第4話 『ミハルの過去』
アミルロトの件が終わり、更に南の方へ向かうことになった。
「今日はどこまで行くの?」
歩きながら、ヨルンが聞く。
「メロネっていう街まで、向かおうと思っているよ」
メロネは、アミルロトと国境門がある街のスヴァの間にある。
時間的には、そこに着くのが妥当と考えた。
「……」
さっきから、ミハルが傷があるところを擦っている。
「まだ痛みます?」
その様子を見て、バーリが聞く。
「あ、いや。何でもない」
と、ミハルはすぐにそう返す。
(何かあったのかな)
出会った当初は何とも思わなかったのだが、アミルロトの時に話しかけた剣士の表情がバーリの中では引っ掛かっていた。
傷と何か関係あるのか、そう思っている。
(休憩の時に、聞いてみようかな)
そう思いつつ、一歩ずつ歩いていった。
▫▫▫
1時間半も歩き、途中の小間屋 (旅人の休憩小屋) へと着いた。
「ヨルン、申し訳ないけど……近くの川から、水を汲んできてくれるかな」
新調した甕を渡す。
「わかった!」
ヨルンがそう言うと、川の方へ走っていった。
(これで、とりあえず)
ミハルと二人の時間が少しでも取れる。
今のうちに、聞きたいことを聞こう。
「ミハルさん」
「何でしょう、バーリ殿」
ミハルは、バーリに目を合わす。
「……その、剣士を辞めた本当の理由って?」
ここは単刀直入に聞いた方が、いいと思った。
ミハルは、少し目線を落とす。
「そう、だな。お二人の話をしたわけだし、私も話さないといけないね」
そう言って、語り始めた。
▪▪▪
私は、根っから正義を貫きたい性格でね。
小さな時から、剣士隊の隊員になりたい……そう思っていた。
目指していた当時から、『ひ弱な女に剣士が務まる訳がない』と言われていた。
そんなことは、関係ない。守るべきモノは守りたい、そう思って鍛練に励んでいたよ。
難関な養成校へ入って、3年前にようやく一人前の剣士になった。
最初はまだ、きちんと警備をこなしていたさ。
それに亀裂が入ったのは、半年前だった。
私の部下になった剣士達が、なかなか言うことを聞かなかった。
上からはきちんと指揮をしろと言われ、下の人間には『女だから』と舐めらていった。
その状態が続いた後……つい、先月の頭の事か。
私が注意したことに腹を立てた部下の一人が、私に襲いかかった。
不意の事で剣を抜ききれず、重傷に近い傷を腹に負ってしまったのだ。
治療を早く済ませようと、普通なら数ヵ月にのぼる治療と闘病を半月で終わらせた。
それは流石に無理が過ぎる事と、監督責任に問われ……その部下と共に解雇された。
私はアミルロトを追われ、職を探しにネスロに居たところを、貴女方に助けられたのです。
▪▪▪
「荒療治の痕と、あの時見かけた他の剣士が驚いた表情を見せたのは……」
ミハルはゆっくりと頷く。
「アミルロトを追われた人物が戻るとは思いもしなかっただろうね」
「でも、本当に一緒に居てもいいんです?」
そこ言葉に、ミハルは微笑む。
「タイミングが悪ければ、私はあそこで亡くなっていたかもしれないし、あても無かったしな。それに、救われた身は、恩人に返す。それも信念の一つだから」
「バーリさーん。汲んできたよ」
丁度、ヨルンが帰ってきた。
「話せて良かったです、バーリ殿。これからは、前を向いていこうと思う」
▪▪▪
メロネにまた向かいながら、ミハルの会話を回想していた。
私は『魔女だから』と言われ、避けられてきた。
今はその認識が薄れ、旅人の一人として見られている。
……が、そこまでに至るまでが大変だった。
それに似た感情を、ミハルもずっと抱え込んできたのだろう。
そう考えれば、案外似た者同士が惹かれあったのだと思っている。
『前を向いていこうと思う』
そう言った時のミハルは、迷いが無くなったように見えた。
私自身も、そういう風になれるのだろうか。
私はまだ迷っている。
……けど、一つだけ言えるのは『私の魔術は人のためになる』と、さっきので痛感した。
(少しだけ、光が見えたのかも)
今は、三人の旅を続けるんだ。
それだけを、念頭に置いておこう。