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ビースト初戦

帝釈台の昼下がり、太陽は空の頂点を過ぎ、茜色の光をコンクリートの街に投げかけていた。ネオンの残光が薄れ、夕暮れの気配が忍び寄る。廃工場の隙間を縫う風は、錆と油の匂いを運び、どこか不穏なざわめきを響かせていた。


力人は雪音と共にその廃墟の前に立っていた。コントローラーを握る彼の手は、微かに震えていた。バルバロイの気配を追ってここに来たが、静寂が不気味に支配している。


「ここにバルバロイが出るって話だったよな……?」


力人の声は、夕陽に溶けるように低く響いた。


雪音の黒髪が風に揺れ、豆柴ハティを模したブレスレットがカチャリと鳴る。


「うん、でも……誰もいないみたい」


彼女の瞳には不安が滲み、夕暮れの光に映えてなお柔らかだった。


「リッキー、気をつけてね」


その瞬間、闇が動いた。廃工場の影から、全身を黒い装甲に覆われた人型のバルバロイが現れる。右手に巨大な戦斧、左手に銃のような武器を構えたその姿は、まるで死神の使者。無機質な瞳が二人を捉え、低い唸り声が響く。


「ギギ……人間、排除……」


「来やがった!」


力人の衝動が火花を散らす。彼はカセットをコントローラーに差し込み、虹色の光に包まれた。


『Trans change: スカイ・リッキー!』


翡翠色のユニフォームが夕陽に輝き、ヘラクレスオオカブトの兜が彼の闘志を象徴する。力人は戦斧を振り下ろすバルバロイに突進した。


だが、バルバロイの動きは機械のように正確だった。斧が空を切り、力人が身を捻ると、左手の銃が閃く。銃弾がコンクリートを穿ち、力人は咄嗟に横に飛び、転がる。


「(くそっ、この銃、危険すぎる……!)」


鉄の匂いが鼻をつき、力人の感覚が過敏に反応する。「(このままじゃやられる!)」

雪音もカセットを装着。


「トランスチェンジ!」


白銀の戦闘スーツに変身したスノーハウンドが援護に動く。


「リッキー、隙を作って!」


彼女の氷の波動が放たれるが、バルバロイは戦斧で弾き返し、銃弾を連射。力人と雪音は回避に追われ、反撃の余裕がない。


「(攻撃パターン、読まなきゃ……!)」


力人の頭脳がフル回転する。


バルバロイの動き――斧の重い一撃、銃の連射。このルーチンを崩さなければ勝機はない。


「(待てよ……あの装甲、隙がある!)」力人の目に、銃を構える瞬間の右肩の装甲の僅かな開きが映る。


「そこだ!」


「雪音、援護頼む!」


力人は叫び、型破りな発想で動く。敵の武器を逆手に取る――銃の射撃タイミングを利用するのだ。バルバロイが銃を構えた瞬間、力人は床を滑り、足元に飛び込む。後ろ蹴りを叩き込み、バルバロイを廃工場の壁に激突させる。コンクリートが砕け、埃が夕陽に舞う。


「今だ、雪音!」


「能力スキル: 冷凍拘束フローズン・バインド!」


雪音が掌を地面に押し当て、氷の波動を放つ。バルバロイの装甲が凍結し、動きが止まる。


「ギギ……!」


「これでゲームセットだ!」


力人はヘラクレスホーンの剣を握り、コントローラーのAとBボタンを連打。回転しながら突進し、大車輪の一撃でバルバロイを真っ二つに斬り裂く。


「グギギー!」


怪物の断末魔が響き、黒い装甲は虹色の粒子となって夕暮れの空に消えた。


「よっしゃ! やったぞ!」


力人は変身を解除し、汗と笑顔を太陽に輝かせた。鉄の匂いがまだ鼻に残り、彼の感覚を刺激するが、勝利の昂揚がそれを上回る。


「リッキー、すごい!」


雪音が駆け寄り、力人に抱きつく。彼女の温もりと彼女の甘い香りが、力人の胸を温めた。


「お、おい、雪音! 重いって……!」


力人は照れ隠しに笑うが、彼女の笑顔に心が和らぐ。


「(雪音が無事なら、それでいい……)」


「今、なんか言った?」


「いや、なんでもねえよ!」


力人が雪音をどかそうとした瞬間、スマホから『ピロン!』と通知音が響いた。


「「何だ?「何かしら?」」


雪音がスマホを確認すると、ゲーマー協会からの緊急通達だった。


「バルバロイ出現、至急指定の場所へ向かえ」


力人は眉をひそめ、鉄の匂いに顔をしかめた。


「またかよ!? 昼間っから忙しすぎるだろ!」


二人は急いで指定の場所――廃工場が連なる工業地帯へ向かった。


夕陽が地平線に沈みかけ、茜色の光が工場群を血のように染めていた。


廃工場の扉を押し開けると、錆びた鉄と油の匂いが鼻をついた。薄暗い空間には人影一つなく、夕暮れの光が鉄骨の隙間から差し込む。


「ここにバルバロイが?」


「誰もいないみたいだけど……」


雪音の声が小さく響く。その瞬間、背後から轟音が響き、力人が吹き飛ばされた。


「ぐっ!」


コンクリートに叩きつけられ、彼は即座に立ち上がる。振り返ると、そこに立つのは獅子のたてがみを思わせる長身の男――御中王我、ビーストだった。夕陽が彼の背に影を落とし、まるで獣のシルエットを浮かび上がらせる。


「バルバロイはどこだ?」


力人が叫ぶ。


王我は冷笑を浮かべ、コントローラーを手に答えた。


「君たちは創亮とか言う奴と一緒にゲーマー協会を倒そうとしているみたいだからね、つまり俺たち(ゲーマー協会)から見た君達は敵。バルバロイってわけさ」


「ふざけんな!」


力人の衝動が爆発するが、王我の蹴りが腹を捉える。


力人は吹き飛ばされ、膝をつく。


「リッキー!」


雪音が叫ぶが、力人は手を上げて制した。


「大丈夫だ……まだいける!」


「へぇ、しぶといな。だが、負け組に存在価値はない」


王我の声は冷たく、愉悦に満ちていた。彼はカセットを差し込み、咆哮した。


「トランスチェンジ!」


『Trans change: Beast!』


漆黒と金の戦闘スーツ、狼の爪のガントレットが夕陽に輝く。


ビーストは獅子と狼の融合した戦士となり、力人と雪音に襲いかかる。


「さてと、バルバロイ狩りの時間と行こうか」

「雪音、行くぞ!」


「うん、わかった!」


「トランスチェンジ!」


力人と雪音は同時に変身。スカイ・リッキーとスノーハウンドがビーストに立ち向かう。だが、ビーストはコントローラーのXボタンを押し、マシンガンを取り出した。


「これで終わりだ」


銃弾が夕暮れの空を切り裂く。力人は回避に専念するが、雪音に向けられた銃口に気づき、彼女を庇う。


「リッキー!」


雪音の叫び声が響くが、力人は肩に弾丸を受け、膝をつく。


「くそっ、これくらい……平気だ!」


だが、力人の身体は限界を迎えていた。ビーストの攻撃は格闘技の正確な打撃、FPSの精密な射撃、さらには戦術ゲームのような予測を織り交ぜ、まるで全ジャンルのゲームを掌握した怪物だった。


「まだ動けるのか? だが、無駄だ」


ビーストは雪音に近づき、彼女を殴り気絶させる。


「どうした、リッキー? 大切な人を盾にされて悔しいか?」


「てめえ……!」


力人の目が燃える。彼はヘラクレスホーンを握り、大竜巻斬を放つが、ビーストは一瞬で見切り、ガントレットで弾き返す。


「負け組が吠えるな!」


ビーストの拳が力人の胸を捉え、彼は壁に叩きつけられ、血を吐く。力人と雪音の二体一の連携も、ビーストにはまるで通用しない。雪音のフローズンバインドはガントレットで砕かれ、力人の攻撃は全て読まれる。


「(何だ、この強さ……! 俺の全てが、まるで無意味だ……!)」


力人の心に、初めての恐怖が芽生える。夕陽が彼の翡翠色のユニフォームを赤く染め、敗北の色に変える。

ビーストが雪音を掴み、力人を嘲るように口を開いた。


「負け組に存在価値は……」


その瞬間、廃工場の壁が爆音と共に砕け、赤い閃光が飛び込んだ。


「ビースト、てめえ!」


雨都創亮――マッハファイターだ。


「あの時、俺に倒されたはずじゃ……!」


ビーストが驚愕する。


「あんな攻撃じゃ、俺は倒せねえ!」


創亮は勢いをつけると、ビーストに突進。ビーストはアサルトライフルを構え、連射する。


「ふざけるな! これを受けてみろ!」


だが、創亮は弾丸を紙一重で避け、接近。


「もうそのパターンは見切った!」


彼の拳がビーストを捉えるが、ビーストは笑いながら受け流す。


「3ターン? いや、1ターンで片付ける!」


力人はその隙を見逃さなかった。


「(今だ……! ビーストの動き、ほんの一瞬だが乱れた!)」


彼の頭脳が型破りな戦術を閃く。廃工場の天井に吊るされた鉄骨――そこに仕掛けられた古いチェーンが目に入る。


「雪音、フローズンバインド! 天井に!」


雪音は意識を取り戻し、頷く。


「能力スキル: 冷凍拘束フローズン・バインド!」


氷の波動がチェーンを凍結させ、脆くする。力人はヘラクレスホーンを投げ、チェーンを切断。鉄骨がビーストめがけて落下する。


「何!?」


ビーストが回避に動き、初めて隙を見せる。


「今だ、マッハさん!」


力人が叫ぶ。マッハファイターの拳がビーストのコントローラーを弾き飛ばす。変身が解除され、王我は倉庫の出口へ逃走した。


「こんな感じか……」


力人はその姿を見届け、膝をついた。意識が遠のき、闇に落ちる。


「(俺が……負けた……)」


目覚めた時、力人は雪音の家のリビングにいた。夕陽がカーテンの隙間から差し込み、アップルパイの香りが漂う。ベッドの脇で、雪音と創亮が心配そうに見つめている。


「リッキー、大丈夫!?」


雪音の声に、力人は弱々しく笑った。


「ああ……なんとか、な」


「リッキー、ごめんね……私がもっと強ければ……」


雪音の目が潤む。彼女のブレスレットがカチャリと鳴り、力人の感覚を刺激する。彼は鉄の匂いを思い出し、顔をしかめた。


「別にいいさ。雪音が無事なら、それで……」


力人は言葉を切った。だが、胸の奥で、ビーストに完敗した事実が彼を締め付ける。


「(俺は最強のゲーマーのはずだった……なのに、なんで……)」


プライドがズタズタにされ、視界が揺れる。ツルギの言葉「どんな状況でも楽しめ」が、今は刃のように心を刺す。


「(俺、弱かった……雪音を盾にされた……!)」


力人の手が震え、呼吸が乱れる。彼は膝を抱え、頭の中で敗北の瞬間が繰り返される。

その時、創亮が静かに口を開いた。


「リッキー、もっと強くなれ。今のお前じゃ、ビーストには勝てない」


「俺は最強の……!」


力人は反発しようとした。だが、雪音を庇えなかった記憶が蘇り、言葉が詰まる。


「俺は……俺……」


彼の声は震え、まるで壊れたビデオテープのように途切れる。


「お前は確かに強い。だが、力を過信してる。このままじゃ、大切なものを失う」


創亮の声は厳しくも温かい。


「だから、俺がお前を鍛える。真の意味で最強のゲーマーにする」


力人は黙って頷いた。創亮は続けた。


「ビーストを倒すには、戦術と仲間が必要だ。リッキー、雪音、お前たちはB学園高等学校に行くんだ」


「B学園!?」

力人が目を丸くする。


「雪音、お前、そんな進路決めてたのか!?」


雪音は頬を赤らめ、呟いた。


「うん……ツルギさんが、昔、進学を勧めてくれてて……リッキーにも、いつか話そうと思ってたの」


力人は衝撃を受けた。


「(雪音がそんな大事なこと……俺に何も言わなかったなんて……)」


彼の胸に、仲間との絆の脆さが突き刺さる。鉄の匂いがフラッシュバックし、感覚が過敏に反応する。だが、雪音の潤んだ瞳を見て、彼は拳を握った。


「(なら、俺も行く。雪音と一緒に、強くなる!)」


創亮は二人の様子を見守り、封筒を差し出した。


「これは俺からの推薦状だ。ツルギさんが描く予定だった未来――俺が完成させて、推薦書を書いた。B学園で、真のゲーマーになれ」


力人と雪音は封筒を受け取り、夕陽に照らされたリビングで頷いた。創亮は二人を雪音の家に残し、夕暮れの街に消えた。


同じ夕方、都内の病院。静寂に包まれた病室で、月浪實という青年が突然目を開けた。昏睡状態だったはずの彼の瞳は、まるで新たなプログラムが起動したかのように輝く。ベッドから起き上がり、点滴を外し、静かに病院を抜け出した。夕陽が彼の背を赤く染め、夜の街に消えるその姿は、まるで新たなゲームの開始を告げるかのようだった。

シンワです。

今回の話はリッキーがゲーマーとして復帰し、ゲーマーの養成高校に入学を決意するまでの話です。

この3話まではプロローグのような話で、次回から新章が始まる予定です。

今回の最後に登場した月浪稔がもう一人の主人公として出していきたいので、応援よろしくお願いします。

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