第15話 『ノントモーゼ国に入国』
バーリが再び、目を覚ました。
小さな懐中時計を取り出して時刻を見ると、朝の七刻を過ぎたところだ。
「おはようございます、バーリ殿」
ミハルが浴室から出てきて、そう言う。
着替えを済ませたのか、普段着を着ている。
「……今、どこら辺を航行しているのかな」
長い髪を手で軽くとかしながら、バーリが言う。
「もう半刻程で、ノントモーゼの港町に入港出来ると船員殿からのアナウンスがありました」
と、ミハルは返す。
「あれ、ヨルンは?」
「甲板に出ています。外の空気を吸いたいそうで」
ミハルに言われ、バーリは甲板へ出た。
船の先頭に、ヨルンの姿が見えた。
「おはよ、ヨルン」
バーリが言うと、ヨルンは振り返って笑顔を見せる。
「おはよう、バーリさん!ねえねえ、見て見て。大陸が近付いてくる!」
ヨルンはそう言って、指を指す。
その方面に、大陸が見えてくる。
「……さっき、ミハルさんが半刻で着くと言っていたわ。そろそろ、ノントモーゼね」
バーリが返すと、ヨルンは頷いた。
▫▫▫
途中、思いがけない事があったが、無事にノントモーゼに着いた。
「……?」
船を降りた途端、バーリは何かの気配を察知して辺りを見渡す。
「どうかしましたか、バーリ殿」
ミハルが、バーリの姿を見て話しかける。
「誰かに見られているような気がして……」
そう言った時、気配が消えた。
―――モンゼロンを海へ還した後にも、似たような気配を感じていたのを思い出した。
「気になるところですが、消えたのならそれ以上は追えないのでは……?」
そう、ミハルが言う。
確かに、彼女の言う通りかもしれない。
襲うような気配ではない、そうも感じたからだ。
「止めてしまって、ごめんなさい。ヨルンが先に行っているし、後を追わなきゃね」
バーリが言うと、ミハルは頷いた。
▪▪▪
「精霊か、お疲れ様だよ。無事にノントモーゼへ着いたんだね……ん?見つかりそうで危なかった、と……まあ、彼女は魔女の生き残り。精霊と知れば、イタイ目にはしないさ?本当だ、あの御方は何でも知っているから」
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入港した港町のランドンで、入国手続きを終える。
「……しかしまあ、向こうの大陸と比べて蒸していますな」
役舎を出た後、ミハルが言う。
ノントモーゼは、南寄りにある大陸である。
……だからこそ、ここはベルイエーダ大陸より蒸し暑い地域である。
「流石に、薄目の服をもう何着か買いましょうか」
バーリの言葉に、二人は頷いた。
三人は、ランドンの街中を歩いていく。
街の雰囲気は良く、露店商がひっきりなしに商品を売っている。
「……なんだか、陽気ですね」
服屋を探しながら、ミハルはバーリにそう耳打ちをする。
「ええ。毎日がこうだと思うから、意外にも楽しい街だったりして」
バーリは、ふと路地の脇道を見る。
そこには綺麗な街並みとうって変わって、寂れた建物が連なっている。
何人か家を往来しているが、露店街の人達に比べれば衣服の質が少し落ちているように見える。
(なんだか、表面と裏面が見えた気がする)
バーリが、旅を続けていて分かった事。
ベルイ国やエーダ国には『物持ちの格差』と呼ばれるようなのは、無いに等しいと感じていた。
街ごとに発展していて、一定の質が良い物を誰しも持っている。
しかし、この街の路地裏を悟った事。
『光の部分』である発展が、途中で止まっているように見受けられた。
―――それが、『闇の部分』となって街の一部になっていると。
(もしかしたら、路地裏に住んでいる方々は……生き抜く力があるのかも)
何故かは分からないが、私と同じ境地に見えた。
物持ちと人種の違いがあるだろうが、『違う目』で見られているかもしれない。
……それでも、懸命に生きている。そう感じた。
「バーリさーん!」
ヨルンの声で、バーリは我に返った。
服屋の前で、ヨルンとミハルが立っている。
「今行きますよ」
路地裏を脇目に、バーリは歩き始めた。




