第19話 『生まれた日』
翌日になった。
この日は、バーリの誕生日である。
(……まさか、ここまで生きているとはね)
ふと、考える。
ここまで生命を落とさずに生きられているのは、一緒に旅をしてくれている二人かもしれない。
「バーリ殿、お目覚めですか」
ミハルが寝室へ入ってきた。
「ええ」
「朝食が出来ましたのでお呼びしました」
二人は居間へ出た。
ヨルンが席に座っており、テーブルにはコロメ (丸型のパン) とサラダが置いてある。
「いただきます」
三人は朝食を食べ始めた。
「そう言えばね、二人とも……」
バーリは、今日が誕生日だと言うことを話した。
二人は見合わせる。
「何か、贈り物でもしたいな」
ふと、ヨルンが言う。
「そうですね」と、ミハルも返す。
「い、良いのよ。私は二人が居てくれるだけだも嬉しいの」
手を横に振り、慌てたようにバーリはそう返す。
「でも、僕は恩返しがしたい。バーリさんが助けてくれなければ、ここには居ないよ」
「それはヨルン殿の言う通りですな」
バーリは少し俯く。
自分が頑張らなければならない―――
そう、思っていた。
でも、それは違う。
二人は自分を心配してくれている。
ふと、昨日の事を思い出した。
手作りの料理を「美味しい」と言った時の、二人の笑顔を。
(二人が、そう思っているなら……少しは甘えていいのよね)
顔を上げ、二人を見つめる。
「それじゃあ、お願い……出来るかな」
▪▪▪
朝食を済ませた後、ミハルとヨルンは街に出掛けた。
「ねぇ、お姉さん」
ヨルンが話しかける。
「どうしましたか、ヨルン殿」
「昨日はお姉さんが提案してくれたから、今度は僕が決めていいかな」
それを聞いたミハルは、微笑む。
「分かりました。頼みますぞ、ヨルン殿」
▫▫▫
その頃、バーリは部屋に戻っていた。
毎年、誕生日に欠かせない『誕生ノ儀式』を行うからだ。
衣装を入れているカバンから、小さな木の札と数珠を取り出す。
『生命ノ言葉』を数珠の数だけ、唱える。
『来年まで お導き下さい』
最後の『言葉』を言い終えた。
(今年も無事に終えました……)
数え年で今年、30を迎えた。
ここまで来るのに、様々な事が起きた。
「今年が、厄介かもね」
『運命ノ子』であるヨルンを助けたことで、思っていた未来とは違う方向に向かっている。
運命の歯車と自分に言い聞かせていても、下手をすれば死を迎えるかもしれない。
(死ぬの、なんて)
いつあの世へ逝ってもいい、そう思っていたけれど―――
いざ危険が差し迫ると、なんとも言えない感情がある。
「魔女でも、一人の人間ね」
少し溜め息をつくと、バーリは札と数珠を片付けて部屋を出た。
▪▪▪
「只今、戻りました」
二人が街から帰ってきた。
ヨルンが、包み紙を抱えている。
「おかえり、二人とも」
バーリがそう出迎える。
「はい、これ!開けてみてっ」
ヨルンが包み紙を渡した。
それを、バーリが受けとる。
「何が入っているかしら……」
テーブルで包み紙を丁寧に剥がすと、綺麗な朱色の布が出てきた。
「これ、もしかしてベモン?」
ベモンとは、女性が長い髪をまとめる布を指す。
「うん!バーリさんが、少しでも髪をまとめてくれたらなって!」
ヨルンがそう言う。
「ヨルン殿、よくバーリ殿を見ていましてな。長い髪をまとめてあげたい、と言っていたもので」
ミハルが横から言う。
そして、朱色は自身がよく着る服がその色と悟った。
その旨を言うと、ヨルンは頷いた。
「バーリさんが好きな色って、この色だと思ったの。……どうかな」
バーリはヨルンの目線まで腰を落とし、抱き寄せる。
「……ありがとう、ヨルン。嬉しい贈り物よ」
▪▪▪
こうして、三人はヨメンを出ることとなった。




