第17話 『第五の預言、紡ぐ』
ランドンを去り、東にあるヨメンへと向かうこととなった。
「あっついよぉ」
道中、ヨルンがそう言う。
歩き始めて、まだ半刻にもならない。
蒸している地域柄が現れている。
その代わりだが、旅人用に水汲み場が一定置かれている。
そういう所は良心的だ、とバーリは思った。
「ヨメンはまだまだ先だけど、頑張ろう」
バーリがそう言うと、二人は頷いた。
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道中、小さな集落であるメオントで休憩をした。
浴場で身体を洗い流し、着替えた服を乾かす。
その時、ヨルンが『預言』を受け取る仕草をした。
『第五の預言、人知れずに生きる「者」 人々に牙を向くだろう』
(人々に牙を向ける……どういう事なの?)
バーリがそう思う。
「……バーリ殿、何か鳴き声がしませんか」
ミハルが集落の外を見る。
バーリも彼女の見る方を、向く。
(あれは!)
バーリは立ち上がる。
数匹、いや数千の動物が見えるのだ。
「ゼノヨドロが襲いかかってくる!」
住民の一人が、大声を出す。
ゼノヨドロはノントモーゼに生息する羊の一種で、普段は山の奥地に住んでいるはず。
(何でまた、襲いかからない羊が)
あれこれ考えても仕方がない。
今は、止めて抑えるしかない。
「ミハルさん、ヨルンを頼みます!」
「はい、気をつけて」
バーリは、集落の門へ走っていった。
▫▫▫
数千と見たが、それよりも多くなっている。
ここら辺のゼノヨドロが、集まっているように見える。
(この数、私の力で抑えられないかも!)
半歩後ろへ引いた、その瞬間。
聞き慣れない言語が聞こえたかと思うと、見えない力で跳ね返った。
(……この感じ、もしかして)
「バーリ様!今、御呪文を!」
その言葉で、我に返る。
そして、手を前に突き出す。
「これ以上は 人に危害を加えないで 帰りなさい!」
ゼノヨドロは落ち着きを取り戻し、元の道を戻っていった。
▫▫▫
「大丈夫でございますか、バーリ様」
目の前に、一人の男性が現れた。
「だ、大丈夫ですが……貴方様は?」
「申し遅れました。精霊使いのメオドーリエと申します」
精霊は聞いたことがある。
【モノの宿り】とされる霊であるが、彼は数少ない使い手の一人らしい。
話を聞くと、賢者の末裔であるヨシドラの頼みで精霊と共に私達の事を見ていたというのだ。
「その、どうして私を助けてくれたのです?」
そう、バーリが聞く。
「精霊達が、何時もより騒がしくてな。向かってみると、動物に囲まれている貴女様を見掛けまして。これは一大事だと感じて、手をお貸ししました」
「あ、ありがとうございます」
彼は、微笑んだ。
「それでは、また何処かで」
メオドーリエは会釈をして、去っていった。
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「バーリ殿、あの跳ね返りは何だったのです?」
メオントに戻った時、ミハルが聞いてきた。
門の方から、遠目で見ていたという。
「それは……」
精霊使いの、メオドーリエの事を話した。
ヨシドラから頼まれた事、バーリ自身感じていたのが精霊だったという事も話す。
「そうでしたか。いくら羊の群れとはいえ、メオドーリエ殿が居なければ危なかったですね」
「……ええ。それは言えています」
おびただしい数を見た途端、バーリ自身でさえ半歩後ろへ下がるほどだ。
一人で出来なくもなかったが、竜やモヴーリエ王とはまた違う。
「でもまあ、集落にも被害が出なくて良かったです」
バーリが言うと、ミハルは頷いた。
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「精霊達、バーリ様を助けてくれてありがとう……ああ、これもまた使命の一つだからな。さてと、ヨシドラ様に報告をしよう。気になっているようだしな」
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こうして、『第五の預言』は終わった。