第9話 『エーダ国に入る』
スヴァでの一件があったが、翌日に無事エーダ国へと入国が出来た。
「うわぁぁ!ひろーい!」
門をくぐった途端、ヨルンがそう言う。
山々が連なるベルイ国とは違い、エーダ国は平野地帯が多い国である。
『外の世界』を知らないと思われるヨルンには、この光景は眼を輝かせるのに相当する物だとバーリは思った。
「今日はどこまで行きますか?バーリ殿」
ミハルが聞く。
「そうね……」
国境管理隊の剣士から貰った地図を広げる。
「……時間的に、国境があるミヴァからネメントリーって街まで行くのが妥当ね」
ネメントリーまでは、距離で換算すると3時間程だ。
その付近で一泊するのがいい、そう考えた。
「それじゃあ、行きましょうか」
バーリが言うと、二人は頷いた。
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道中、休憩をしている時にバーリは手持ちの古い本を見ていた。
家系から代々受け継いだ、『この世界の原理』が書かれている本だ。
ヨルンの事があってから、度々この本を開いて見ている
「何か分かりましたか」
ミハルが横に座って、聞いてくる。
「一つだけ、気になる文面があって」
ミハルは、バーリが指差した文面を見る。
「すまない、なんて書いてありますか。見馴れない文字でして」
それもそうだ、とバーリは苦笑いする。
この本は、旧字を使っている。
バーリ自身、それに関しては親から少し習っている事もあって、大体は読めるのだ。
「『魔女と預言が合わさる時、この世の歯車がまた回り始めるだろう』と、書いてあります」
文字をなぞりながら、バーリが言う。
「……つまり、バーリ殿とヨルン殿は『逢うべきして逢った』とでも?」
ミハルの言葉に、バーリは頷く。
「そう捉えるのが妥当ね」
ミハルは手で頬を擦る。
「そうなると、これからどうなるのでしょう?昨日言っていた、『この世の終焉』が訪れるとでも言うんでしょうか」
バーリは本に眼を落とす。
「そこら辺は、この本には書いていない。でも、私が持っている本には……続きがありそうなの」
「それは、どういう事でしょうか?」
ミハルが聞く。
バーリは最後のページを開き、一文を読む。
『魔女と預言ノ子は、全ての事象を終わらせる存在である』
「……確かに、続きがありそうな文言ですね」
それを聞いたミハルがそう言う。
「事象ってのは、多分預言の言葉なんだろうけど……その先が分からないのよね。新しい世界でもなるのかな」
バーリは頭を抱える。
ミハルは溜め息を漏らす。
「今出来るのは、その言葉を頭の片隅に置いておくしかない事。あれこれ考えていても、煮詰まるだけです、バーリ殿」
「……それも、そうね」
「ねーねー!そろそろ行こうよぉ!」
少し離れた所に居た、ヨルンが言う。
「分かったわ」
バーリとミハルは立ち上がり、ヨルンの所へ向かった。
▪▪▪
やっとの思いで、ネメントリーに着いた。
途中で休憩を挟んだとはいえ、3時間も歩くと疲れが溜まる。
宿を先に取った後、ご飯にしようとした時だ。
剣士隊の駐在所で、何か言い争いをしている声が聞こえた。
「……何かあったのでしょうか」
ミハルが言う。
近くまで寄ってみる。
「お願いです、子供を助けてください!見知らぬ方に、連れ去られたの!」
「状況証拠がなければ、動けませんってば」
「どうしますか」
ミハルが聞く。
「彼女、嘘を言っているように見えません」
バーリが答える。
「話だけでも聞こうよ」
ヨルンも横から言う。
「失敬、少しよろしいか」
ミハルが話に割って入る。
「申し訳ないが、端から少し話を聞いていた。子供を連れ去られたというのは?」
彼女……母親の言う分には、おつかいを頼んでいた子供が翌日にもなって帰ってこない事を、剣士隊の人たちに言っていた。
しかし状況証拠が不十分な為に、剣士隊は動けないという話なのだ。
「ねぇ、助けてあげれない?」
ヨルンが聞く。
「確かに、剣士隊の方々は忙しい。だからこその状況証拠ってモノだ……それならば、私達が請け負ってもよいか?」
ミハルが言う。
「ええ、ミハルさんの言う通りだと思いますわ」
バーリもその言葉に賛同する。
「それでは、よろしく頼む」
剣士隊の方が頭を下げる。
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預言とは違う想定外の事になったか、こればっかりは仕方がない。
一先ず話を聞くために、母親であるナツメの家へ行くこととなった。