


 何度も互いに謝り、泣きじゃくる。

 シューラの死以降、決して訪れることの無かった姉妹の濃密な時間。

 二人の心の澱みが、涙と共に流される。


 そう、まるで川の流れのように、とめどなく。



 誰も悪くなくても、人の『死』は人の人生を大きく変える要素を孕んでいる。

 愛する人の『死』をまともに受け止められる人間はそう多くない。

 もっと早く、この姉妹が本気でぶつかり合っていたら、姉は妹を殺したいと思うことは無かったのだろう。


 一歩間違えたら、今のやり取りの中でも、どちらかに『死』が訪れていたかもしれない。



 俺は一つのハッピーエンドを扉越しで聴いていた。

 

 ムースからの依頼に反し、悪口をルベールに伝えず、代わりに別の作戦の概要を説明。

 最初は分かっていないようだったが、シャンティと踊っている時に、シャンティが補足。

 予定通り、シャンティの部屋までの廊下の角で、変装した俺は王子と入れ替わり、扉を開け入ってきたムースの死角から、入れ替わるように外に出て、閉じ込めた。


 そして、姉と妹の二人に思いをぶつけさせた。


 これも一つの作戦だった。

 だが、これは俺がシャンティから仲が悪くなった原因を聞き、仲直りをさせたいと思ったからで、俺の恋を叶える為のものとは別だった。



 ここで告白し、俺も俺のハッピーエンドを迎えてもいいんだが、よくよく考えれば、マカロンを渡したことくらいしかしておらず、ムースへの告白が上手くいく気がしない。


 なんだったら、裏でコソコソ裏切っていたなんてことが知られれば、完膚なきまで嫌われる。


 無理だ。

 今回は諦めよう。

 好きな人が家族と仲直りが出来たということだけで良しとしよう。


 暗殺依頼は完全に無くなっただろうから、王女であるムースと会う機会はほぼ無くなるだろうが、また別の依頼伝手で会えるかもしれない。


 今度はムースに対する暗殺依頼かもしれない。

 もし、そんな依頼があれば最初で最後の依頼主殺しをして告白をすることになるだろうが。


 俺はそんな空想に独りで笑みを浮かべながら、扉から背を離し立ち去る為立ち上がった。

 近くにある窓から飛び降りて雲隠れ、やることは、いつもと同じ。

 ただ、いつもよりも足が重かった。


 窓に足を掛けた時だった。


「あっ、暗殺者さん!」


 一つの声に引っ張られ、後ろを振り返る。

 俺に声を掛けたのはシャンティで、その後ろにはムースが立っていた。

 どちらも目の周りが赤かった。


「お姉様! 実は、私とお姉様の仲直りを計画してくれたのは、この暗殺者さんなんです!」

「どういうこと?」

「実は、最初から……」


「おい!」


 俺を持ち上げる為に、一から十まで話そうとした

 マズイ。このままでは最初っからムースの依頼を達成しようとしてないことがバレてしまう。


 俺は身振り手振りで、シャンティを止める。


「あっ、えーと、そうですね。色々とあったんですが、お姉様が心の奥底では私を殺したくないってことに気付いたらしいんです。それで、お姉様を止める為に色々と……」

「暗殺依頼一つで、そんなことまで分かっちゃうなんて、凄いのね」


 咄嗟で誤魔化そうとしたのは酷かったが、優秀な暗殺者補正で納得してくれた。


「ありがとうアムレート。私に黙ってシャンティと会っていたのは、少しアレだけど、まぁ、感謝するわ」


 照れくさそうに礼を伝えてくるムース。

 少しは好感度が上昇しただろうが、まだ、告白がうまく行く気がしない。


 なので、この後の行動も変わらない。


 名残惜しいが、このまま脱出を、


「暗殺者さん! 私、貴方様のこと好きになってしまったかもしれません」


「ぶっふぅぅぅ!」


 不意に訪れた告白に思わず体がよろける。

 驚いたのは俺だけではなく、横にいたムースも目を見開いている。


「なななな、なんですってぇぇぇぇえ!」


「だって、こんなにも一途にお姉様の事を想って努力しているのを見てたら英雄みたいで格好良く思えたんですもの」


「私の事を想って……それって好きってこと? い、いつから……ちょ、ちょっと待って、シャンティ、あ、アンタ、ルベール王子はどうするのよ!」


「お姉様にあげます。お姉様、ルベール王子が欲しくて私を殺そうと想ってたんですよね。なら、ちょうどいいですよね?」


「おい、待て……」


 勝手に進んでいく、ドタバタに置いてかれてしまった。

 しかも勝手に片思いをしていることをバラされている。


「私がアンタを殺そうと想った理由は違っ……い、いらないわよ! あんなイケすかない優男!」


 その言葉に対し、シャンティが何かまだ言おうとしているようだったがムースはその口を塞ぎ、俺に詰め寄って来て、指を刺した。


「アンタ、私のことが好きなんでしょう? なら、私のものよ! いいわね!」


 何一つ、その傲慢さは変わっていなかったけど、

 その命令と共に恥じらう、その顔は、世界で一番可愛かった。


 妹から略奪愛をしようと思っていた姉は奇しくも、違う男で同じ結末を迎えたのだった。


ご覧いただきましてありがとうございました。

楽しんで頂けましたら幸いです。


今回、長編で書いているものとは別に、読切で短編を書いてみました。

他にも作品を上げてますので、よろしければぜひ。


至らぬ部分もあるとは思いますが、評価や感想を頂けましたら、嬉しいです。

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