第23話 『旅の終わりに向けて』
キードで宿を取ると、バーリは二人を呼び止めた。
「二人にお願いがあるんだけど、いいかしら」
バーリがそう言うと、二人は頷く。
「今日この後、一人の時間が欲しいの。どうしてもやらなければならないことが、あって……」
「それは構いませんよ」
ミハルがそう言い、ヨルンも「いいよ」と言う。
「それじゃあ、部屋で行うから……私が出るまでは入るの待ってて貰えるかしら」
「分かりました」
「分かったよ」
二人は部屋を出ていった。
▪▪▪
(……よし)
二人を見届けたバーリは、木の札と十字架、そして数珠を取り出す。
これから行うのは、代々受け継がれている『魔力ノ灯火』と呼ばれている。
自身の魔力を最大限に発揮出来るよう、行う儀式だ。
『忘れ去られた島』では、何が起こるか分からない。
だからこそ、『魔力ノ灯火』を行って備えるしかない。
ただ、この儀式を行うに犠牲にしなければならないこともある。
万が一、儀式後の対戦で傷を負った場合には『魔力』が抜けてしまうのだ。
その為か、『魔力ノ灯火』は『魂の代償』と呼ばれ、最終手段として用いられている。
しかし……こればっかりは、やらなければと本能が言っている。
これは憶測だが、過去に似たような事案があったのだろう。
そうでなければ、伝えられてはいないからだ。
「やるしか、ないわね」
木の札と十字架を机の上に置き、数珠を持ちながら『灯火ノ言葉』を唱え始めた。
▫▫▫
『魔力ノ灯火』を始めて、数時間。
ようやく終わった。
ある程度、体力も精神的にもタフだと思っていたが、この儀式を終える頃には疲れはてていた。
(はあ、疲れたわね……)
立とうとたバーリは、よろけた。
何とか机に手をやったが、目がチカチカする。
「お水、飲まなきゃ」
手元にあった水筒の水を飲む。
冷たい水が、身体に染み渡る。
(……若いと思っていたけど、今年で30を迎えたものね。少し衰えたかしら)
そう思いながら、部屋を出た。
「おや、バーリ殿。事は終わりましたか?」
ミハルがそう、聞いてきた。
「ええ」
ミハルは心配そうに、バーリの顔を見る。
「少しお疲れのようですね。夕食はまだですし、お休みになられてはいかがでしょう」
ミハルの気遣いには、ありがたいと思っている。
……まあ元剣士たる故、仲間や部下の健康管理も任されていたのだろう。
「ありがとう、ミハルさん。それじゃあお言葉に甘えて」
バーリの言葉に、ミハルは頷いた。
▪▪▪
バーリが『魔力ノ灯火』を行っている時、ヨルンはキードにある小さな礼拝堂へ向かっていた。
これから起きる事が心配で、お守りを貰おうと思ったのだ。
ものの数分で礼拝堂に着いた。
ヨルンが中に入ると、そこには礼拝服を着た堂主の女性が居る。
「こんにちは、礼拝者でございますか?」
堂主が、そう聞く。
「あっ、あの」
礼拝堂のルールに『堂主の前では嘘を言ってはいけない』という項目がある為、ヨルンは今までの事を包み隠さず話し、お守りを貰えないか聞いてみた。
「……あら、そうだったの。それは大層な事をこれからしますのね」
事を聞いた堂主は、そう言う。
そして、堂主は少し考えた後に礼拝堂の奥へ入っていく。
すぐに出てきて、包み紙をヨルンに渡した。
「あの、これは?」
「開けてみてくださいまし」
ヨルンは包み紙を丁寧に開けてみると、そこには『神ノ御守』と書かれている。
「これは、一般の方にお渡ししないお守りでこざいます。話を聞く限り、これをお渡しするのが良いと思いましてね」
「そ、そんな貴重なお守り、良いんですか?」
堂主は笑顔で頷く。
「ご遠慮なく。神のご加護がありますように」
▪▪▪
バーリは少し休んだ後、筆を握っていた。
今までの事は、後世に残さないといけない……そう思っていた。
『忘れ去られた島』で起きた事は、生き抜いたら書こうと思っている。
……が、最悪ミハルに書いて貰う。その事に関しては、彼女に同意を得ている。
一通り書き終え、筆を置く。
「……私もヨルンも、生き残れますように」
そうバーリは呟いた。




