第25話 『第七の預言、紡ぐ』
翌日、バーリは起きて窓のカーテンを開ける。
前日とは一転、淀んだ曇り空だ。
(……今日、なんだか冴えない日ね)
こういう『淀んだ曇り空』は、何か嫌な予感がする。
かつて、母が亡くなった日も―――
「おはようございます、バーリ殿」
ふとミハルの声がして、振り向いた。
扉のところに彼女が立っている。
「朝食の準備が出来ました」
「……分かったわ」
ミハルは会釈をすると、その場を立ち去った。
(駄目ね、あんなこと思っちゃ)
頭に浮かんだ事を振り払い、バーリは部屋を出た。
▫▫▫
朝食を食べ終え、三人は宿を出た。
「さて、本日は何処まで向かいますか」
ミハルがそう言う。
バーリは地図を開く。
「……そう、ね。南西の海沿いにある街、ゾレに向かいましょう」
ミハルとヨルンは頷き、歩き始めた。
バーリも二人の後を歩く。
「………」
バーリは、宿を出てから変な胸騒ぎがしていた。
南西のゾレに向かうのも、その『胸騒ぎ』が関係している。
いずれか行くと思われた、『忘れ去られた島』。
この不穏な曇り空は、もしかしたら『その島へ行け』という暗示かもと思っている。
―――だからこそ、南西の海沿いにあるゾレに行こうと思ったのだ。
次の預言が出る前に、ゾレに着きたいところだ。
「……それまで、何にもありませんように」
そう、バーリは呟いた。
▪▪▪
ゾレの途中で、休憩している時にミハルがバーリに話しかける。
「何だか、先程から表情が浮かばないように見えます……何か心配事でもありますか」
「……あ、いや。何でもないわ」
と、咄嗟にバーリは返す。
ミハルはバーリに目を合わせ、見つめる。
「ふう」と溜め息を漏らし、ミハルは腰を落とす。
「咄嗟の返事は、何かを隠していると思われます。私でよければ、お話してください」
そう、ミハルは言った。
(ミハルさんには、隠し事を通せないわね)
そうバーリは思い、宿を出た後から考えていた事を話す。
「……成る程、『島』へ行く時がすぐそこまで来ている……ですか」
「ええ。この天気と胸騒ぎは、きっと……」
「ねぇ、そろそろ行こうよぅ」
そうヨルンの声が聞こえた。
「とりあえず、ゾレまで向かいましょう」
ミハルが言うと、バーリは頷いた。
▪▪▪
それから何事も無く、ゾレに着いた。
バーリは、ヨルンがいつ『預言』が出ても良いように気を引き締めていた。
―――きっと、この地で出るに違いない。
そうバーリが考えていたその時、ヨルンが『預言』を受け取る仕草をする。
『第七の預言、導かれし者は闇へ向かうだろう』
「聞きましたか、バーリ殿」
「……ええ、これはもしかして」
二人が、そう言ったその時だ。
ゾレの港に居る住人達が、騒ぎ始める。
「……あの島、確か『忘れ去られた島』だよな」
「そう、だけど……何だ?あの光は」
バーリ達は港へ向かい、集まる人々を掻き分けて『島』の方向を見る。
確かに、『忘れ去られた島』の方に向かって光がいくつも差し込んでいる。
これで、バーリは確信した。
『島へ向かいなさい』、と。
「……ミハルさん、船を出して貰える船長さんを探しましょう!」
▫▫▫
―――その頃、エーダ国のノベロでは。
「ヨシドラ様、よろしいでしょうか!」
扉の叩く音と共に、メオドーリエがそう言っている。
ヨシドラは目を開け「入れ」と言い、それと同時にメオドーリエが入っていく。
「メオドーリエが来た、という事はあれじゃな?」
「はい、『預言』の事で」
メオドーリエは一呼吸を置いて、言う。
「……精霊達によりますと、ヨルン様が『預言』を伝えた後に『島』に向かって謎の光が差し込んでいるとの事です」
それを聞いたヨシドラは口を開く。
「バーリ様方は、それを見聞きした後に『島』へと向かっただろう」
メオドーリエは頷く。
「はい、ヨシドラ様の仰る通りで」
「そう言う事ならば、こちらも動かなければならない。あそこは今、選ばれた者しか入れんで……ミハル様を止めなければならぬ」
そう、さらにヨシドラが言う。
「ヨシドラ様が言うなれば、致し方ないという事ですね。それでは、高速船を手配します」
「頼んだぞ、メオドーリエ」
メオドーリエは頷き、家を出た。
「……こうなるのも、すべて歯車の元……」
ヨシドラはそう呟きながら、身支度を整え始めた。
▪▪▪
こうして、彼女の『最後の闘い』が今始まる―――




