第3話 『第一の預言、紡ぐ』
この日は、ネスロで一泊することになった。
(まさか、ここまでの話になるとはね)
飄々と旅をしているはずだったのだが、いつしか『運命ノ子』の子を助け、元剣士隊の女性剣士をお供させるとは。
……まあ、一人で旅をするよりも楽しいのかもしれないが。
「バーリ殿、よろしい?」
ミハルが話しかけた。
「どうしました?」
「ヨルン殿が、さっきから妙なんです」
その言葉に疑問を持った。
「妙とは?」
バーリが聞き返すと、ミハルは手招きをする。
宿の中庭に案内されると、そこにポツンとヨルンが立っている。
どこか空中を見ているような感じがするが、視点が定まっていない。
「これ、もしかして」
過去の書物でみた『天からの授かり言葉』を受け取ろうとしている文面に、そっくりの状況なのだ。
そうしているうちに、ヨルンに向かって光が射し込んだ。
『第一の預言、人々が殺戮するであろう』
その言葉を言い終わると、光は消えてしまった。
「……あ、お二人。先程の言葉、聞きましたか」
ヨルンは正気に戻ると、そう言う。
「聞いたけど……殺戮するって、どういうこと?」
バーリが聞く。
ヨルンは顔をしかめる。
「……ここから、南に進んだ大きな街のイメージがわきました。あとは分かりません」
と、言った。
「もしかして、首都のアミルロトの事じゃないか?確か今の政権は不安定で、住民は不満を高めているが……そろそろ、反乱が起きそうな気がする」
ミハルが思い出したように、言う。
「流石に、反乱が起きるような時間帯では無さそうね。明日の朝イチに、首都へ向かった方がいいのかも」
バーリの言葉に、二人は頷いた。
▪▪▪
翌朝、まだ日が昇る前。
事前に借りた馬で、アミルロトへ向かう。
「もし反乱が起きたらどうする、バーリ殿」
ミハルが聞く。
「かつての魔術に、人民平和をもたらす術があった。それを使うしかない」
バーリはそう返す。
「その術で、大丈夫なの?」
バーリの手前に乗っているヨルンが、不安そうに聞く。
「今はそれしか考えられない。やってみないより、やった方がいいわ」
1時間馬を走らせると、遠目だが大きな街並みとそこから多数の煙が見える。
「まさか、もう反乱が起きているのか!?」
ミハルはそう声を荒らげる。
「急がないと……!」
▫▫▫
三人がアミルロトに着いた時には、多数の市民が剣士隊や騎馬隊と戦っている。
足元には、傷を負った人々が倒れている。
「……う、これは酷い」
余りの血生臭さに鼻をつまみながら、バーリは言う。
「ミハル殿、どうしてここへ!?」
剣士の一人が話しかける。
「今、そんなことは関係ない!一体これはどういうことなの!?」
ミハルはそう返す。
「し、市民が、暴動を起こしました。最初は少人数だと思ったら、それが広がって……」
ミハルの態度に驚きつつも、剣士が答える。
「ミハルさんは、ヨルンを安全な場所へ。私は反乱を止めます!」
バーリが言うと、ミハルは頷いた。
バーリは、街が一望出来る高塔に登った。
そして、息を吸う。
『この世界に 争い事はいけない 平和な時を 再び』
魔術を唱えると、光が一気に差し込んだ。
そこから一変、市民と隊員達が手を結び始めた。
▪▪▪
事を終え、三人は集まった。
「……しかしまあ、あんなに血眼になっていた市民達が、スッとなるなんて」
ヨルンが言う。
「そうね、私も少し驚いたかも」
あの魔術は『知識』として持っていたが、あの場が初めてだった。
「そう言えば、これからどうするんでしょうね?」
反乱が終わったとは言え、立て直しが大事だろう。
「さっき聞いた話だが、治めていた権力者が変わるらしい。……まあ、最初っからこうしていれば、反乱が起きずに済んだ話だがな」
ミハルが言う。
「でも、良かった。悪い方向にいかなくて」
ヨルンがそう呟く。
「それはそうね」
こうして、『第一の預言』は終わりを告げた。