第8話 『第三の預言、紡ぐ』
ヨルンを助けた、翌日。
ようやくスヴァへと向かうこととなった。
「あ、あのっ」
泊まった宿を出たときに、ヨルンが言いかける。
「どうしたんです、ヨルン殿」
ミハルが返す。
「本当にありがとうございました」
そう言って、頭を下げる。
「いいのよ、ヨルン」
バーリはヨルンに近付いて、頭を撫でる。
「……私が、護らなきゃいけなかったのに」
「え?」
「何でもないわ。それじゃ行きましょうか」
▪▪▪
スヴァは、泊まった宿から2時間弱かかる。
またもや長旅になるが、仕方がない。
「……あの、お姉さん」
道中、ヨルンはミハルに聞く。
「さっき、小声でバーリさんが言っていました。『護らなきゃいけなかったのに』って」
ミハルは、ヨルンに廃墟の件を伝えた。
―――ヨルンを護ろうと想う気持ちが、最悪の事態に陥りかねないことも。
「………」
ヨルンは、バーリの方を見る。
「それだったら」
立ち止まって、ミハルの方を見る。
「僕が、お二人を護らなきゃいけないんですね」
思いがけない言葉に、ミハルは少し驚いた。
……が、これでも彼は精神的に成長しているのだろう、そう解釈した。
「それじゃあ、その時はよろしく頼むぞ。ヨルン殿」
▫▫▫
途中、休憩を挟みながらもスヴァまでもう少しの所までやってきた。
「そろそろスヴァね。隣国のエーダ国に入る手続きを済ませるから、今日はそこで一泊するよ」
バーリが言うと、二人は頷いた。
「………」
その直後だ。
ヨルンは、預言を受ける仕草を始める。
(まさか、スヴァでも何かが起こるの?)
バーリが思った瞬間、ヨルンに光が射し込む。
『第三の預言、大きな「者」が街を壊していくだろう』
「大きな者……?一体どういう事でしょう」
ミハルがバーリに聞いたその時だ。
スヴァから大きな物音が響いた。
三人がスヴァの方を見ると、巨大な竜が街を襲いかかっている。
「二人共、早く行こう!」
バーリの言葉に、二人は頷いた。
▪▪▪
三人がスヴァの街中に入ると、竜は大暴れしているのか惨事になっている。
建物はだいぶ荒らされていて、逃げ惑う人々に溢れている。
退治する術もあるのだが、ここは止めに入るしかない。
暴れ竜の前に、バーリは立つ。
『ゴガバーニゲラ!』
手を差し出しそう叫ぶと、竜は動きを止める。
……が、強力な力に跳ね返されそうだ。
「……う、ぐっ……!」
バーリは何とか止めようと、お腹に力を入れる。
その姿を見たミハルは、自分に何か出来るか考えていた。
……丁度、真横に高めの物見櫓があることに気がついた。
「ヨルン殿、あそこの櫓の下に身を潜めてください!」
ヨルンは頷いて、櫓の物陰に身を潜める。
それを見届けたミハルは、急いで櫓に登る。
物見部屋に着くとミハルは剣を引き抜き、柵に足を掛ける。
(……今!)
物見櫓から、足に力を込めて勢いよく飛び出す。
「いっけぇぇぇぇっ!」
竜へ剣を振りかざし、右肩を切り裂いた。
急所の一部を切り裂いたのか、呻き声と共にその場へ倒れ込んだ。
▫▫▫
「……ミハルさん、あ、ありがとうございます」
倒れ込んでいる竜を見ながら、バーリはそう言う。
「何のこれしきだが、大丈夫ですか?バーリ殿」
息を整えながら、バーリは頷く。
「少し、魔力を使いすぎた気がします。……まあ、しばらくすれば大丈夫ですけど」
「でも、何の竜なんだろうね」
ヨルンが呟く。
「……この竜、『忘れ去られた島』に住んでいると言われる竜にそっくりなのよ」
バーリがそう返す。
この世界にある『忘れ去られた島』には、伝説の竜がいるとされているのだが、書物で見たまんまの竜なのだ。
「そんな竜が、なぜここに現れたのでしょう」
ミハルがそう言う。
「それは分からない。ただ、私から言えるのは『この世の終焉』を示唆しているような感じなのよ」
預言の『大きな反乱』に、『洪水被害』、そして『伝説の竜』……
そう思うのも、無理はないと考えたのだ。
「……そうなると、これからもそう言う事が起きかねないとでも?」
ミハルが言うと、バーリは頷いた。
「これから先、もっと過酷になるかもしれない。それも覚悟で進まなきゃいけないと感じる」
「……難しい事は分からないけど、とりあえず倒せて良かったね」
ヨルンが、横から言う。
「そうね。それは二人のお陰よ」
バーリはそう返した。
▪▪▪
被害は街の一部だけだと、剣士隊の方々から聞いた。
最小限に食い止めて良かったと、バーリは一先ず安心した。
こうして、『第三の預言』は終わりを告げた。