第7話 『ヨルンを探せ』
「しかし、これからどうしますか」
ミハルが聞く。
「心当たりがあるとすれば、昨日の物盗りが引っ掛かる」
医術師が言っていた事を思い出した。
ネスロなどここら一帯に現れる物盗りには、『大きな組織』が大元にあると。
もしかしたら、そこが動いているのかもしれない……とのことだ。
「組織ぐるみか……情報網さえあれば、私達の情報も知りうる可能性もあるな」
ミハルの言葉に、バーリは頷く。
(ここは、私の術で)
バーリはお腹に力を入れ、目を瞑る。
『私の意識を 限界まで 広げよ!』
脳裏には、広大な世界が見える。
(ヨルンは、何処に居るの?)
そう念じた途端、赤い印が点滅しているのが分かる。
ネスロの近くにある、廃墟らしきところが点滅しているようだ。
「ミハルさん。ネスロ近くの廃墟に、ヨルンが居るかもしれません」
術を解き、バーリが言う。
「それでは、馬を借りて行きましょうか」
「はい……急ぎましょう」
▫▫▫
馬を走らせながら、例の廃墟へ向かっている。
ミハルはネスロの剣士隊に派遣を要請したのちに、合流する形になった。
(……こればっかりは、私もいけないわね)
ヨルンは私が護らなければいけない筈、だったのに。
これは自身にも非があればある。
「だめだめ、今は助けなきゃいけないもの」
小声で呟く。
ここで弱気になれば、二人に心配をかけることになる。
(間に合って……!)
▪▪▪
乗せてくれた馬が頑張ってくれたのか、30分強で廃墟へ着いた。
馬を降り、頑丈な木に縄をくくりつける。
腹に力を入れて、廃墟へと入っていく。
(……!)
嫌な気が、廃墟内に漂っている。
気を抜いたら、最悪殺られるかもしれない。
建物の中に入ると、外観と裏腹に綺麗だ。
それもまた、違和感があるような―――
「……ここへ来たのは、一人か?」
男性の声が聞こえたかと思うと、ざっと10人ほどの男性達がバーリを囲む。
全員あの物盗りと同じマントを着ていて、仮面を被っている。
「ええ、今のところはね」
バーリはそう返す。
「なら、都合が良い。一人ずつを抹殺するのにね……」
奥から、声の主と思われる人が現れた。
……ヨルンを連れてきて、だ。
ヨルンは、顔に殴られた痕がある。
それを見た途端、自分の中の押さえていた感情が外れた。
「これが、貴様らのやり方かァ!」
バーリはそう叫ぶ。
「お前ら、やっちまいな」
主が言うと、囲いの人間が短剣を片手に一気に襲いかかる。
『ガバラゲア!』
バーリがそう言うと、全員が謎の力に跳ね返され壁に叩きつけられる。
一瞬の出来事で、主は動揺する。
「……お、お前は一体……?」
バーリはゆっくりと、主へ近付く。
「私は、貴様らが恐れおののく『魔女』の末裔。一瞬で人を殺めることも出来るのさ」
そう言い、バーリが主の身体に触れようとしたその時だ。
誰かが、自身の手を掴んだ。
「……ここまでです」
その手は、ミハルだ。
「は、離して、ミハルさん」
戸惑いの声でバーリが言うと、ミハルは首を横に振る。
「いけません、バーリ殿。これ以上の事をするならば、私は貴女を斬らなければならぬ」
「……ッ!」
涙ながらに、バーリは手を引いた。
「剣士隊の方々、よろしくお願いします!」
ミハルが言うと、続々と剣士が入ってきて彼らを連れていき、ヨルンは助けられたのだ。
▪▪▪
「……バーリ殿、大丈夫ですか」
ヨルンの様子を一通り見たミハルが、壁に寄り掛かって座るバーリに言う。
「ヨルンは、大丈夫なの……」
下を向きながら、か細い声で聞く。
「ええ。殴られた痕がありますが一発だけですし、睡眠薬で眠らされているのでしばらくしたら起きると思いますが」
「………」
バーリは、口唇を噛み締める。
その姿を見て、ミハルは近くに座る。
「バーリ殿が、自身を乱す行為をするのは分かります。でも……違う力を持っている貴女が、怒りの感情を込めてしまうと、取り返しがつかないことがあります」
「……だから、止めたのよね」
バーリが顔を上げて、そう言う。
「力なき私が出来るのは、それだけですから」
「ごめんなさい……」
涙を流すバーリを、ミハルがそっと抱き寄せる。
「お互い様です、バーリ殿」
こうして、ヨルンが連れ去られた事件は幕を閉じた。