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第二章 怪人化2

「待たせたな」


 そう言いながら横に座った。力也はチラリとこちらを見て、視線を目の前の池の方へと向ける。池は真っ暗な中にあり、何も見えない。正直、昼の明るい時の景色を知っているからあるのがわかるだけで、今この場ではあるのかないのかはわからないと言って良いほどだ。


「ああ」

「昨日ぶりなのに、老けたなお前」


 少し茶化してみる。


「お前は相変わらずで羨ましいよ」


 少しだけ笑ってくれたようだ。


「お生憎様。こっちも色々と大変さ」


 大変さがわかるように後半声を落とす。すると、力也がチラリとこちらを見た。


「そうか・・・・・・」

「何があった」


 そのまま本題に入る。


「昨日あの後、恵子と別れた」

「恵子と」


 少し声がうわずってしまう。これは大問題だ。力也から聞く恵子の話では、ゆくゆくは結婚を考えているはずの相手だ。たまに喧嘩するようなことはあったが、仲も基本的には良い。あの事件の当日も会場の準備をしてくれたりと、手伝ってくれている。そうか・・・・・・。


「あの事件か」

「ああ」


 力也は一度大きく息を吸った。


「霧雨にばれたからな、俺達のこと。すぐにいじめが起きたらしい。俺はすぐに別れを切り出したが、恵子はこんな会社は辞めてやるって、実は俺たちよりも先に自主退社していたんだ。俺はそのことがあってキレて社長に抗議しに行った。なんとなく聞いただろう。その場で辞表書いて提出してやったよ」


 力也はふぅ、と息を吐いた。そして、もう一度吸う。


「俺たち二人、働き口を失って、どうしようかなってお前に相談しようとしてたんだ。そしたらあいつらに襲われた。相談する機会失って、自分で悶々と考えていたら」


 そこで力也は息を飲む。そして、黙ってしまった。俺は少し促した。


「考えていたら」


 横目で険しくなる力也が見えた。


「怪人がいた。鏡の中に。俺たちが会ったあの黒い方じゃない。テレビで見た。ゴツゴツした方だ」


 同じだ。やはり力也も俺と同じだった。怪人化したのだ。


「最初は俺も混乱していた。鏡の中のやつを自分だとは思わなかった。だから、すぐに戦隊が来た時に俺は思った通りに言ったんだ。鏡の中に怪人がいたって。戦隊達はまた狙われる可能性があるからって、連絡先と発信器を置いていった。だが、戦隊達が帰った後に冷静に考えると、鏡の中に映っていたのが俺だけだったことを思い出したんだ。そしてわかった。俺が怪人になりかけているんだって」


 どうやら力也は俺よりも一足先に自分のことに気付けたらしい。


「それである意味決心がついた。恵子と正式に別れようって。すぐに電話をしてその旨を伝えたよ。勿論怪人のことは言わなかったが。恵子は別れたくないと言った。その後何度も電話したよ。さっきの夕方まで、な」


 力也の目からは涙がポタポタと流れていた。


「さっき無理矢理切って、すぐにブロックして、記録も消した。そしたらまた戦隊が来た それは適当なことを言って追い払った。怪人化が進んでいるみたいだ。どうやら俺は、世界の敵になるらしい。笑っちまうよな。会社の敵になった俺が、今度は世界の敵になるんだもんな。恵子とは釣り合いが取れねぇよ」


 力也は笑っていたが、苦しそうだった。


「お前にはまだ人間のうちに話しておこうと思ってな」


 誰にも知られたくない一方で、誰かには知っていて欲しい。そんな矛盾が伝わってきて、それに深く共感する自分がいた。


「そうか」


 一人は、苦しいよな。


「力也。俺も言っておくことがある。怪人化の話。どうやらお前だけじゃないみたいだ」

「えっ」


 力也がこっちを見た。俺は俺のいきさつを力也に話した。


「そうか。お前も・・・・・・なのか」


 二人で闇の広がる池を眺める。


「俺、時々思うんだ。こんな世の中壊れてしまえば良いって。この世の中は腐っているって」


 力也が滔々(とうとう)と語り出した。


「お前が来るまで考えていたことだ。電話、ここでしていたから」


 なるほど、ここに居たのか。


「この前の事件も当然そうだったけど、たぶんあんな事件世の中には万とある。それだけじゃない。いじめ、自殺、殺人、強盗、窃盗。世の中には色々な犯罪や忌むべき事件がある。怪人なんかいなくても世の中は十分汚い。腐ってる。今はたまたま怪人が今まで作った人間のルールから、人間の檻から外れているから注目されているだけなんだ。怪人には本当は罪なんて無いのかもしれない」

「怪人保護理論か」


 怪人保護理論。怪人は人間の進化の先とし、怪人の行う行動を全面的に肯定する理論。力也のような論調で話す人もいる。他にも、怪人は地球に生まれた新たな種族で、生きるため、繁栄するためにたまたま地球の中のもう一つの種族である人間と衝突しているに過ぎないという理論もある。

 この理論は広く議論され、政府も軽視出来ない理論に育っていた。そこで行われたのが日本(人間)と怪人との和平工作「日怪和親条約会議」である。怪人に特別自治区を与えて、そこで生活してもらおうとする策だ。しかし、それは人間の檻に閉じ込める行為でしかなく、怪人保護理論の延長ではなかった。人間は結局怪人を次世代の人間。つまり進化した人間と認めることは出来なかったのだ。


「そうとも言うが、ちょっと違う。何と言うか、怪人の目的を知らないまま悪と決めつけるのは本当に正しいのだろうかって話だ」

「だが、俺たちは殺されかけた」

「ああ、だが殺されていない」

「それはーー」

「それは戦隊が助けてくれたから。そうかもしれない」


 俺は力也の思想を汲めずにいた。


「何が言いたいんだ」

「俺たちは今、怪人化している。言うなれば奴らの仲間だ。もしかしたら攫うのが目的だったのかもしれない」


 俺は頷かずとも、否定はしなかった。怪人が人間を怪人化させる話を聞いたことあるからだ。ただ、


「俺はあの時確かに殺される恐怖を感じた。その気持ちには嘘は吐けないな」

「そうなんだ。そこなんだ俺が言いたいのは」


 俺は頭を捻った。


「そこが怪人保護理論と違うところなんだ。俺は人間は抵抗しても良いと思ってる。そして怪人は人間を襲っても良いとも思う」

「すまない。わかるように説明してくれ」

「うん。怪人は新人類だ。そして人間は旧人類だ。これはどちらが生き残るかの戦いなんだ。勝った方が地球での生活のルールを決める。新人類がどんなルールで自然や他の種族と共存するかはわからない。ただ一つ言えるのは、旧人類は色々やり過ぎた。大気汚染、海洋汚染、温暖化、砂漠化、戦争、核爆弾、バイオ兵器。どうせ罪深いんだ。負けても良いだろう。勿論ただ死ねとは言わない。全力で抵抗して良い。俺が言いたいのはそういうことだ」

「旧人類と新人類の戦争ってことか」

「ああ、そんなところだな」

「つまり、戦隊と戦う覚悟は出来ているってことか」

「ああ・・・・・・」


 なるほど。力也の言う理屈はわかった気がする。しかし、俺には玲奈がいる。


「力也。俺は簡単に割り切れないよ」

「簡単なつもりはないけどな。ただ、完全に怪人化した時に俺たちの意識があるとは限らないぞ」


 それは・・・・・・、そうだ。


「だが意識があるならわざわざ敵対する気はない」


 玲奈のことを考えると、どうしてもモヤモヤする。


「そうか、お前には知り合いがいるんだったな」

「ああ・・・・・・」


 力也が気付いてくれた。


「俺も恵子を殺せと言われたら嫌だな・・・・・・」

「恋人だけじゃない。親だって、友達だって、旧人類だとか新人類だとかで殺せるようなもんじゃないだろう。俺は意識が無くなろうが、そう言う人達を殺したいとは思えない。殺してしまう自分を許せない」

「・・・・・・お前が正しいな」


 俺たちは二人で天を仰ぎ見た。暗いせいもあって星がよく見える。


「どの星が一番輝いて見える」


 俺が力也に聞いてみる。


「さあな。わかるようでわからん」


 力也はそう答えた。


「俺はあの星だと思うんだ」


 俺は力也にもわかるように指差してみる。


「ああ、あれか。確かにそうかもな」


 果たして万ある星の中の一つを指差しただけで、相手にそれが伝わるかはわからなかったが、それでもどうやら同じものに輝きを感じられたようだ。


「じゃあ決まりだな」

「・・・・・・ああ」


 つづく。

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