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第13話 『船旅での話』

役舎での手続きが終わり、ようやく出国が出来た。

船旅用の食料を買い、三人は船屋へと向かった。


「いらっしゃい」

船屋の主人が相手をする。


「すいません、ノントモーゼ行きの船はまだありますか」

バーリがそう聞く。


主人は手元の紙をめくる。

「10分後に出ます。まだ空きはありますから、いかがなさいますか」


「それでしたら、三人分をお願いします」

「わかりました」


三人分の券を買い、港へ出た。

何人かの待ち人が先に待っているようだ。


「良かったですね、まだ席があって」

待ち時間、ミハルがそう言う。


「ええ、これを逃したら明日になりますから」

バーリがそう返す。


「ねーね。どれくらい時間がかかるの?」

横から、ヨルンが聞く。


「今の時間なら、明日の朝に着くかもしれないね」


もうすぐ日が落ちる刻だ。

夜間の船旅は、日中よりも速度を落とすため朝方に到着する。


「だから、食べ物を買っていたんだね」

ヨルンが言うと、バーリは頷いた。


そう会話をしていると、船がやってきた。

夜間運航用の大きな船だ。


「皆様、お待たせいたしました。乗船時刻になりましたので、券をお見せください」

船員がそう言うと、港で待っていた人々が次々と乗船していく。


「全員乗船よし、それでは出港いたします」


出港を知らせる、大きなブザーが鳴り響く。

そして船員は錨を引き揚げ、船が動き始めた。


▪▪▪


「……」

バーリはかつて住んでいた島を見送るように、甲板で景色を眺めていた。


故郷(まち)を離れるの、寂しいですか」


船員から提供された飲み物を持って、ミハルはそう話しかける。

バーリは目を落としつつ頷く。


「恨みつらみがありましたけど、心の奥底では寂しい部分もあると悟りました」

バーリはそう返す。


「……その、バーリ殿」

「何でしょうか?ミハルさん」


ミハルは、じっとバーリの方を見る。


「私よりも、背負っている過去(モノ)は重いと感じられました」


バーリはまた、少し目線を落とす。

「そう……そう、かも知れないわね」


「私やヨルン殿と一緒に居て、少しは気持ちが紛れたかなと……何かと心配で」

ミハルはそう続ける。


バーリはその言葉に、彼女の優しさを感じた。

剣士だったから、ではなく……本心なのだろうと。


「そうです、ね。特にミハルさんが側にいて、とても心強いと思いまして……」


さらに言おうとした、その時だ。


「……バーリさん!」

船の奥から、ヨルンが飛び出してきた。


「どうしたの、ヨルン」

バーリとミハルは、ヨルンの方を見る。


「お客さんの中の女の子が、高熱を出しちゃったみたい。助けてあげられないかなって、思って!」

ヨルンはそう返す。


「分かったわ、その子の所へ連れていってくれるかしら」

バーリが言うと、ヨルンは頷いた。


▫▫▫


船中の大広間へ、三人が入っていく。

ソファーに女の子が寝ていて、側に両親が付き添っている。


「大丈夫ですか」

バーリが話しかける。


「ソロンが、高熱を出してしまって……」

母親が涙ながらに、伝える。


詳しい事を聞くと、出港後に苦しみだして高熱を出してしまったみたいだ。


様子を伺うと、ソロンと呼ばれた女の子は胸の部分を掴みながら、熱を出しているようだ。

さらに頬のところに、普段見受けられない赤い斑点が点々と付いている。


(只の熱では無さそうね)


バーリは、肩掛け鞄から治療術の本を取り出す。

『発熱・寒気』の項目を見ると、同じ症状の対処法が書いてあるのを見つけた。


「……ソロンちゃん、ちょっと身体を触るよ」

バーリは優しく問い掛けながら、胸の辺りを触る。


『ゾンネ・グローヴァ』


そう術を唱えると、ソロンの表情が和らいでいく。

そして煎じたハーブ茶を少し飲ませた。


「これで、大丈夫だと思われます」

バーリが、そう言う。


「ありがとうございます……!」


▪▪▪


「バーリ殿、先程の術は何だったのです?」

再び甲板に出たところで、ミハルが聞く。


「頬に赤い斑点がありましたでしょう。あれは、毒気のある植物に触れた時に出てくるらしくて、それに合わせた術だったのです」


甲板に出る前に船員に話を聞くと、虫除けに使われる植物が置かれているという話だ。

母親にもう一度話をすると、確かにその植物の葉を熱を出す前に触ったという。

船員に事情を話し、手に届かないように置くということで解決した。


その旨を話すと、「成る程」とミハルは呟く。


「あ、あの」


バーリは、話しかけた事をミハルに伝えた。

ミハルの生き様を、私も見習おうと思っている事を。


それを言うと、ミハルは頬を紅く染めた。

「そう言っていただけて、本当に嬉しいです」


――まだまだ、船旅は続いていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 流行病かとちょっとヒヤっとしました。 [一言] ミハルさんは大人ですね。三人の中で一番。
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