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28.5.王妃と第三王子

 ド・ブロイ公爵からの書状を読み終わり、エミレンヌは笑顔を浮かべた。

 かたわらにはいつものようにノエルが立っている。

 

「数か月以内に当主の座をルシアンに譲り、アルバンとユミラは領地へ移り住むそうよ。ようやくアルバンがユミラの心をつかんだと見える……長かったわね、二十年よ」

「これまでなにをしても無駄でしたからね。めでたいことです」

「どれだけ抵抗してもルシアンはマルグリットのものだとわかったのでしょうよ。そうなってはじめてアルバンの気持ちが届いた」

「……そんな綺麗な恋物語ではないでしょう、あれは」

 

 ノエルはため息をついた。

 

「ド・ブロイ家の長い内輪揉めの原因を作ったのは王家ですからね」

「ずいぶんと冷たい言い方をするじゃないの」

「ぼくの()()()のことですから」

「わたくしだって、直接関係のない立場とはいえ、申し訳なく思っているのよ。だからノエルに……わたくしの懐刀に、見守らせているのでしょう」

 

 母と子の会話とは思えないような会話を交わしつつ、エミレンヌとノエルは互いに肩をすくめた。

 王家にも王家で、様々な事情がある。

 二代前の国王の治世で、行く当てのない王子を多額の持参金と公爵位とともにド・ブロイ家に引き取ってもらったように。

 あの公爵位が三代限りのものだったと知る者はいない。期限の来る前に、ある条件と引き替えにド・ブロイ家は世襲のできる公爵位を得た。

 このことはルシアンも知らない。

 

「そういえば」

 

 とノエルは話題を変えた。

 遠くを見つめる瞳になっていたエミレンヌもノエルに応じ、興味ありげな顔で身を乗り出してくる。

 

「なにかしら」

「ド・ブロイ公爵の提案に頷いたはいいものの、気持ちの整理がつかないのか、ユミラ夫人は寝込んでしまったようですよ」

「それはまあ……」

「おまけにマルグリット嬢も寝込んでいるそうです」

「まあ?」

 

 エミレンヌは首をかしげた。

 あの物怖じしなさそうな娘に寝込むような心労がふりかかったのだろうかと疑問に思ったからだ。

 

「まさか、ルシアンがなにか?」

「いえ、こちらはただの風邪であろうということです」

「そうなの」

 

 ノエルの冷静な報告に、エミレンヌは眉をさげる。

 

「あの二人、うまくいくといいのだけれどねぇ」

「なんとかしましょう、王妃陛下の御意ならば」

「ふふ、頼りになるわ」

 

 やはり母子とは思えない会話をしながら、エミレンヌとノエルは顔を見合わせて笑ったのだった。

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