第11話 『第四の預言、紡ぐ』
ネメントリーの一件を終えた、翌日。
再び、旅に出ることとなった。
「今日は何処までの予定です?」
宿の前で、ミハルが聞く。
「そうね」
バーリが地図を開く。
「ネメントリーから南東にある、シェンドラという街を経由してノベロに向かおう。」
エーダ国はベルイ国よりも領地が狭いため、直ぐに港があるノベロへ行こうという話だ。
「分かりました。それでは行きましょうか」
こうして、三人はネメントリーを出た。
▪▪▪
(……ふう、やっぱりベルイ国よりも歩きやすいわね)
道中、バーリが思う。
ベルイ国は、山々が連なる国。大きな街へ移動しようとすると、山登りが必須になる。
それに比べて、平野が広がるエーダ国は旅のしやすさはある。
「そう言えば、バーリ殿」
ミハルが話しかける。
「なんです?」
「その、バーリ殿ってどこの出身なのです?一番気になっていて」
苦笑いしつつ、ミハルが聞く。
「私の出身地、ですか……」
バーリは下を向く。
「すいません、余計な質問でしたか」
その様子を見たミハルは、慌てて言う。
バーリはゆっくりとミハルの方を見る。
「私、出身はどこか分かりませんの」
「分からない、ですか?」
ミハルの言葉に、バーリは頷く。
「ベルイ国の山奥で私は生まれて、母が生前の時は二人きりで過ごしていました。……生まれた山奥は、どこか分からないとでも言っておきましょうか」
「それから、どうされたのです」
ミハルがさらに聞く。
「母が亡くなる前、『ヨバレと言われる街へ行きなさい。それから生き様を決めなさい』と言われました」
――それからと云うもの。ヨバレの街へ出たのですが、『魔女』という存在を住人は冷めた眼で見ました。私はそれから、飄々と旅をする『人間』になろうと思いました。
そう、バーリが続けた。
「申し訳ない、本当に余計な事を聞きましたな」
話を聞いたミハルは、そう言う。
「ミハルさんが、過去の事を赤裸々に話してくれましたから……言ってもいい、そう思いました。だから、謝らないでください」
そうバーリが返す。
「そろそろ、街が見えてきたよー!」
少し先を歩いていたヨルンが、二人に言う。
「行きましょう」
バーリが微笑んで、歩いていく。
(……思っていたよりも、『魔女である』目線がツラかったのだろうな)
バーリの目の奥が暗く滲んだ色に見えた。
剣士であった自分よりも、重い過去を抱え込んできたのだろう。
(ヨルン殿や私が居てくれて、少しは明るくなっただろうか)
そう願いつつ、ミハルは二人の後を着いていった。
▪▪▪
道中は何事もなく、シェンドラへついた。
ここへは休憩を挟むだけにし、もう少ししたらノベロへ向かうことになる。
……と、思われた。
休憩後に、ヨルンが『預言』を受ける仕草をしたのだ。
瞬く間に、光が射し込む。
『第四の預言、地の神が怒る時 街が崩れるだろう』
そう、告げた。
「地の神……もしかして」
バーリが言いかけた途端、地面から押し上げられるような感触を得た。
「地震だ!皆、伏せろー!」
住人がそう叫び、皆は一気に地面に伏せる。
揺れは長く続く。
(……う、こんな大きな揺れは初めて……!)
バーリはそう思いながら、ヨルンを守りつつ伏せる。
長く続いた揺れが、ようやく収まった。
それも束の間、バーリ達が居る場所の地面が一気に割れた。
中から、何者かが現れる。
「ミハルさん!皆さんを避難誘導させて!」
懐にある札を出しながら、バーリが叫ぶ。
ミハルは頷き、住民を避難させながらヨルンと共にその場を去る。
地割れから、こん棒を持った者が現れた。
奴は、『地獄の王』と呼ばれるモヴーリェ王だ。
「……ここは、貴方の出る所では無いわ!」
『禁断ノ札』を持ちながら、バーリが言う。
モヴーリェ王はお構い無しに、こん棒を振り上げる。
すれすれで、バーリは避ける。
(……やるしか、ないわ!)
覚悟を決め、バーリは『禁断ノ札』に口をあて呪文を唱える。
『ゴボローニャ・ゲボロライト!』
札からモヴーリェ王を上回る天使が現れたかと思うと、奴を押さえ込む。
さらに何人もの天使が現れ、モヴーリェ王は抵抗虚しく地割れのところに吸い込まれて消え去った。
▫▫▫
建物や道、怪我人が数人の被害は出てしまったが、死人が出なかったのが不幸中の幸いだった。
そして、修復は住民達で行うと聞いた。
「バーリさん、あの天使って?」
事が終わった後、ヨルンが聞く。
その場に居たミハルも、同じことを気になっているみたいだ。
「天の神である、ヨーヴァルよ。地の神と聞いて、直ぐに対処の方法を思い付いたの」
モヴーリェ王とヨーヴァルは、相反する存在だ。
呼び出す事が出来るのは、『禁断ノ札』を持っているのとそれに準じる呪文を知っている者だけだ。
「つまりは、あの場に居たバーリ殿しか出来ないと」
ミハルの言葉に、バーリは頷く。
つくづく、『この世の原理』を説いたあの本を思い出す。
バーリ自身と、ヨルンは逢うべきして逢ったと……
「……さて、後は住人の皆さんに任せて、私たちは邪魔にならないように街を出ましょうか」
バーリが言うと、二人は頷いた。
こうして、『第四の預言』は終わりを告げた。