第3話『2人の姉を探しに』の巻
「平八郎には血肉を分けた二人の姉が居た!」その衝撃的ニュースの真相を探るべき旅へと出た古利根沼平八郎。ところが一人千葉県は北東部の房総半島に向かうも船内で『あの椿海が焼失した!』とのショッキングな追い打ちに心身共に疲れ果ててしまった彼。父の残した不吉とも言える予言めいた一言「決して姉二人の行方を追ってはならぬ!」の洗礼が果たしてこれなのか?悔しさや怒りの余り自暴自棄に陥り、良からぬ方向へ矛先を向ける平八郎!そして謎の人物との遭遇で事態は思わぬ方向へ…!とまぁ、タコにも小説風にまとめてみました!イ、イカに…分かりました?え、白々しい?
平八郎が先日亡くなった父親から知らされた事実として唯一印象に残っているのは、ただ一つ。姉の名前が一人は『紫鶴』と言い、そしてもう一人が『百合花』ということだけ。それ以外は何一つ手がかりと言える情報も無く、二人の姉が一体どんな人生を歩んで来たのかさえも皆目見当もつかない。だからこそ謎めいた過去を持つ二人に余計に会いたい気持ちが強くなり、居ても立っても居られないジレンマを揺り動かす原動力となったのではあるまいか。
千葉県東圧市、旭市、匝瑳市に跨る、消えた『椿沼』の広大な田園地帯に独り佇む古利根沼平八郎。姉を探しにここまで死に物狂いで漸く現地へと辿り着いたのも束の間、人間達の自分勝手な私利私欲に振り回され、翻弄され、生きる気力をも失い欠けた彼の心中穏やかな筈はなく急激な人間不信から復讐へと怒りの炎が舞い上がり、もはや誰も彼を止められず、遂に彼は“禁断の悪魔蘇生術なる血染めの儀式”を断行する。平八郎は沼が消えた大地から大海原へ向けてこう固く誓った。
「俺は魚人を捨て海魔妖星としてこの世から全て人間の命を奪い、そして日本全国土を陸地から沼地化へと浸水させる。」
平八郎には一抹の迷いも無ければ後悔する理由すら見いだせないまま翌朝を迎え、妖怪変術の儀式がその日の夕刻決行されることに…。“妖怪変術”それは無数のヒルが群生するという妖気沼を念術千回の呪文を唱えることで仮想空間内に呼び寄せ、裸のままその沼へ飛び込み、全身体の生き血をヒルに捧げ祭る、悍ましき儀式である。それを経て魚人から妖怪へと変化し、全身から血を抜かれた肉体のみが海へと流され、水生植物たちの餌として奉納され一連の流れは終わる。ただ一度妖怪化すると一生元の魚人には戻れない。それどころか魚人として生きていた全記憶も消され、別人格で凶暴な魔性へと生まれ変わるのだ。
刻一刻と時が過ぎ、辺り一面暗くなり、周囲には人っ子独り見当たらないくらい静かな田園地帯の一角で天空には夥しい数のカラスの群れが彼の頭上で気味悪いほどぐるぐると旋回を繰り返していた。また彼の眼前には九十九里浜が追い打ちをかけるかの如くものすごい波しぶきを上げてその様子を始終伺っていた。
“天界宗術臨海転生行力滅法魁家抜血”(てんかいそうじゅつりんかいてんせいぎょうりょくめっぽうかいけばっけつ)…“
その時突然一羽の海猫が儀式を邪魔するかの如く、ある言葉を発し乍ら平八郎目掛けて何度も飛びかかって来た。その言葉とは勿論人間の言葉ではなく魚人のみがキャッチできる言うなればテレパシーといったものである。
『シズル、シズル、ユリカ、ユリカ、フジミヌマ、フジミヌマ、アブナイ、アブナイ!』
「おのれ、外道!何故邪魔をするか?貴様如きに恨みを買う俺ではないと言うに…止めろ!さもなくば抜刀も辞さない覚悟を知った上での画策か?」
平八郎は正に血迷ってた。平常心すら失くしかけてその海猫を追っ払おうと躍起になっているところにまた一つ、どこからともなく女性の声が聞こえて来る。
「お止めなさい、沼南!それ以上事を荒立ててはなりませぬ!」
その一言で海猫は瞬く間に海へと消え去って行った。
「もしや旅のお方、お怪我はございませんか?」
「怪我も何もアンタ一体誰なんだ?もしかしてさっきから一部始終見てたのかい?」
「ええ、それで沼南に命じて貴方様の言動を止めさせたのです!」
「ちーっ!この俺としたことが…何て間抜けなんだ?人間に見られたんじゃ世も末だね!念術百万回唱えたって絶対無理だね!あーアホらしい!止めた、止めた!」そうぼやき乍らその場を去ろうとして平八郎は思わず足を止めた。
「私は生まれつき人間ではございません!貴方様と同じ元魚人族の1人でした。」
「生まれつき?…でした?って一体どういうことだよ?魚人であって魚人じゃないって…益々分かんねぇ!魚人だったアンタが俺みたいな赤の他人の言動に干渉する権利がどこにあるんだよ?」平八郎はちょいとばっかしイラついた物言いになっていた。
「…。」
その若き女性は、ほんの少し間を於いてから平八郎をじっと見つめ、意を決して静かに優しく語り始めた。
「私も貴方様と同じ血筋を持った一人として貴方様が何をしようとなさってたのかすぐに察しがつきました。私の仲間による、あのような悍ましき儀式を今まで何度も見せつけられ、止めに入るも間に合わず、悔しさや悲しさいっぱいで涙を流しました。如何なる理由があれ、妖怪になってこの世に恨みつらみを晴らそうなんてとても私には到底理解できません!まして自分を犠牲にしてまで死を選ぶ行為には正直言って耐えられません。生きていれば辛いこともあるでしょうが、その辛さに負けて自分という存在を悪に変えることが果たして幸福を導く手立てとなるでしょうか?魚人だって命は大事なもの。親から授かった大事な魂を決して粗末にしないで下さい!」
平八郎は彼女の妙に説得力のある言葉に思わず癒され、いつしか怒りも静まり、面と向かって彼女へとある言葉を残した。
「アンタって…あれだな、俺の姉さんみたいだな?温かくて優しそうで…悪かったよ!もう二度とあんなことしないよ!…てか人の気配すら分かんないようじゃ到底変身なんて一生無理だなぁ!あ~ぁドジな俺!そういや印旛沼でドジを絵に描いたような奴がもう一人居たっけ?アイツ、なんて言う名だったかな?テ…ガイテエ?テガミチョーダイ?ち、違う、違う!ハヤテ…イヤイヤそんなカッコイイ名前じゃないだろって?ハヤクシタクシロー?うわぁ―めんどくせぇ!どうでもいいそんなこと!何処のどいつだろうと俺の知ったことじゃねぇや!じゃあ、そういうことで…もう二度と会うことないけど…有難う!思いとどまらせてくれたこと心から感謝してるよ!」
そういうと平八郎は足早にその場を去ろうとするや否や、彼女に右手を掴まれたった一言。
「いま貴方様は“ハヤテ”とおっしゃいませんでした?どうしてあの方のお名前を?」
「あっ、そ、そのこと?単なる思い付きで出ちゃっただけだよ?ハハハ?それが何か?」
と言い切らぬうちにまたもや悲鳴を上げる古利根沼平八郎!
「うわーっ!またあのくそ海鳥め!何で俺ばっかし攻撃しやがるんだよ!俺何もしてねぇじゃんか?て言うか、アンタが命令したの、また“俺を襲え!”って?」
「そんな、そんな…きっとあの子の個人的感情ではないかと…?」
「冗談言うなよ?好き嫌いでこんな目に遭うなんて…?イ、イテぇ!もうヤダァーーー!」
平八郎はさっとその場を離れ、彼女に向かって手を振ると彼女の方からこう叫んで来た!
「あの―貴方様のお名前は――――っ?」
「古利根沼平八郎―――っ!」
そう大声で叫ぶと彼は一目散にその場から姿を消すことに…。
女性は突然彼の名前を耳にした途端、放心状態となり、わなわなと震えながらその場で思わず泣き崩れてしまった。
次週もお楽しみに のがみつかさでした!
別件ですが、もうニュースを観る度、「このままだと感染拡大がいつまで続くのか?」に不安以上に恐怖さえ感じざるを得ません!他国の異常な感染者数にどんどん日本も近づきそうで…。このままだとまた医療逼迫と経済大打撃で世の中全ての動きが止まってしまうんじゃないかと?そんな中で昨夜の九州地方での大地震(「心よりお見舞い申し上げます。」)もう本当に勘弁して欲しい、そう思います。




