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第4.5章 ヒーローの敗北2

「人間の耳じゃ聞こえないだろうから、私が翻訳してあげる」


 まずはタイタンの方だ。拡声器のようなものを作り出して、そちらに向ける。すると、声が大きくなって聞こえてきた。


「緑と黄色の方を見てみな」

「クロス・ザ・ラフィング」

「ストームダッシュ」

「ジェラシーウォール」

「緑と黄色の攻撃が防がれてるねー。緑のあのストームなんちゃらで壁の泥が飛び散ってるね。一見、戦隊が押しているように見えるだろ。でもあの泥は曲者でね。触れると嫉妬心を煽るのさ。ほら、飛びついた泥が二人についたね。見てみな、暴走するから」

「ちょっと達彦。あんたいつも他の女の子のことばかり見てて、どうして私のこと見てくれないのよ」

「お前だって俺なんかに興味ないふりして、他の男に尻尾振ってるじゃないか」

「おーおー、仲間割れを始めたね。お互いが競ってタイタンの方に攻めかかる時もあるのに、お粗末なことだね」

「笑う門には福来たる―」

「画竜点睛を欠く」

「二人で技を出して吹っ飛んだよ。ざまぁないね」


 そこまでで次は桃色と赤色の方に拡声器を向ける。


「回転跳躍」

「龍虎波動・爆」

「スーパーチョップ」

「ヘビーナックル」

「おー、こちらは正真正銘善戦しているじゃないか。浮遊しているドラゴン相手に上手く立ち回ってるよ。まあ、避けられてるけどね」

「龍虎波動・愛」

「回転跳躍」

「夢魔の鏡」

「あー飛び技出しちゃったねー。前回あの鏡でやられたの忘れたのかねー。ほら、赤い子も攻撃を受け止められた。んっ、なるほど。桃色の子の技は攻撃技じゃないね。でも関係ないわ。夢魔の鏡は全ての遠距離技に対応可能よ。ほら、桃色の子も動けなくなった」

「エターナル・ナイトメア」

「あらら、あれを食らったらおしまいね。あんな遅い技でも、今の二人は避けられない。あれを食らうと強い幻想の世界に捕らわれるのさ。悪夢という幻想にね。これは二人とも戦線離脱だねぇ」

「みんな」


 青い子が無力と絶望といらだちと焦りと、色々な感情に支配されている。今だね。


「絶望とキッス」


 私のモットーは過剰攻撃。前回これ単発じゃ無理だったからねぇ。青い子が項垂れる。少し時間はかかるが、その間に何をしよう。増援って柄でもないしね、お互い。というよりそろそろ終わりみたいね。


「嫉妬の大玉」


 あの技はタイタンの一番得意な技だ。自らが転がって対象を撃破する技で、避ければ避けるほど速く、強く迫ってくる技だ。あーあー、あんなに避けちゃって。知ーらない。


 ドーン


 緑と黄色が跳ね上がる。ボーリングのピンみたいね。ストラーイク。あらら、二人とも変身解けちゃったみたいね。

 もう一つのところはどうなってるか。こっちは地味ね。さっきのエターナル・ナイトメアが効いて、桃色と赤色の変身が解けてる。もう終わりね。


「うううっ」


 と、青い子から呻き声が響く。見るとこちらも変身が解けていた。


「うううううっ」


 怪人化が始まっている。まもなくね。


「うううううおーーー」


 なった。もの凄い咆吼(ほうこう)だ。しかも急に幹部クラスに。普通幹部クラスになるには上級怪人を経るのだけど、その行程を吹っ飛ばしている。もしかして、大当たりかも。この子が王なのかもしれない。


「ゆるさない」


 発語も滑らか、やっぱりそうかも。


「許さない」


 と、闘気が溢れて私を吹き飛ばす。タイタン達の方へと飛ばされた。青い子を見ると、明らかに私達とは違う形態になっている。尻尾がなく。外皮も皮膚というよりは鎧を纏っているようだ。その鎧は青く猛々しい。


「お前らを殺す」


 殺意が明らかに私達に向いていた。怪人化したてで、敵味方の区別が付いていないのだろうか。


「青き怪人よ。私達は味方よ」


 一応、呼びかけてみる。


「殺す」


 やはりそうだ。私達を完全に敵と認識している。怪人化する時の願いが作用しているのかもしれない。


「敵みたいね」

「そのようであるな」

「なんでぃ。敵かよ」


 今までも離反する怪人がいなかったわけではない。しかしそれらは全てねじ伏せてきた。しかしどうやら目の前の相手は格上だ。果たしてそれが出来るだろうか。


「三対一なら、勝てなくないな」


 ドラゴンが言う。そうだ、こちらは三人だったと思い出す。力の差があるとすれども高が知れている。特にドラゴンの観察眼は信頼が置ける。そのドラゴンが言うのだからそうなのだろう。

「ただし、連携が大切なのと、あまり時間かけない方が良いだろう」

 苦手なことを言う。確かに今のチームワークでは実力の半分が関の山。中級怪人達が三人連携しているのと大して変わらない。

 また、時間に関しても納得だ。怪人成り立ての頃は確かに力が制御し辛くて上手く戦えない。逆に慣れてくれば、初期の頃の一・二倍の力は出るようになる。

 つまり、現状の戦闘力を数値で表すと、一〇五〇対一〇〇〇だ。そして時間が経つと、一〇五〇対一二〇〇になるのだろう。


「時間にするとどれくらい」

「三十分といったところかな」

 三十分。一気に決めるしかなさそうだ。

「タイタン。話は聞いていたわね」

「おうよ。早めにやらねぇとやべえってやつだろ」

「そう。行くよ」

「「「トライアングル・ミュージック」」」


 一度だけ成功した技だ。これなら一〇五〇以上の力は出るはずだ。


「絶望の投げキッス」

「エターナル・ナイトメアーズ」

「嫉妬の嵐」


 私とドラゴンが比較的遅いが効果の高い遠距離技を繰り出し、タイタンの嵐で加速させる。更にタイタンの泥で状態悪化を付与している。超状態異常攻撃だ。普通の人間が浴びたらショック死する力がある。戦隊でも丸三日は気を失うであろう。


 青い怪人はもろにこの攻撃を受ける。が、


「うおーーーーーーーーーーーーー。殺す」


 戦闘不能どころか怒りを増長させる結果となる。その咆吼がすさまじくて私達の攻撃がいくつか返ってきた。


「まずい。避けろ」


 かろうじて、ドラゴンのその言葉がわかる。なんといっても耳を塞いでいるので半分読心術だ。まあ言われなくても避けるのだが、そこに悪態をつく余裕はない。


 ダッ


 そして咆吼もそこそこに青い怪人が突っ込んでくる。速過ぎるのと、聴覚を塞がれているので、上手く対応出来ない。


「ドフッ」

「グハッ」

「アッ」


 一撃ずつもろに食らい、壁に激突する。


 ドドーン


 壁に身体がめり込むほどの衝撃だった。三人して吐血する。やはり一個体の力は敵わないようだ。


「なかなかに・・・・・・」

「これで一撃か・・・・・・」

「桁違いね・・・・・・」

「死ねー」


 更に追い打ちで突っ込んでくる。もう一撃はさすがにまずい。三人ですぐに回避行動を取った。


 ドドドーン


 三人いなくなった壁が粉々になって大きく凹む。その様に冷や汗が出る。粉塵が散った後に見えたのは、その壁に足をつけている青い怪人だった。


 来る。


 直感的にそう思った。ただ、今は三人バラバラのところにいるので、一気に攻められることはない。問題は誰に来るかだ。


 ダッ


 動いた。タイタンの方だ。一番弱いが、防御力は一番高い。


「ジェラシーウォール」


 タイタンが咄嗟に壁を作る。あれで少しは軽減出来るか。


 ドバン


 淡い妄想だった。壁が勢いよく弾け飛ぶ。しかしタイタンも予想していたみたいだ、身体を丸くして守っている。青い怪人の体当たりがタイタンに直撃する。タイタンは凄い勢いでボールのように飛ばされる。いや、ボールのようではない。ボールになっていた。


「嫉妬の大玉」


 なるほど、敵の力を利用して自分の力として使おうということだ。ボールは壁にぶつかり、勢いよく跳ね返っていく。


 ぐるんっ


 と、青い怪人は地面を蹴って前宙し始めた。いや、これはかかと落としだ。


 ドドーン


 大玉の急所を突いたのか、ボールは上へとは跳ねずに地面にのめり込む。タイタンが深い吐血をした。


「かなりまずいな」


 ドラゴンが呟いた。確かに三人でも持て余しているのに、二人になってしまった。あのもの凄い速さの大玉の急所を突く辺り、敵もかなり戦い慣れしてきている。


「二人ではダメ」


 一応聞いてみる。


「三人でギリギリだ」


 やはりダメだった。


「ならタイタンの回復を待つ」


 幸い、タイタンは矛になっていない。


「うむ、それしかないであろうな」


 こうして私達は付かず離れずで牽制する戦いを選んだ。しばらくお互い決定打のない戦いが続いた。


 ドシンッ、ドドーン


 と、途中で青い怪人が壁を上手く使い、ドラゴンを殴り倒してしまう。ドラゴンが吐血して戦闘不能になる。

 私一人になってしまった。かなり苦しい気持ちになる。力で圧することの出来ない相手は初めてだ。さすがに戸惑ってしまう。ただ元々私達幹部はチームではない。個人だ。そう開き直る。避けるだけなら。


 ダッ


 と、そんなことを思っている間に相手が仕掛けてきた。危ないっ。


「嫉妬の大玉」


 ドン


 と、タイタンが復活して相手の横っ腹に一発入れた。相手が吹き飛ぶ。


「へんっ、一発食らわしてやったぜ」


 タイタンがゼイゼイしながらそう言った。


「一応、礼は言う」


 九死に一生を得たのでそう言う。


「ふん。知ったことか。俺はやつを倒したいだけだ。一番隙のある時を狙ったまでよ」


 こういう皮肉は好きだ。それでこそ私達だと思う。


「拙者もやつを倒したい気持ちがある。ぐふっ、ごほっ」


 ドラゴンもまた瀕死の状態だが復活した。


「仕方ねぇから今だけ手を組んでやんよ」

「仕方ないから今だけ手を組むよ」

「仕方がないので今だけ手を組んで差し上げよう」


 三人がほぼ同時にそう言った。三人で顔を見合わせる。


「「「今ならいけそうだ」」」


 そう言って位置につく。と、その頃合いに青い怪人も復活した。


「「「三大幹部の陣」」」

「絶望の大玉」

「嫉妬の大玉」

「夢魔の増大鏡」


 夢魔の鏡は通常相手の遠距離技を確認してから発動出来る技だ。それを私の大球で誘発させる。そしてドラゴンには全力で鏡の力を強化して貰う。そして大球が吸われる後すぐに通常物理では反応しないが、タイタンの大玉も続けて取り込む。そして私が所定の位置に誘導する。


「ニードルキック」


 普通の攻撃だがこれで良い。足を掴まれ、壁に投げ飛ばされる。


 ブハッ。


 吐血する。しかしこれで良いのだ。青い怪人が追撃してきて・・・・・・かかった。


「ゼロ距離弾」


 絶対不可避の大技だ。私の大球の力、ドラゴンの増大鏡の力で何十倍にも威力を増したタイタンが直撃する。


 ドカッ、ドドドドドドドーン


 脳天直下。もの凄い衝撃が地面に広がり、大穴を開けた。


(決まった)


 今、私達はもっとも難しい連携技を放った。合計戦闘能力二一〇〇に人数分の連携値一・三倍をかけた二七三〇の技だ。相手がどんな強敵でもイチコロだ。事実、相手はボロボロになっている。んっ、ボロボロ・・・・・・。

 青い怪人がもそもそと動く。その事実に私達は驚愕した。あの技を食らって動けるわけがない。


「絶対、殺すー」


 と、その言葉と同時に地面から凄い闘気が湧き出した。


(まずい)


 そう思った。この感覚は自爆だ。私は、私達はすぐに異空間を作り出して逃げ出した。さすがに巻き込まれたら即死する。


 ドーーーーーーーーーーン


 異空間の先から、凄い爆発が聞こえた。つづく。


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