第12話 『賢者の末裔と出会う』
バーリ達は、シェンドラからノベロへと向かう。
距離はそれほど無く、1時間もあればついた。
そろそろ門が見えるところで、一人の女性がこちらへ話しかける。
「すいません、バーリ様でいらっしゃいますか」
「はい、そうですけど……どうして私の名を?」
バーリがそう返すと、女性は頭を下げる。
「賢者の末裔である、ヨシドラ様よりお目にかかりたいと申し出がありまして」
バーリはその言葉に驚いた。
『賢者』はかつて『魔女』と共に活動が栄えていた存在だが、最近では実在そのものを聞かなくなったからだ。
「どうされます、バーリ殿」
ミハルが聞く。
「どうして私の名を知っているかを含めて、話を聞いた方がいいかと」
「それでは、こちらへ」
女性が手招きをし、三人はその後に着いていった。
街中の外れにある、小屋へついた。
女性が扉を叩く。
「ヨシドラ様、例のバーリ様をお連れしました」
そうすると、「入りなさい」と声がした。
女性が扉を開くと、中には本が敷き詰められた居間が見えた。
その中央に、年老いた女性が座っている。
三人は小屋の中に入っていく。
「それでは、私はこれにて」
案内した女性は、小屋を出た。
「……お会いしたかったですぞ、バーリ様。わたくしは、賢者の末裔である、ヨシドラ・エンドリーと申します」
▫▫▫
三人は居間のところに座るよう言われ、座る。
「あの、最初に聞きたい事ですが……どうして私の名を?」
開口一番に、バーリが聞く。
「ネメントリーの事件やシェンドラの地震被害の件を、魔女の生き残りである貴女様が解決していると伝手で聞きましてな」
「そうでしたか」
「そして、その幼き子は……『運命ノ子』であるヨルン様ですな」
そうヨシドラが言う。
「何か、事情でも分かるのですか」
ミハルが割って入る。
その言葉に、ヨシドラは一つの本を取り出す。
「賢者であれば一つは持ってあろう、『世界ノ書』という書物に記載がありましてな」
いくつかのページをめくり、該当する文言を言う。
「『魔女と運命ノ子は、全ての事象を終わらせる力を持つであろう』と書かれておる」
「……それ、私が持っている書物と同じことが書いてあるわ」
バーリが言うと、ヨシドラは目を見開く。
「それを見せてみなされ」
言われるがまま、バーリは受け継いでいる本を取り出して見せる。
それを見たヨシドラは、「ほう」と呟く。
「……そうか、そうか。バーリ様の家系は魔女の中でも『最古の民』になるのか」
「あの、それはどういう事です?」
本を返して貰いつつ、バーリが聞く。
「バーリ様の家系は最古の民の一つとされていてな、賢者との関係が最も密接な事が多い。書物の記載が似ている事が一番に挙げられる事柄だがな」
どうやら伝手自体は『天使の御言葉』という手段で聞き出した事で、一度でも会って話がしたい、という事みたいだ。
「あの、私達は一体どうなるのでしょう」
バーリが聞く。
ヨシドラは目を閉じる。
「いずれは運命の歯車の下、『忘れ去られた島』に行くこととなる。しかし、何が起きるのか、これから先はどうなるのか……わたくしらの書物やバーリ様の御本には書かれていないこと。その眼で見るしかない、と言うしかなかろう」
自身とヨルンを引き逢わせた先は、『忘れ去られた島』に繋がる―――
賢者がこう言うのだから、そうなるのは間違いはないだろう。
バーリは下を向き、手を握りしめる。
これまでの事柄と勘が、事実になろうとしているのだ。
「過酷な運命になると思うが、バーリ様とヨルン様ならどんな事象でも止められる。わたくしの名に懸けて、見送る言葉にいたす」
「……ありがとう、ございます」
そのまま、バーリは深々と頭を下げた。
▪▪▪
「大方、バーリ殿の考えた通りになりますね」
ヨシドラの家を出た後、ミハルが言う。
「ええ。賢者があの様に言うってことなら、そうなるのはほぼ確実ね」
バーリがそう返す。
「……ねえ、ねえ。これからどうするの?」
ヨルンが横から聞く。
「そうね。まだ『忘れ去られた島』に向かうのは早いと思うから、ノントモーゼ国へ行こうと思うわ」
そうバーリが言うと、二人は頷いた。
そして、手続きをするために役舎へ向かった。
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「御呼びですか、ヨシドラ様」
一人の男性が、ヨシドラの家へ入る。
「……あの御三方を、遠目で見守ってくれんかの」
そう、ヨシドラが言う。
「先ほど謁見した方々、ですよね。何かあったのです?」
「賢者の末裔として、魔女と『運命ノ子』の子がちぃと心配での」
その言葉に、男性は頷いた。
「分かりました。お請けいたします」
「頼んだぞ、メオドーリエ」
「はい」