第24話 『最後の思い出に』
翌朝。
バーリが起きて部屋を出ると、ミハルが朝食を並べていた。
「おはようございます、バーリ殿」
気がついたミハルが、そう言う。
「おはよう、ミハルさん……あれ、ヨルンは?」
「ああ、ヨルン殿であればもうそろそろ」
ミハルは扉の方を見ると、ヨルンが果物を持って部屋に入ってきた。
「頼まれてた果物、買ってきたよ」
そうヨルンが言った。
「ありがとう、ヨルン殿」
ミハルはヨルンに言うと、果物を受け取る。
「それでは、朝食にしましょうか」
ミハルがそう言うと、二人は頷いた。
▫▫▫
「……あの、二人とも」
朝食を食べている途中、バーリが口を開く。
「なんでしょうか、バーリ殿」
ミハルがそう返す。
「あのね……二人が良ければ、なんだけど。三人で写真が撮りたいなって」
それを聞いた二人は、顔を見合わせる。
「あ、嫌だったら良いのよ」
その様子を見たバーリは、慌てて言う。
ミハルが、少し笑いだす。
「いやはや、嫌ではありませんよ。……ね?ヨルン殿」
「うん!お姉さんの言う通りだよ」
ヨルンがバーリの方を見て、笑顔で言う。
「バーリ殿が言ったことを、断るだなんて出来ませんよ。ここまでの経緯がありますからね」
ミハルが付け加えて言う。
(……言っておいて、遠慮ってのは私らしくない……わね)
二人の言葉で、バーリはそう気付けられた。
この二人と共に旅に出て、正直に言えば『本当に良かった』と言える。
だからこそ、最後に形として残しておきたい。
―――もしかしたら、その意思を二人が汲み取ってくれたのかもしれない。
「それじゃあ、ご飯を食べ終わったら写真師さんに会いにいきましょうか」
「うん!」
「分かりましたぞ」
▪▪▪
朝食を食べ終わり、三人は街に出た。
住人に写真師の事を聞いて、写真屋へと向かう。
「……僕、写真を撮られるの初めてかも」
向かう途中、ヨルンがそう呟く。
「そうね、私も写真はしばらくは撮られていないかな」
バーリはそう返す。
「ねー、お姉さんはどうなの?」
ヨルンはミハルにそう聞く。
そう言われたミハルは、懐から写真を一枚出す。
そこには、剣士隊の正装を着ているミハルの姿が写っている。
「これは、養成校から隊員へ上がった時に撮った写真になります」
そうミハルが言う。
「今でも持ってるのはなんで?」
ヨルンが更に聞く。
ミハルは少し寂しそうな顔をしながら
「……戒めの為に、持っています」
と、答えた。
それを聞いたヨルンは、難しい顔をして首を傾げる。
ミハルの言う戒め。
それは、いつまでも『剣士になった想い』を忘れない為だろうとバーリは思った。
―――ただ、ヨルンはミハルが剣士隊に居た事と、大雑把な事実しか知らない。
首を傾げるのも無理はない。
「……あの、ヨルンには過去の事を詳しく話しませんか」
バーリはミハルに、小声でそう言う。
それを聞いたミハルは、首を横に振る。
「流石に、歳以上の聡明さがあったとしても……私の過去は難しい話です。深追いした話は無理かと」
その言葉は、妙に説得力がある。
―――彼女の言う通りかもしれない。
「余計な事、言いました。ごめんなさい……」
「いいえ、大丈夫ですよ」
そして、ミハルはヨルンの肩を叩く。
「難しい事を言って申し訳ない、ヨルン殿。この写真は……一種のお守り、さ」
▪▪▪
その会話をするうちに、写真屋へ着いた。
受け付けを済ませると、すぐに奥の撮影場に案内された。
「それでは、写真を撮りますね」
そう写真師が言い、撮影が始まった。
今回は二つの場面撮影を頼んでおり、写真をいくつも撮った。
撮影を追えると、見本の写真を見せてもらい表情のいい写真の三人分を貰い受けた。
「これが、僕達の写真……!」
受け取った写真を見ながら、ヨルンが言う。
―――その目は、今までで良い表情をしている。
「撮って良かったですな」
その様子を見たミハルが、バーリに言う。
「そう、ね」
久々にヨルンの満面の笑みを見た気がする。
ふと、「二人で旅に出よう」と提案したあの時の事を思い出した。
この提案が無ければ、と思うと―――
(良いことも悪いこともあったけど、それを引っ括めて想い出になるもの……ね)
そう、バーリは思った。
―――それと同時に、本当の旅の終わりが三人のすぐそこまで来ていた事をまだ知らない。




