第2話 『ネスロへ向かう』
翌朝、二人は山小屋を出た。
「あの、バーリさん」
下山中、ヨルンが話しかける。
「なんだい、ヨルン」
「僕、魔女を初めて見たんですけど……その、噂に聞くと、怪しい人達って……」
その言葉に、バーリは苦笑いをする。
「そりゃあ、そうかもね。術を使うから」
ヨルンにこの世界の魔女の事を伝えた。
強大な力を持った人々を、そう呼ぶことになったことを。
「それじゃあ、悪い人じゃないの?」
「そうそう。じゃなかったら、ヨルンを助けてはいないさ」
バーリの返事を聞いて、ヨルンは笑顔を見せた。
「じゃあ、僕は安心ですね」
(ふぅ、なんとか心を開いてくれたようだ)
正直、怖がらせたら追々困るだろう。
ある意味、この子の命を背負っているからだ。
そんな会話をしていると、眼下から街並みが見えてきた。
「そろそろネスロだ。頑張ろう」
バーリの言葉に、ヨルンは頷いた。
▪▪▪
無事に、ネスロへ着いた。
「ねーねー、バーリさん。これからどうするの?」
街中を見渡しながら、ヨルンが聞く。
「とりあえずは、ヨルンの着替えを買わなきゃな。何もないと不安だろう」
ヨルン自身、何も持ってきていない状態だ。
ここで一通りの物を揃えようと考えたのだ。
「でも、お金は……?」
不安な眼で、ヨルンが言う。
「大丈夫さ、ヨルン。この地は物価が安いから、少ないお金で買えるはずだ」
ネスロは郊外の街であるが、その分産業は発展している。
「で、でも……」
まだ不安な顔をしている。
……もしかしたら、自分のせいで手持ちのお金が無くなるのではないか、そう思った。
バーリはヨルンの目線まで腰を落とし、頭を撫でる。
「一緒に旅に出よう、そう言ったのは私さ。そこは我慢しないでいいの。お母さんだと思って、甘えなさい」
ヨルンは小さく頷いた。
「それじゃ、行こうか」
再び、街中を歩いて行った。
▪▪▪
一通りの物を揃え、街の浴場 (銭湯に近い施設) へ行こうとした時だ。
剣を持った一人の女性が、お腹を抱えてうずくまっている。
不安に想い、二人は駆け寄る。
「……大丈夫ですか」
バーリが話しかけると、その女性は冷や汗をかきながら頷く。
「じ、実は……腹の、傷が、痛んでな」
そう女性が返す。
「ねえ、お姉さんを助けられない?」
ヨルンが横から言う。
「傷を見せてもらって大丈夫です?」
女性は頷いて、服を捲る。
生々しい横一直線の傷痕が見える。
バーリはその傷に手を当てて、癒す術を唱える。
「……おや、痛みが引いた」
その女性が言う。
「傷の縫い目を見た感じ、かなりの荒療治に見受けられました。それで傷が痛んだと感じます」
バーリが言うと、女性は苦笑いをする。
「剣士たる故、傷の完治が先だと思っていたが……そう言われちゃあ仕方がないね」
「お姉さん、剣士なの?」
ヨルンが言う。
「……すまなかった、自己紹介がまだだったな。私はミハル・コモン。剣士隊をしていたが、この傷で最近辞めたのさ」
▫▫▫
ミハルは、二人にお礼がしたいと言ってお昼を一緒に食べた。
「……それにしても、さっきの呪文はなんなんだ?一瞬で痛みが無くなった」
ミハルが言う。
バーリは隠しきれないと思い、自身が魔女の生き残りで、その術を使ったと話した。
それと同時に、ヨルンの事も話す。
「『運命ノ子』と魔女の生き残りか。成る程、興味深い……が、今はどうして過ごしているのです?」
「各地へ、旅をしています」
そうバーリが返す。
「そんな、勿体ないじゃないか?共存だって出来たはずなのに」
ミハルはそう言う。
「人と違う種族は、煙たがられますから」
ミハルは少し考えた後、「私もその旅に同伴してもよいか」と言った。
「いいの?お姉さん」
ヨルンが聞く。
「ああ、もちろんさ。私はもう剣士隊では無いし、あてもなく此処へ来たんだ。それにこの傷を癒してくれたお礼だと思ってくれ」
こうして三人の旅が、始まったのだ。