第5話 『一行、物盗りに襲われる』
途中、休みながらもネスロの街並みが見えるところまでやって来た。
歩いてきた道を振り返ると、地平線に日が落ちかけている。
「あともう少し、だな」
ミハルが言う。
「ええ、頑張りましょうか」
バーリの言葉に、二人は頷いた。
▪▪▪
ようやく門の前に着いた。
人が多く往来している。
「先に宿でも取っておきましょうか?」
ミハルが、そう言って半歩前に出た時だ。
「ヨォ、そこの御一行」
声が聞こえたかと思うと、目の前に男性が数人現れた。
「……何の用か」
ミハルがトーンを下げて聞く。
「金になるもんを、そこに置け」
もう一人の男性が言う。
「そ、そんな大層な物は持っていませんっ」
バーリが慌てて返す。
「聞かなかったらなァ、生きて帰れると思うなよ?」
男性組は、一斉に剣や鈍器を取り出す。
危険を察知したミハルは、剣を抜き出す。
「バーリ殿、ヨルン殿を頼む。ここは私が引き受ける!」
一人が血相を変えて襲いかかる。
ミハルはすれすれで避け、鳩尾に膝蹴りを喰らわせる。
「貴様ァ!」
もう一人が後ろから襲いかかる。
……が、ミハルはしゃがみ込んだかと思うと、振り向き様に剣で脚を切り裂いた。
「「よくも!!」」
残りの二人が、同時に鈍器を振りかざしてきた。
倒れた相手の剣を奪うと、二人の腹に剣を突き刺した。
(流石、伊達に鍛練を積んだと言えるわ。男性相手に、ここまでやれるなんて)
一瞬の出来事を見ながら、バーリは思った。
騒ぎを聞きつけただろう、剣士隊の人が話しかけてきた。
バーリが事情を話すと、彼らを『物盗り』の参考人として連れていった。
「……ッ」
事を終えた途端、ミハルはしゃがみこむ。
「大丈夫?」
二人が様子を見ると、傷があるところの付近に紅い染みが付いている。
バーリが服を捲り状態を見ると、縫い口から血が出てきていた。
悪い状態を察知したバーリが、大声を出す。
「どなたか、どなたか!医術師の居場所を知りませんか!?」
「す、すぐ近くに居ますが……」
住人の一人が、そう話しかけた。
「ヨルン、住人の方と一緒に医術師を呼んできて。早く!」
縫い口を布で押さえながら、バーリが言う。
「わかった」
声をかけてくれた住人が、ヨルンを案内をする。
「……すまない」
脂汗をかきながら、ミハルが言う。
「謝るのは私です。傷の状態を知ってて、任せきりにしてしまいましたから」
「……お互い様、か」
丁度、ヨルンが医術師を呼んできた。
傷の状態を話し、治療場へと連れていった。
▪▪▪
ミハルの治療は、すぐに終わった。
医術師からは「傷口が塞がるまで、暫くは無理な動きをしない方がいい」と言っており、今晩は体調を診るために治療場の病室で明かすこととなった。
ミハルが居る病室に、バーリとヨルンが入る。
「それでは、何かあればお呼びください」
看護師が言う。
「はい」
バーリが返すと、看護師は会釈をして去っていった。
ベットにミハルが横たわっている。
麻酔はまだ効いているのか、寝ているようだ。
二人は、ベット横の椅子に座る。
「……お姉さん、大丈夫かな」
ヨルンが心配そうに言う。
「医術師さんは『傷が広がった訳では無い』って言ってたから、きっと大丈夫よ」
「……」
ヨルンは口唇を噛み、俯く。
彼女にも心を開いているのか、余程心配に見える。
「それじゃ、私がおまじないをかけてあげる」
そう言うと、ミハルの身体に触れる。
『神々のご加護を』
一瞬、ミハルの身体が光った。
「……よし。これで、災難は降り注がないわ」
▪▪▪
翌日、ミハルは体調を戻した。
「お二人とも、ご心配をお掛けして申し訳ない」
治療場を出ると、ミハルは頭を下げた。
「お姉さんが居なかったら、もーっと大変だったかも!」
ヨルンがそう返す。
担当していた医術師から聞いた話だと、ネスロでは度々物盗りの被害があるらしい。
ヨルンの言う通り、ミハルが居てくれたからこそ助かったのもある。
「……そう言って貰えると、お供している甲斐がある」
少し頬を染めながら、ミハルが言う。
「それじゃ、準備を整えて行きましょうか」
「うん!」
「そうしましょう」
―――いつしか、三人には『絆』というものが芽生えたのかもしれない。
バーリはそう思いながら、先に歩いていく二人に着いていった。