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第四章 ヒーローの条件1


 一度戦隊達がどうやって全国を周り、帰還しているのだろうと気になったことがある。その答えがこれだ。


「通常、一般の人はこの技術を知ることも、触れることも出来ないけど、今回は特別です。それにあなた達が戦隊になったときの説明の手間が省けるしね」


 そうそれはワープ技術だった。人間の進化は恐ろしいところまで来ているようだ。巨大な門が目の前にあった。


「すごいな。これを通り抜ければ良いんだな」


 虹色の膜に触れると、液体のようなものに触れている感覚になる。

「そう。それでシールドガードに着ける」

「この門が。どうしてこんなに大きいんですか」


 力也が聞いた。確かに、横五メートル、縦七メートルくらいの大きさだ。


「巨大ロボットをテレビとかで見たことあるでしょ。そのパーツが通れるようにってこと」


 なるほど、よくニュースで流れてきていたあのロボットか。


「こういうのが全国に何個もあるって事ですか」


 再び力也が問う。


「ええ、何個かは忘れたけど百個以上はあるわね」


 百個以上。すごい数だ。こんなものがたくさんあるかと思うと感慨深い。


「さあ、一応人目に付かないところだけど、あんまりのんびりも出来ないから」


 玲奈に急かされて俺達は通り抜けた。特に身体には異常は無い。ただ、しっかりと場所が変わっていた。どでかい施設が目の前にある。きっとあれがシールドガードだ。

 ネットで噂されている通りの場所だった。東京ドーム三個分。広大な土地に建物が三つほど立っている。それ以外は開けた空間だ。


「シールドガードは五つに分かれているんだけど、私達が目指すのは喜びと言われている一番小さい場所になるわ。あそこ」


 玲奈が指差してくれる。ちょうど真ん中の所にあるやつだ。


「五つの施設ってどうなっているんですか。三つしか見えませんけど」


 力也が聞く。距離があるので移動は車だ。近くにあった車に三人で乗り込んでいる。開けているので迷うことは無いと思ったが、一応玲奈が運転することになった。


「五つの区画よ」


 玲奈がクカクを強調して言う。


「施設は見えている三つだけ。区画はそれぞれ正義、勇気、愛、喜び、笑いって分けられているの。で、正義が巨大ロボット訓練所、勇気がサバイバル訓練をするところ、愛が室内訓練、喜びが中央管制所、笑いがロボット用大倉庫よ」


 不思議なネーミングだなと思った。


「寝泊まりはどこなんだ」


 泊まる場所が無いなと思って聞いてみる。


「喜びよ。簡単なゲームや売店、入浴施設なんかが備わってる」

「スタッフはどれくらいいるんですか」


 力也がそう聞く。確かにスタッフもいるはずだよなと思う。まさか管理人と六人だけでこの施設で生活はないだろう。


「さあ、そこまでは。聞いたことないから」


 ロボットの手入れや施設の清掃などを考えると、ざっと五百人くらいはいそうだ。喜びの施設も一番小さいとは言え、なかなか大きそうだ。だんだん近付いてくるとわかる。

 その後も、なんとなく施設での生活のことを聞いてみた。玲奈と話していると、なんだか昔に戻ったような気分になる。力也は空気を読んでか黙っていてくれた。


「ここね」


 そんなこんなでしゃべっていると、喜びに着く。俺としては玲奈ともっと話していたい気持ちもあったが、前向きに考えれば戦隊になればいつでも話せるようになるのだ。気に留めることはない。


「今から会うのはここの管理者であり、パワードスーツの制作者、犬塚一護さんよ。話しやすい人だから気は楽にしていて良いと思う」


 力也と二人で息を飲んだ。扉を開けるとそこは研究室のような場所で、犬塚さんらしき人がちょうどいちごを頬張るところだった。


「犬塚さんはいちごが好きなの」


 玲奈が小さな声で説明する。なんとも緊張感のない出会いになってしまった。犬塚さんは口を開けたままこちらといちごとに目を往復させる。そして、いちごを頬張るのをやめた。少し寂しそうだったのが更に緊張感を無くしている。


「えっと、幸治です」

「・・・・・・力也です」

「あの、食べながらで良いですよ」


 あまりに右手がそわそわしているので、そう言ってみる。すると、犬塚さんの顔が明るくなった。


「ワンダフル。そうか。食べて良いのか」


 そのままさっと右手が動いて、いちごが口のなかに――


「コホンッ」


 入ろうとするところで玲奈が咳払いをする。すると犬塚さんの動きが止まった。ほんの一瞬場が固まる。


「君たちも食べないか」


 その場を動かしたのは犬塚さんの意外な提案だった。どうやら右手はもう後戻りしたくないらしい。


「ご冗談を」


 玲奈が冷たく言う。場が更に凍り付く。俺はまあ慣れていたから動けたが、他はどうだったかは知らない。


「いえ、頂きます。皆で食べましょう。な、玲奈。お腹空いているんだ俺達」


 場が凍ったまま話が進むのも薄ら寒いので、ちょっと温めてみる。


「なっ。力也」


 力也が立ち往生しているように見えたので、こっちに引き入れる。


「あ、ああ」


 玲奈の様子を窺いながら力也はこっちに来た。これで三体一だ。


「な、いいだろ。玲奈」


 俺は穏やかな表情で玲奈にウインクを送った。


「はぁ、わかったわ」


 こうして俺達は机を囲んでいちごを食べながら話をすることにした。


「ワンダフルワンダフルワンダフル」


 犬塚さんは口癖らしきものを呟きながら、凄い勢いでいちごを食べている。ので、玲奈が右手を持って押えて、睨みを一つ効かせる。


「コホンッ。では本題といこうか」


 大量に食べて落ち着いたのか(いや、玲奈のお陰だが)、犬塚さんは真剣に話し出した。先ほどの話の手前、俺達も食べておかなければ罰が悪いので、真剣な話の前に一粒ずつ頬張った。何故か犬塚さんと三人でゴクンと飲み込む。


「怪人化が始まったのは、最初に私達が接触した時、つまり鏡の怪人がいるかもしれないと思ったあの時のようです」


 口火を切ったのは玲奈だった。


「ふむ、その前に何があったか教えてくれるかの」


 俺と力也は会社での事件に始まり、辞職したことや、その後に怪人に襲われたことをしゃべった。


「そういえば、確かに昼にそんな事件あったわね」


 玲奈が考え込む。数ある中の一つだ。忘れていても仕方がない。


「その時、矛を触ったりしたかね」


 犬塚さんが聞いた。矛に取り込まれたパターンを聞いているのだとすぐにわかった。


「いえ、触ってないです、よな」


 確認のため力也に聞く。


「ああ。見てもなかったはずです」

「二人の意見はその通りだと思います。その怪人を倒した時は二人とも離れていていなかったはずです」


 玲奈が思い出してきたのか裏付けを言う。


「そうか。怪人化をする条件というのは主に二つあってーー」

「あの、お話の途中すみません。俺達怪人に関する報告書を読んでます。色々調べたので。だから、その・・・・・・」

「それで俺達が自分達は自然発生の方だというのをわかっています」


 力也が言葉に(つまづ)いたので、俺がフォローする。


「そうか、あの論文を・・・・・・。あれを読んでいるのであれば話は早い」


 そこで一度犬塚さんは言葉を切った。


「あの論文がネットで検索出来る理由を言おう。それは君たちみたいな者がここに訪れるためじゃ」


 俺と力也は二人で顔を見合わせる。そして、力也が口を開いた。


「それじゃあ、俺達は戦隊になれるんですか」


 希望が溢れている。


「戦隊・・・・・・、ああそうか、そうなるのか・・・・・・。すまんが戦隊にはなれん」


 そしてその希望は打ち砕かれた。

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