【コミカライズ開始記念】番外編②-1.海の夢とおはよう
ついに!いよいよー!
3/11(月)からコミカライズが開始となります!!
作画は湯瀬ライム先生です。
へこたれないマルグリットに困惑し続けるルシアンのかけあいが本当にかわいいのでぜひ見てください♡
コミカライズ開始を記念して、今日から3/11までの3日間、後日談番外編を更新します。
最終日にコミカライズページへのリンクを貼りますのでお付き合いよろしくお願いします!
水面から差し込む光が蒼い海の底を輝かせる。蔓をのばした苔のような、不思議な形の生き物と、その合間を群れて泳いでゆく魚たち。
色鮮やかな鱗が煌めく。やがてその煌めきは、やさしい笑顔になった。
(お母様――……)
絵本を読んで聞かせる母の膝を、幼いマルグリットとイサベラが奪いあう。懐かしい団欒の光景にマルグリットは手をのばした。
その手がぽすんとなにかに触れた。
(?)
首をかしげると同時に、マルグリットは目を開いた。
夢の世界が終わり、目の前に現実が戻ってくる――マルグリットの体へ腕をまわし、健やかな寝息を立てている夫ルシアンの寝顔が。
マルグリットはそんなルシアンの胸元に、のばした左手を触れさせていた。
呼吸とともに上下する温度が伝わってくる。
(……っ!! っ、っ!!)
慣れたつもりでも不意打ちの触れあいはまだ気恥ずかしい。ドアップの寝顔つきならなおさらだ。
声をあげそうになった唇を両手で押さえ、マルグリットは真っ赤になった顔でおそるおそるルシアンを見た。
艶やかな黒髪が乱れ、少しだけ癖のある毛先が頬や耳に散っている。通った鼻すじに薄い唇。髪と同じ色の睫毛で縁どられたまぶたの向こうには、マルグリットをとらえて離さない深海色の瞳が眠っている。
嫁いできたばかりのマルグリットは、自分より美しい方だと感嘆の目でルシアンを見ていた。
(でも、寝ているお顔は、少しだけ幼く見えるのよね)
ふふ、と笑い声を漏らしそうになってまた口元を押さえる。
ふたりの寝室をつなぐドアにもう鍵はかかっていない。就寝の身支度を整えたマルグリットは、「おやすみ」を告げられた侍女アンナが出ていくのを見送ってから、ルシアンの部屋へと移動する。
どうせ翌朝にはルシアンのベッドで発見されるのだから、見送る必要はないのだが、そこは羞恥心が残っている。なにかを察したアンナが家令のリチャードを巻き込みルシアンの部屋のベッドをひとまわり大きなものに入れ替えたから余計に。
(ド・ブロイ領から戻ったら、家具の配置が変わっていたのよね……!)
あのときの衝撃は忘れられない。
(……早く、自分の部屋に戻りましょう)
もうすぐアンナがくる時刻だ。またもや熱を帯び始めた頬を冷ますべく、マルグリットが起きあがろうとしたときだった。
マルグリットの体は意思に反して、ふたたびベッドへと戻っていく。肩をしっかりと抱いているのはルシアンの腕だ。
「ルシアン様!」
「おはよう、マルグリット」
「おはようございます……」
柔らかくほほえまれ、マルグリットは目を泳がせた。
「どうした? 具合でも悪いのか」
「いえ……」
「だが、熱がある。目も潤んでいる。アンナを呼ぶか?」
「いえ、その」
熱くなった頬に手のひらを添えられて、なんと答えたものかと悩みながらルシアンへ視線を戻せば、心配そうな台詞を紡いだ唇は意地悪く口角をあげていた。
クッと小さな笑いがその唇から漏れる。
「ルシアン様! からかいましたね!?」
「すまない」
身を起こしたマルグリットにならい、ルシアンもベッドへ座った。笑いを止めようと身を丸めているのだが、それでも肩が震えている。
「君が俺より先に起きた日は、顔を見る前にベッドを出てしまうから」
今朝は、手がルシアンの胸元に触れてしまった。それで目が覚めたのを、寝ているふりをして様子をうかがっていたのだとルシアンは言う。
「全部、見ていたんですか……っ」
「赤くなったり、俺のことを見たり、笑ったり、かと思えば慌てて起きようとしたり」
「言わなくていいですっ!」
堪えきれず笑い声をあげるルシアンを、マルグリットは恨みがましい目で見つめた。
マルグリットが百面相をしているように、ルシアンも以前なら表に出さなかった感情を多く見せてくれるようになった。それはふたりの距離が近づいていることの証で、嬉しくもある。
そんなことを考えていたら、腰に腕がまわって抱きよせられた。頬に柔らかな感触がおりてくる。
「君のいろいろな表情が見られるのが嬉しい、マルグリット」
思っていたのと同じ言葉を告げられて、幸せのくすぐったさに、マルグリットも笑った。






