第20話 『〈しがらみ〉に生きる者』
ヨメンを出た三人は、北東のキードへ向かう事とした。
(距離にして、短い方ね)
地図を広げながら、バーリは思う。
キードはノントモーゼ国の首都である。
街としては広大な土地なので、ほんの一刻程で着くだろう。
(まだ、頑張らなきゃいけないわ)
地図を閉じ、再び前を向き歩き始めた。
▪▪▪
「バーリ殿」
休憩中、ミハルが話しかける。
「どうしたんです?」
「いえ、その……」
少し俯きながら、ミハルは口を開く。
「私が剣士をしなければ、と考える事があります」
「え?」
思いがけない言葉に、バーリはそう返す。
「あ、いや。今此処に居るのは、お二人のお陰ではあります」
ミハルは、バーリの方を向く。
「でも、剣士じゃ無かったらと考えたら……私はどうなっていたのであろう、と」
(自分が、魔女じゃ無かったら……か)
バーリはその言葉で、自分の目線を見落とす。
「……その、すいません。小難しい話をしてしまって」
その表情を見たミハルは、頭をかきむしりながら言う。
「まだ、ミハルさんは剣士という道を選べました。でも、私やヨルンは違います」
バーリはミハルに、目線を合わす。
「魔女や、預言ノ子は……〈しがらみ〉に生きる者だと思いますから」
▫▫▫
―――〈しがらみ〉に生きる者。
これが真実と思うようになったのは、成人を過ぎた頃だろう。
魔女は、『一般人』とは違う。
『一般人』になりたくても、制限が掛かる。
それを引き抜こうとしても、無理な事だ。
それは、ヨルンも同じ事だ。
『預言ノ子』で無ければ、あのようなことにはならなかった。
「………」
頭に手を乗せたまま、ミハルは口唇を噛む。
「私は、せめて……普通の子として生まれたかったです」
ふう、とバーリはため息を漏らす。
「その、すいませんでした。余計なことを言ってしまって」
ミハルは、頭を下げる。
「いいえ、謝らないで下さい……もしも、と思うことは誰にでもありますから」
▪▪▪
(〈しがらみ〉、か……)
再び歩き始めた時、ミハルは考えていた。
どうしたら、その〈しがらみ〉を抜けさせる事が出来るのだろうか。
生まれつき、運命の仕業で抜けられなかったとしても。
せめて……せめて。
人目を避けるような事をしなくてもいいような、そんな世の中にしたい。
―――私が剣士になりたかったのは、こういう人達を『助ける』為だった筈では。
そう思った途端、剣士隊を抜けた自分が本当に良かったのか。
(はあ、キリが無いわ)
そんな事を考えている暇は無いはず、なのに。
私は―――
「……っと」
危うく、ミハルは転びそうになった。
「大丈夫?お姉さん」
ヨルンが駆け寄って、ミハルの顔を覗き込む。
「大丈夫ですぞ、ヨルン殿」
ミハルはヨルンの頭を撫でる。
「良かった!じゃあ、行こっ」
ヨルンはミハルの手を引く。
(ヨルン殿は、無邪気ですな)
端から見れば、そこらの子供と変わりはない。
……でも、この子も〈しがらみ〉に囚われて生きている。
正直、この先はどうなるかは分からない。
もしかしたら、歴史的な光景を見るかもしれない。
―――本当は、幸せに生きて欲しい。
(まあ、お二人を守る事には変わりはない)
この世の末を見届けた後に、〈しがらみ〉の解決をすればいい。
それまでは、絶対に死なせてはならない。
と、同時に自信も気を引き締めなければ。
―――キードの街まで、あと少し。




