第14話 『海の最恐竜、現れる』
ノントモーゼ国への船旅はまだ続き、夜になった。
皆が寝静まった、その時だった。
船が大きく揺れ、バーリ達は飛び起きた。
「……何か、あったのでしょうか」
ミハルがバーリに聞く。
「分からないわ」
そう返した瞬間、また大きく揺れる。
「だ、大丈夫かなぁ」
寝惚けながらに、ヨルンが言う。
「ミハルさん、ヨルンを頼めますか。甲板に出てみます」
バーリの言葉に、ミハルは頷いた。
▪▪▪
バーリは、甲板に出た。
船乗りも出ていて、様子を見ている。
「何か分かりましたか」
「すいません、何も……」
その時、光が見え雷が鳴るのが分かった。
皆がその方向を見る。
「ライトを照らしてくれますか!」
バーリの言葉に船乗りは頷き、甲板のライトを照らす。
そこには、大きな竜が見えてきた。
「……あれは、モンゼロン!」
モンゼロンは、『海の最恐竜』と呼ばれる厄介な竜だ。
何でまた、こちらの船を狙うのか―――
(まさか、私達の事を狙っているかも?)
『忘れ去られた島』に住む竜は確か、モンゼロンと双竜として扱っている書物があるのを思い出した。
つい先日、その竜を退治したのは私達だから、それを狙っているのかもしれない。
モンゼロンが海から飛び出してきたかと思うと、こちらに向かってくる。
『ゴガバーニゲラ!!』
手を差し出し、モンゼロンを止める。
竜は、弾かれたように跳ね返る。
それを見たバーリは、指を海へ指しながら術を唱える。
『危害を加えず 還りなさい!』
モンゼロンは、大きな雄叫びをしながら海へ帰っていった。
「……た、助かった」
様子を見ていた、船乗りが言った。
「ええ、大きな被害が無くて良かったです。……ライトを照らしてくれて、ありがとうございました」
バーリが返すと、船乗りは頷いた。
▪▪▪
バーリはそのまま、部屋へ戻った。
ミハルはまだ起きており、ヨルンは再び眠っているようだ。
「大丈夫でしたか?」
バーリに気が付き、ミハルがそう聞いてきた。
「ええ、何とか」
そして、バーリは船の揺れの原因はモンゼロンの事を話した。
ミハルは髪の毛を手でむしる。
「ヨルン殿の『預言』が無かったとは言え、これはまた厄介なヤツが現れましたな」
「……それはそう、だけれど……ヨルンの『預言』が無かったのは、何故かしら」
ミハルの言葉で、疑問に思った。
これもまた『預言』として出てきてもおかしくはない、そう思ったからだ。
「バーリ殿の手持ちにある書物には何か、書いてありませんか」
ミハルがそう言われ、バーリは手持ちの書物を出して読みだす。
そして、『原理』を説いた書物に気になる文言を見つけた。
「『運命ノ子を狙う命が現れる時、守るべき者であることも魔女の役目であろう』……と、書かれています」
「つまりは、モンゼロンという竜が現れたのも……ある意味、原理に乗っ取った話だと?」
ミハルの言葉に、「そうね」とバーリが返す。
「はあ、さらに気を引き締めないといけないのか」
ミハルは頬を触る。
「こればかりは、原理に乗っ取っているものだから……仕方がない。だけど、無事だったのは良かった事ですから」
「そう、ですね」
一通りの確認を終え、二人は再び眠りについた。
▫▫▫
ヨシドラは嫌な胸騒ぎを覚えて、寝床から起きた。
家の外に、誰かが居るのを察する。
「メオドーリエか」
「はい」
メオドーリエは扉を開け、入る。
「精霊達によると、モンゼロンがバーリ様方の船に襲来したとの事です」
「ヴェンゼロンが現れたちゅう話で大体は察していたが、まさかのう」
ヨシドラは眼を閉じる。
「魔女は『運命ノ子』を守るべき使命たるゆえ、何事もなく治まったと読む」
「ヨシドラ様の言う通りでございます。術で追い払った模様です」
ヨシドラは、メオドーリエの言葉に頷く。
「分かり申した、メオドーリエ。下がってもよろしいぞ」
メオドーリエは頷き、家を出た。
「……流石でしたぞ、バーリ様」
▪▪▪
こうして、一時は危なかったが……ノントモーゼへの船旅は終わりを告げる。