招き猫だよ奏多くん
奏多「へーそうなんだ。今回はぼくがお話を読まれる側になるんだね」
放課後の図書室には生徒が多くいる。勉強熱心な子が多いわけではなく流行りのサブカル系作品が多く収蔵されているためだ。この学園では「図書室ではお静かに」ということもない。
図書委員の栗山奏多はカウンターで読書をしている。委員の仕事をしているから本の世界に没入するわけにはいかない。今読んでいるのは気軽に読める小説だ。
「かーなたくん、これ借りたいんだけど」
「はい、いいですよ」
奏多は相手の男子から書籍を受け取るとバーコードをピッと読み取る。彼の図書カードにタイトルが刻印された。【かわいい猫が俺の戦友になって魔王討伐】これは人気の一冊。
「どうぞ、返却期限は1週間後です。忘れないでくださいね」
両手で本を手渡しする奏多、相手は片手でつかむ。その瞳は奏多の目を射抜く。
「奏多くんって、ネコみたいだ」
奏多はずれてもいないメガネを直す、普段通りの感情の静かな声で応対する。
「そうですか、面白いことをいいますね。ぼくは今までそんなことはいわれたことないですよ」
「ふふん、俺だけがわかってるってヤツだな」得意げにつぶやく背中を見送る奏多。
(明日は猫の本でも読もうかな)
「奏多くーん、返却された本の収蔵が終わったよー」
「ありがとう、きみはもう帰っても大丈夫だよ」
相手はニッコリと笑う。
「それならお言葉に甘えてお先に失礼するよ。野球部の試合に備えないといけないからねえ」
先週から委員会に入った彼は野球部員を兼任するという珍しい子だ、文武両道というやつか。などと思っていると近づいてくる男子が。
「こんにちは奏多くん。図書室は今日も盛況ですね」
「優也君、調べ物?」
西園寺優也は報道部員の男子。奏多とは仲が良い、図書と報道は同じ言論や表現に属するためだ。
「いえいえ図書室の見物ですよ。人集まる場所におれの姿ありですから」妙に気取った言い方をするのは彼の平常運転である。
「ま、君に会うのが本音ですが。いまさら図書室の見物したところで何もないでしょう」
「この前さ、桃花さんから『図書室に人が少ないタイミングってある?』って聞かれたよ」
雪内桃花、変態女子だけど彼らのような学園の上位男子とは縁のある不思議な子。
「桃花さんですか。彼女からは鳥打帽の人って呼ばれているんですよー」
西園寺はごく普通に語ったが。
「記者のアイコンとしてかぶってる君に対してはキャスケット帽と呼ぶべきだね」
「ハンチングとキャスケットの関係はちょっとややこしいですからね」
「報道部員として教えてあげれば?」
「まーアパレル関係の仕事にでも就いた時に教えてあげれば十分でしょう」
「きみは割り切りすぎるよ、いつものことだけど」奏多はあきれ顔で本を開く。
「伝達して知識が増えれば良いってもんでもないでしょう、人間は」
西園寺はやれやれ顔。
「奏多くんの当番日はショタコン男子が集まるので桃花さんはこないでしょうね。おまけに彼らは桃花さんに迫ることがありません」
ふたりの視線は挙動不審な男子たちに向けられる。
「ぼくがいうのもなんだけどさ、あの人たちは見ているだけでいいの? 貸し出しの応対なんてささやかな交流で満足しちゃうくらいで」
「彼らは臆病なんですよ、自分の中の好きという気持ちに」
「……男同士なんだからさ、そんなに気負う必要ないでしょ」
栗山奏多はショタコンという存在を“子犬や子猫がカワイイから愛でる”という感情だと解釈している。男女どちらであれ、そこに恋愛的な意味はないと。
「実際、翼くんに魅了された男子はドンドンアタックしてるじゃん」
天瀬翼という少年は男の理想を体現する女子より女子な正真正銘の男子。だが彼が女の子だったら良かったという男はいないものだ。
「翼くんはパワフルですが奏多くんは大人しい系なので丁寧に扱いたいんですよ」
「さっき貸し出し応対した男子から『ネコみたい』って言われたけどぼく的にはしっくりこないなー、文化祭で猫耳メイドやってた翼くんに言うべきでしょ」
「あれはかなりの集客効果がありましたね。そうだこういう話がありますよ」
西園寺はひらめき顔をして語る、それは演技かどうかはひみつ。
「この学園のある男子生徒の家は猫カフェをやっているんですよ、たった一匹の猫なのでネコを飼っている喫茶店というべきでしょうけど」
西園寺「ちなみにですねー、前話でおれの帽子を鳥打帽と呼んでいたのは作者が調べずに書いてたからなんですよ」
奏多「こんなので知識や情報担当な優也君とぼくをきちんと描けるのかなぁ……?」