第16話 『本当の幸せ』
バーリ達は、服屋で服を揃えて店を出た。
その時、通りから大きな物音が聞こえた。
「……何かしら」
嫌な気を捉えたバーリは、すぐさま音のした方へ向かう。
「着いて行きましょうか、ヨルン殿」
「う、うん」
三人が向かうと、食屋で騒ぎがあったみたいだ。
店内は大荒れで、店主と思われる人が薄汚れた服を着ている女の子の胸ぐらを掴んでいる姿が見えた。
「……貴方、何をしているんです!」
思わず、バーリとミハルが両者の間に入る。
店主は苦虫を噛み締めるような顔をする。
「あ、あの」
傍聴していた人が、バーリに話しかける。
「実はこの子、低所属で……」
低所属は例の裏路地に住んでいて、所得が少ない人達の事を指している。
傍聴していた人曰く、家族の分であろう量を持ち帰ろうとして店主と口論になったみたいで、周りの人達はどう止めていいか分からないとの事だった。
「何故に、この子と口論になったのです」
ミハルが店主に聞く。
「店の決まりじゃあ、低所属が持ち帰りをするのは禁止しているのだ」
そう、店主が返す。
その発言を聞いたバーリは、店主の胸ぐらを掴む。
「貴方、この子と家族がどれだけ苦しんでいるのか、分かっているの!?苦しんでいる人の気持ちが分からない人が、食べ物を提供してはいけないわ!」
それを見た、ミハルが店主の肩を叩く。
「バーリ殿の言う通りですぞ。お金を支払いますし、ここは私らに免じて許してください」
店主は仕方がないという表情で、「持っていけ」と言った。
▫▫▫
「……あの」
店を出た後、女の子が話しかける。
「どうしたの」
バーリが腰を落として、目線を合わせる。
「……あ、あの。その。あ、ありがとう、ございました」
涙ながらに、女の子が言った。
バーリは頭を撫でる。
「いいの、いいの。私達はやれることをしただけ、よ」
▪▪▪
女の子を家まで送り、再び街中を歩き始める。
「しかしまあ、ここにも『差別意識』があったのですね」
ふと、ミハルが呟く。
「それは、そうかもしれないわね。人間社会は少なからず、その意識が働くから」
魔女や『運命ノ子』だけでなく、普通の人種でも差別は起きる。
こればっかりは、世界の原理としか言えないのだろう。
「……あの女の子、僕みたいだと思った。どうしたら幸せになるのかな」
ヨルンが立ち止まって、そう言う。
バーリとミハルは、お互いを見る。
「あのね、ヨルン」
バーリは、ヨルンの頭を撫でる。
「本当の幸せはね、『生きている』事よ」
「生きているのが、幸せ?」
ヨルンが、バーリを見つめる。
「私らは、苦い思い出がある。……が、こうして生きている。生きているのは、この上なく幸せって事さ」
ミハルが、そう言う。
その言葉にヨルンは、考える。
「……そっか。僕もバーリさんのお陰で生きているし、お姉さんも含めて旅をして……思い出に残るのが『幸せ』なんだね」
▪▪▪
(まさかね)
先に行く二人を追いながら、バーリは『自分が気になった事』がこうした出会いに繋がるのかと思う。
(……いずれ、差別のない世界が生まれて欲しいけど)
魔女も『運命ノ子』も、そして低所属も―――
皆が皆、『平等』という最大の幸せを掴んで欲しいと思っている。
「焦る必要は、ない」
今は、ヨルンの『預言』を聞きつつ、旅をするしかない。
秘めた想いを片隅に置き、前を向いて歩いていく。