美しき暗殺者
二つの月が夜道を照らす頃、石畳の上をコツコツと音を立てながら一人の女が歩いていた。
コルデ──豊満な肢体を黒いドレスに包んだバルバロイの女は、ククリナイフを手に微笑む。刃に付着した赤い液体が、月光に妖しく光る。
「次はいよいよ1000人目……」
彼女の声は甘く、快楽の余韻に震える。999人の命を奪った快楽殺人鬼にとって、この瞬間は至福だった。
突然、青い光が路地を包んだ。石畳に波紋が広がり、水鏡のようなゲートが現れる。コルデの脳内に、鈴のような声が響く。
「私の名前はアルケー……水を司る女神です……」
白黒の市松模様の床が広がる薄暗い空間に、アルケーが浮かぶ。青髪が滝のように流れ、氷の瞳がコルデを貫く。
「女神さんが、なんの用かな?」
コルデはナイフを弄び、妖艶に微笑む。アルケーは軽く笑い、水鏡を指で撫でた。
「あなたに依頼したいことがあるのです」
内容は単純明快ですよ。この世界とは別の世界にいるこの人物を殺して欲しいのです。
アルケーは鏡のようなものを作り出すとそこに映った映像を見せる。そこには力人の存在と名前が写り込んでいた。
「リキト・キラホシね……その人物ってのは強いのか〜い?」
コルデの質問にアルケーは少し考え込むようにして答えた。
「──正直なところ未知数と言ったところでしょうか。しかし我々にとって脅威となりうる存在です。なので早めに手を打っておきたいと思いまして……」
コルデは舌なめずりし、興味をそそられる。
アルケーは一瞬、目を細める。
「ふぅん。まぁいいよ。引き受けようじゃないか! その代わり、そいつの肝をいただくけどね」
コルデはケラケラと笑い、ナイフを振り上げる。
「わかりました。それでは早速準備に取り掛かりましょう」
アルケーの指が動くと、市松模様の床に魔法陣が浮かぶ。
「あなたの身体を転送しますね」
青い光がコルデを包み、彼女の姿はその場から消えていた。
────
同じ頃、力人と雪音はスーパーの買い出しを終え、夜の帝釈台を歩いていた。時計は9時を過ぎ、外灯がまばらな路地は静寂に沈む。レジ袋を提げた力人は、雪音にぼやく。
「なぁ、今日、なんか買うもの多くなかったか?」
雪音は豆柴ハティのブレスレットを弄り、笑う。
「確かにそうかも。リッキー、ちゃんと計算して買った?」
「計算なんて面倒くせえよ」
力人は笑い、ネオンの眩しさに顔をしかめる。衝動的に歩調を速めると、背後から鋭い気配が迫った。「!?」
力人が振り返る瞬間、ククリナイフが空を切り、雪音が咄嗟に力人を押す。
「リッキー、危ない!」
ナイフはアスファルトに火花を散らし、妖艶な女が現れた。豊満な肢体を揺らし、不敵に笑う。
「あんたがリキトってやつかい?」
「お前、誰だ!?」
力人が構えると、コルデが襲いかかろうとした瞬間、懐中電灯の光が路地を照らす。
「そこで何をしている!?」
パトロール中の警察官が現れた。
「邪魔すんのかい?」
コルデは舌打ちし、警官に襲いかかる。人間離れした動きで警棒を避け、ククリナイフが警官の胸を切り裂く。鮮血が石畳を染め、コルデは血を浴びて笑う。
「チッ、1000人目が台無しだよ!」
「バルバロイか……!」
力人が呻き、雪音が叫ぶ。
「お巡りさん!」
コルデは警官の死体を投げ捨て、力人に目を向ける。
「私はコルデ。目的はただ一つ、あんたを殺して1000人目の戦利品にすることさ」
「どうして俺を狙う!?」
力人が叫ぶと、コルデは舌なめずりする。
「今まで、色んな奴らを殺してきた。ある時は貴族を、またある時は商人を……でもね、一番興奮したのは強いヤツを殺してる時かな〜。だってそうだろ?みんな私を倒すと言いながら何もできずに切り刻まれていく!最高だと思わない?」
ケラケラと笑う彼女の声は、夜を切り裂く。
力人の目に怒りが宿る。
「(この女……人を平気で殺して笑いやがる!)」
怒りが爆発し、雪音に耳打ちする。
「レジ袋のコーラ、渡してくれ」
「え? うん……」
雪音が缶コーラを手渡すと、力人は激しく振る。
「おい、おばさん!」
プルタブを開け、炭酸の泡をコルデの顔に直撃させる。
「うわぁあ! 目がっ!」
コルデが悲鳴を上げ、のたうち回る。力人の奇策が炸裂する。
「雪音、逃げるぞ!」
力人は雪音の手を引き、スーパーの屋内駐輪場へ走る。
「これで奴は来るはずだ」
力人はコーラを道に垂らし、罠を仕掛ける。
「どういうこと?」
雪音が尋ねると、力人はニヤリ。
「コーラの匂いやシミを辿ってここに来る。そしたらハメてやる」
雪音に耳打ちし、二人は階段の陰に隠れる。
──
駐輪場は静寂に包まれ、蛍光灯が冷たく光る。コツコツとヒールの音が近づく。コルデだ。
「おかしいね……確かにこの辺に液体の匂いが……」
彼女は地面のコーラの跡を見つけ、ニヤリと笑う。
「そこかい!」
「トランスチェンジ! スカイ・リッキー!」
力人が飛び出し、ヘラクレスホーンを構える。コルデが反応する前に、力人の拳が彼女の頬を捉える。
「がっ!?」
コルデは吹き飛び、壁に叩きつけられる。
「貴様……まさか罠を!?」
コルデが立ち上がると、力人は挑発する。
「おばさん、1000人目ってのは俺じゃねえよ。てめえの墓標だ!」
力人の言葉に、コルデの目が怒りに燃える。
「ふふっ、ますます殺したくなってきたよ!」
コルデがククリナイフで突進。力人は右拳を振り上げるが、互いに攻撃を避けず、斬撃とアッパーカットが交錯。力人の肩から血が流れ、コルデの顎が軋む。
「ぐっ!」
二人は後方へ吹き飛び、即座に立ち上がる。力人がヘラクレスホーンを握り、コルデがナイフを構える。ゼロ距離で睨み合い、先に動いたのは力人だ。左ストレートを放つが、コルデは左腕で受け止め、右腕を振り上げる。力人は彼女の手首を掴み、背負い投げで宙に投げる。だが、コルデは空中で態勢を整え、掌底を力人に叩き込む。
「ぐぁあ!」
力人は駐輪場の壁に叩きつけられる。コルデがナイフを振り上げる。
「今度こそ終わりよ!」
だが、力人はニヤリと笑う。
「おばさん、最後なのはそっちだぜ!」
壁を蹴り、跳躍。コルデの顔面にキックを叩き込む。
「がっ!?」
コルデがよろめく隙に、力人が叫ぶ。
「雪音、今だ!」
「うん!」
雪音がスノーハウンドに変身しながら、カートを加速させ、コルデに体当たりする。コルデは吹き飛び、コンクリートに叩きつけられる。
「リッキー、チャンス!」
「これでゲームセットだ」
ヘラクレスホーンから竜巻が巻き起こる。
「EX奥義:大竜巻斬!」
風の刃がコルデを切り刻み、彼女の身体から虹色の光が溢れる。
「がはっ……!」
コルデは地面に倒れ、虹色の光に撒き散らしながら、消滅する。
戦闘を終えた力人と雪音は変身を解除する。
「これで一件落着か」
力人が息をつく。雪音が頷く。
「うん、そうね……って、リッキー! レジ袋!」
「あっ、忘れてた!」
二人は道端に置き忘れたレジ袋を拾いに走る。夜の帝釈台に、2人の笑い声が響いた。
ここから新章が始まります。
今回登場した女神は月浪稔に力を与えた女神と同一人物です。
これからどんどん面白くしていく予定なので引き続きよろしくお願いします。