第1話 『運命の出逢い』
「……ふぅ、少し歩き疲れたね」
岩に腰掛けたバーリは、そう呟く。
ベルイ国の北にある、モレロ。
ここは山々の中腹にある場所で、山を歩いて北東にあるネスロという町に抜けようとしていた。
「おや」
軽食用の箱を取り出そうとして、気が付いた。
乾パンが無くなりかけている。
(近くに集落が確か……)
地図を広げて確認する。
普段通らない所だったが、運良く離れていない所に集落があった。
「助かった」
残り少ない乾パンを食べ、バーリは再び歩き始めた。
▪▪▪
15分歩き、ようやく集落に着いた。
……のはいいものの、やけに騒がしい。
(何かあったのかね?)
そう疑問に思いつつも、バーリは乾パンを買いに店へ立ち寄る。
店に行き、乾パンと新しい持ち運び用の甕を買う。
「毎度あり」
店主がそう言う。
……ふと、気になったことを聞いてみよう。
「あの、今日は何かあったのですか」
そうバーリが言うと、店主は顔を曇らす。
「実は、今日……『運命ノ子』の子を処刑する日なのです」
『運命ノ子』は昔の書物で読んだことがある。
預言者の輪廻転生って言われているって書いてあったと思うのだが。
「処刑って、どういうことです?」
バーリがさらに聞こうとすると、店主は目線を反らす。
その反応で大体察しがついた。
「……すいません、余計な話を聞いて。ありがとうございました」
店主の言葉を待たずに、バーリは店を出た。
▫▫▫
(もしかして、『魔女狩り』みたいな事をするんじゃ)
処刑の発言といい、あの店主の反応といい……
穢らわしい者として扱おうとしているのではないか。
店主のあの感じは、かつて自分に向けられた目線に似ている。
―――いつしか、『その子を助けたい』という想いがバーリの脳裏に過った。
これは私にしか、助けられない。
そう思い、バーリは町の中のを歩き始めた。
▪▪▪
しばらく歩いたところで、神殿のような建物を見つけた。
そこに人々が集まっている。
「もしかして」
あそこが例の処刑場所かもしれない。
すぐさま人混みの中を掻き分けて、中へと入っていく。
そこには10歳程の子が張り付けにされており、周りを大人が槍を持って立っている。
間違いない、これからこの子は処刑されるのだ。
(……ッ!!)
かつてない、怒りが込み上げてきた。
その感情も束の間、バーリは手前に敷かれていた柵を飛び跨いだ。
「貴様ァ!何をしている!」
一人の男性が、槍を突き立てた。
「……うるさい!」
槍を交わすと、男性の首に手をかける。
『デバーニャ!!』
「グエッ!?」
その男性は、首を押さえながら倒れ込んだ。
それを見た他の人達は、怖じ気づいた。
「この子は私が連れていく!これ以上の事をするなら、この場に居る全員命が無いと思え!」
張り付けにされた例の子を抱え、バーリはその場を立ち去った。
▪▪▪
その日の夜、モレロ最東部にある小さな山小屋にバーリと例の子が居た。
「はあ、余計な事をしちまったねぇ」
例の子が隣で寝ている姿を見ながら、バーリは呟いた。
怒りの感情を押さえられずにいて、なおかつ術を使って挑発的なあの発言。
処刑の子を探せって、集落の輩の追っ手が来そうだと思ったが、案外来なかった。
(……まあ、この子が居なくなりゃいいって話か)
そう思ったとき、例の子が起きた。
「ここ、は。地獄……?」
目を覚ました子は、そう呟いた。
「地獄じゃなくて、この世よ」
バーリはそう返す。
「生きている……?」
「そうそう、私が助けてあげたのよ」
その言葉で、彼は大粒の涙を流した。
「怖かったよぉ……っ!」
バーリはそっと、抱き寄せた。
「大丈夫、大丈夫だから」
▫▫▫
例の子は、ヨルンという名前と教えてもらった。
ヨルンは物心がついた時から、『運命ノ子』の記憶を持っていたという。
それが、集落の人達には『不吉』と呼ばれていたとのこと。
「あの、僕は一体どうすれば……?」
不安そうにヨルンが言う。
「決まっているわ。私と一緒に旅に出よう」
「旅ですか……楽しそう。本当に僕が着いていっていいんですか?」
バーリは頷いた。
「そう言えば、お礼を言っていませんでした。僕を助けてくれて、ありがとうございます……と、ええと。お名前って……?」
「ああ、私の自己紹介をしていなかったね……私はバーリ・メラー。魔女の生き残り、よ」