第29話 『第九の預言、それから………』
動き始めたグロラ・モノントスの像を見ながら、バーリは数枚の札を取り出す。
―――明らかに、こちらを狙っているとしか考えられない。
(これを抑えるのが、私の役目なら)
バーリは二枚の札を、空中に放り投げる。
「ゴンボラ・モンゲード!」
二体の天使が現れ、ヤツの両腕を抑える。
それを見たバーリは、一気に背後へ回り込む。
そして口元に、札を当てる。
「ゼッガ・ガンデラ!」
光の渦が、ヤツに襲いかかる。
(少しでも、抑え込めれば!)
光が収まった途端、ヤツが手に持っていた長い槍がこちらに向かってくる。
バーリは、間一髪のところで足に力を入れて避ける。
そして、魔力を足の方に集中させて壁を登っていく。
(……今!)
ある程度登ったところで壁を蹴りヤツの方向へ飛びかかり、頭の上に札を一枚置く。
「ゲンバラーゲ」
落ち際、そう呟いたと同時に爆発音が鳴り響く。
札をまた懐から取り出し、警戒しながら振り向く。
像は無傷のまま、またこちらに向かってくる。
(なんてタフなの、あの像は……!)
そう思いながら、バーリはまた身構えて攻撃を仕向けようとした時だ。
『第九の預言……』
と、ヨルンの弱々しい声が聞こえた。
その言葉に、バーリは一瞬ヨルンの所を見る。
今ここで、『預言』が出るとは思わなかったのだ。
『……死の淵に追いやられるだろう』
その言葉で、バーリは像の方向を向いた。
一瞬の気の緩みで、近くまでヤツが近付いていた。
身構えるのには、遅かった。
―――像が持っていた槍が、お腹の方に突き刺さるのが分かった。
▫▫▫
そのまま、膝が崩れ落ちる。
余りの痛みで、言葉が出てこない。
お腹に手を当てて離して見てみると、真っ赤なモノが付いている。
そのモノと同時に、『魔力』が身体から抜けていくのを感じる。
(ここで、私は終わる。折角、ヨルンを護ると言ったのに……)
痛みからなのか、無念からなのか。
頬に涙がこぼれ落ちるのを感じた。
―――私はここで、死ぬのだろう。
▫▫▫
目の前の光景を見ながら、ヨルンは震えていた。
受け取った『預言』は、自分に充てられた物だろう……そう思っていた。
そう、思いたかった。
まさか、ここで彼女がやられるとは微塵も思わなかった。
「……ぼ、僕のせいで、どうしよう」
そう呟いた時、頭の中に『預言』が降りてきた。
『預言』を受け取ると、ヨルンは立ち上がり走り出す。
―――そして、バーリの目の前に立った。
「……ヨルン、何を、しよう、と……」
意識が朦朧としつつも、バーリはそう言う。
「バーリさん、今までありがとう」
そうヨルンが言うと、深く息を吸った。
『第十の預言、真の預言者ここに現れり この世界を闇から私の名を以て 新たなる世界へ変わりたまえ!』
▪▪▪
「……何か、嫌な気がするのぉ」
ヨシドラが、目を開けてそう呟く。
「それは、どういう事で」
ミハルがそう、言いかけた瞬間だ。
島の奥から三本の光が放たれたかと思うと、空が一気に晴れ始めた。
「何事なんでしょうか、あの光は」
目の前の光景を見ながら、ミハルは呟く。
「精霊達、騒ぎ始めて一体どうしたんだ」
メオドーリエがそう言った途端、驚いた表情を見せる。
「バーリ様がやられて、それからヨルン様が光に包まれて……居なくなった、だと!?」
「早く、島に横付けしておくれ」
ヨシドラが船長にそう言い、急いで島へ近付いた。
三人は直ぐに降りて、島の中を歩いていく。
「事が終わった、という話で良いんですよね」
急ぎ足の中、ミハルはヨシドラに聞く。
「そう考えるのが妥当じゃ。今は急いで行くぞよ」
不安そうな顔をして、ミハルは頷いた。
▪▪▪
何事もなく、三人は神殿の方へ着いた。
グロラ・モノントスの像は神殿の真ん中で留まっており、その脇にバーリが横たわっていた。
三人はバーリの方へ駆け寄る。
ミハルはゆっくりバーリを起こしたが、服が真っ赤に染めているのが見えた。
「バーリ殿、しっかり!」
そうミハルが話しかける。
その声で、バーリは薄目を開けた。
「ミハル……さん」
バーリは、ミハルの手を握る。
「ヨ……ルンが、ヨルンが……」
「喋っては駄目です、バーリ様。今から医師の方へ向かいましょう」
布を傷に当てながら、メオドーリエが言う。
「お二方、バーリ様を頼む。私は神殿の様子を少し見ていく」
ヨシドラがそう言い、二人は頷いた。




