第6話 『第二の預言、紡ぐ』
ネスロを出発し、スロノトイという小さな村集落を経由してスヴァへ向かおうとしていた。
……その道中だが、向かおうとしている方面に黒い曇が立ち込めている。
(何か、嫌な予感がする)
進み続ける度、バーリは思う。
そろそろ集落のテリトリーに入ろうとした、その時だ。
ヨルンが立ち止まり、預言を受けるような仕草をする。
(もしかして?)
バーリがそう思った瞬間だ。
ヨルンに光が射し込む。
『第二の預言、天からの涙が溢れるだろう』
……と、言ったのだ。
「『天からの涙』って、事は?」
バーリの方を向いたミハルが言う。
自分と同じ、『スロノトイで何かか起きる』と考えただろう。
バーリが口を開こうとした瞬間、顔に水のようなものな滴る。
「ミハルさんに、ヨルン。スロノトイの住人達を避難させて!今すぐに!」
事を察したバーリは、二人にそう言う。
二人は頷いて、集落に向かって走り出す。
二人の姿が街中に入っていったその時、瞬く間に大雨が降ってきた。
……雨の強さが、増してくる。このまま木の家が並んでいる集落を呑み込むようだ。
(思い出せ……思い出せ……)
洪水を防ぐ術があったのを、書物で読んだことがある。
私の能力を使えば、防げるのに……!
(………ッ!)
数分後、ようやく脳内の片隅から引っ張り出した。
『恵みの涙が 暴発して呑み込む時 私の言葉を発すると お許しくださるだろう』
その術を言った途端、黒々とした雨雲から光が現れた。
そこから瞬く間に、雨雲が晴れた。
▪▪▪
早く避難を呼び掛けた事と、数十人の集落だった為人員被害は無かった。
建物は少し被害を被ったが、修繕費はそれほど掛からないようだ。
「助かったよ、本当にありがとう」
集落の長が、バーリにそう言う。
「とんでもないです。私のやれる事をやっただけですから」
手を横に振りながら、バーリが答える。
「しかしまあ、ここまでの大雨は住んでいて初めてじゃったの」
自分達の周りに集まっていた、老人の一人がそう呟く。
「そうですねぇ。街が流されるかと思いましたよ」
女性の一人も言う。
「そう言えば……連れの子は、どこに行ったかの?」
先程の老人が聞く。
連れの子は、ヨルンの事だろうが……
「私と一緒に戻った筈なのだが、見当たらないな」
ミハルが言う。
「……あっ、あの」
若い女性が話しかけた。
「どうされした?」
バーリが聞く。
「その男の子が、だ、誰かに連れ去られるのを、南門の前で、み、見ました……」
恐ろしい者でも見たかのような感じで、伝える。
「何ですって……?」
それを聞いたバーリは、一気に血の気が引くのを感じた。
「どんな背格好か分からぬか」
ミハルが横から言う。
その女性は、『分からない』と言わんばかりに首を横に振る。
「……失敬、バーリ殿。私が着いて居ながら……!」
頭をかきむしりながら、ミハルが言う。
「……ッ!」
バーリは青ざめた表情で、俯く。
手には力が込もっている。
「早く、探しに行きなされ。あとは私達の役目だ」
長が冷静な口調で、そう話しかける。
「……バーリ殿、しっかり!」
ミハルに肩を揺すられ、やっと顔を上げる。
バーリは涙を溜め、口唇を震わせる。
「心配なのは、当たり前。……ですが、今は二人で探しましょう。ヨルン殿の生命が削られる前に」
ミハルや長に言われた事は、ごもっともだ。
連れ去られた事に頭が一杯になっていて―――
「ごめんなさい、ミハルさんに、スロノトイの皆さん……。ヨルンを探しに行きましょう」
その言葉に、ミハルは頷いた。
▪▪▪
「かの三人組で『運命ノ子』と呼ばれる、例の子を連れて参りました」
仮面の男が、そう言う。
「デミィよ、よくやった。もうじきあの二人がやってくるだろう……その時が、俺らの部下を牢屋に追いやった女郎に成敗が出来る」