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ビースト登場

──東京・上野駅前。


 夕陽が沈み、夜の帳が降りる頃。帰宅を急ぐサラリーマンや学生たちで賑わう駅前の上空で、突如として空に異変が生じた。


 ガラスが割れるような音と共に、ひび割れた空から闇が溢れ出す。


 そこから現れたのは、一人の少女だった。


 フリルのついた黒いメイド服に身を包み、白いエプロンが風に揺れる。だが、その姿には人と決定的に違う点があった。頭部には三角形の猫耳が、腰からは長い尻尾が生えている。


――異空生命体(バルバロイ)。その瞳は、冷たくも狂気に満ち、平穏の破壊を予告するかのようだった。


 少女はキョロキョロと辺りを見回すと、突然無数のナイフを取り出した。銀色の刃が夜のネオンに反射し、まるで星屑のように輝く。


 そして、それらを四方八方に投げ始めた。


 ナイフは駅前広場に殺到していた人々を狙い、悲鳴が響き渡る。人々が逃げ惑う中、さらに追い討ちをかけるように、少女バルバロイは巨大なハンマーを取り出し、次々と車を破壊していった。


 金属が軋み、ガラスが砕け、爆音が響く。


 人々は逃げ惑い、悲鳴を上げる。そんな中、バルバロイは次々と人々を襲い続けた。


「助けて!」


「誰か!」


 恐怖に怯える人々の前に、突如として青年が駆けつけた。


 高身長で甘いマスクの青年――それはゲーマー協会の最上級階級に位置するゲーマー、御中王我ビーストであった。


「ビーストだ!」


「ビーストが助けに来てくれた!!」


 人々はビーストが助けに来てくれたことに、喜びの声を上げた。


 日本プロゲーマー協会。その組織は、下位からE、D、C、B、A、S、SS、SSSランクという階級制度を敷いている。そしてその上に、特別階級――四神、五龍帝、六王、七聖獣――が存在する。


 御中王我は、その頂点に君臨する七聖獣のリーダーだ。〈日本一のゲーマー〉として、メディアにも頻繁に登場し、タレント活動や歌手デビューも果たしている。世間からの人気は絶大で、彼の姿を見るだけで人々は安堵し、。


「キミが、今回のバルバロイか……誰の使いでこんなことしてるんだい」


 ビーストの問いに、メイドのバルバロイは答えた。


「私達ははご主人様のアルケー様の命令で動いています」


「アルケー? ふん、僕にも教えてくれないか?」


突如バルバロイの口から放たれた()()()()という名にビーストは少し聞き憶えがあるような素振りを見せる。王我の目は鋭く光るが、バルバロイは無言で逃げようとした。バルバロイは無言で逃げようとした。


王我はカセットをコントローラーに差し込む。


「逃げるなら、どうなるか……分かってるよね?」


 王我はコントローラーにカセットを差し込む。


「トランス・チェンジ」


『Trans change: Beast!』


彼の声と同時に電子音が響き、虹色の光が彼を包む。次の刹那、王我の姿は獅子や狼を想起させるような、野性的な戦士の姿へと変貌する。漆黒と金が交錯する戦闘スーツ、狼の爪を模したガントレットが光り、頭部には獣の牙を模した装飾が施され、その瞳は獲物(バルバロイ)を捉えていた。


「俺の名は、ビースト。この世界の救世主さ……」


「くっ! このままでは……」


 バルバロイは大量のナイフを投げて応戦するが、王我が腕を一振りするだけで、ナイフが全て叩き落とされてしまう。まるでゴミを払うかのような、軽やかな動作だった。


「ならばこれならどうですか!」


 バルバロイは巨大なハンマーを振り下ろした。その瞬間、王我の姿が消えた。


「消えた……どこへ行ったのです」


 するとバルバロイの背後に現れ、回し蹴りを放つ。バルバロイはガードしようとするが、ビーストの攻撃の方が遥かに速く、吹き飛ばされてしまった。


「くっ……」


 逃げようとしたバルバロイの猫耳を掴みながら、ビーストは口を開いた。


「てめーの猫耳、引きちぎってやろうか」


 ビーストの脅しに、バルバロイは怯える。


「死にたくない……」


 そんなバルバロイに対し、ビーストは笑いながら言った。


「ハハッ、いいねいいねぇ……」


 周囲の人々は、ビーストがバルバロイを追い詰めたと思い、歓声を上げた。だが、その視線の死角で――誰にも見えない角度で――ビーストは何かを仕掛けていた。


 人々から見れば、ビーストがバルバロイに必殺の一撃を放ったように見えた。バルバロイの身体が光り、崩れ落ちる。


「やった! ビーストが倒した!」


「さすがビースト!」


 人々の称賛の声が響く中、ビーストは爽やかな笑顔で手を振る。


「みんな、もう大丈夫だよ」


 だが、その笑顔の裏に隠された真実を、誰も知らなかった。


────


御徒町の人気のない路地裏。


 ゴミ箱が積み重なり、錆びた非常階段が壁に張り付く、薄暗い場所。そこに、王我はメイドのバルバロイを引きずっていった。


「さて、ここなら誰にも見られないな」


 王我の表情は、先ほどまでの爽やかな笑顔とは打って変わって、冷酷なものに変わっていた。


「バルバロイが一匹現れたら、最低でも十匹は仲間がいるって聞いたんだけど……仲間は? 次の計画は?」


「知らない……私、ただ命令を……」


 ビーストはそう言いながら、バルバロイの猫耳を掴んで持ち上げると、一気に引きちぎった。


「あああっ!!」


 バルバロイは激痛で絶叫を上げた。王我は満足そうに笑うと、今度は尻尾を掴んだ。


「ぎゃあああ!!」


 バルバロイは再び悲鳴を上げる。


「うるさいなぁ……黙れよ雑魚が!!」


 王我はバルバロイの首を掴むと、思いっきり首を絞め始めた。


「ぐぅ……やめて……ください……お願いします……なんでも……喋る……から……だから……殺さないで……くだ……さ……い……」


 バルバロイは涙を流し、ビーストに懇願した。


 ビーストは首を絞める力を弱めた。


「気分が変わった。だから生かしてやる」


 ビーストはバルバロイを解放すると、バルバロイは地面に倒れこむように倒れた。


 ビーストはコントローラーを取り出すと、カセットを抜き取り変身を解除した。


「もちろん、殺さない代わり、()()()()を味わうことになるけどね」


 王我はにこりと笑いながら、スマホを取り出し、誰かに電話をかけ始めた。


「もしもし、飛騨さん? 俺だけど……いい()()が入ったよ。ちょっと壊れかけてるけど、金にはなるかな?……はい。今いる場所ですか。御徒町の路地裏ですよ。じゃ、後ほど」


 王我は電話を切る。そしてバルバロイの元へ歩み寄った。


「よかったね。これでお前は俺達に殺されることはなくなったよ。その代わり生き地獄は待っていると思うけど、まぁ頑張ってね」


 バルバロイはただ泣き叫ぶことしかできないまま、現れた黒塗りの高級車に乗せられ連れ去られていった。


「今日の任務も楽しかったな~」


 そう言った王我の表情は、とても晴れやかなもので、まるで楽しいゲームを終えたかのようだった。


 翌朝。


 ゲーマー協会のロビーはビーストの話題で沸き返っていた。大型スクリーンには、彼がバルバロイと闘う映像が繰り返し流れる。


「見た見た! 昨日のニュース!」


「さすが日本一のゲーマーはEスポーツだけでなくバルバロイ退治も一流なんだな」


「Eランクの俺たちじゃ、絶対無理だよ!」


ラウンジにいた若いゲーマーの1人が目を輝かせる。


「ビースト様、またバルバロイを一瞬で倒したらしいね」


「さすがだよなぁ。俺たちとは格が違う」


 Bランクのゲーマーたちが、憧れの眼差しでビーストの話をしている。


「俺もいつかビースト様みたいになりたいなぁ」


「無理無理。俺たちじゃ四神にすら届かないって」


「それでも、ビースト様の戦い方を参考にすれば……」


 彼らの会話を聞きながら、Aランクのゲーマーも頷いた。


「いや、ビースト様は本当に別格だ。あの戦闘センス、あの強さ……憧れるよ」


「でも、ビースト様、なんで完全に倒さなかったんだろう」


ゲーマーの1人の疑問に隣にいた女性ゲーマーが得意げになって答える。


「優しいからよ!だってバルバロイを完全に倒すってことは無惨な死体を群衆の前に晒すことになるでしょ?あの時は学生さんや親子連れがいたからトラウマにならないように配慮してくれたんだと思うわ」


「なるほどー、さすがだな〜」


「確かに、ビースト様って優しいよな。この前も俺たち下位ゲーマーにも労ってくれたしな」


 世間でも、ビーストの活躍は大きく報道されていた。テレビのニュース番組では、キャスターが興奮気味に語る。


「昨夜、上野駅前に現れたバルバロイをプロゲーマー、ビーストが見事に撃退しました。彼の活躍により、死者はゼロ。まさに完璧な対応でした」


 街頭インタビューでは、市民たちが口々に称賛する。


「ビーストさんがいれば安心だよね」


「かっこいいし強いし、最高のヒーローだよ」


「うちの子もビーストの大ファンなんです」


 ゲーマー協会本部。最上階のフロアに、ビーストは姿を現した。


「やりましたね。ビースト様」


「さすがです」


「これからもこの調子でお願いします」


 スタッフたちがビーストを褒め称える。


「あぁ、そうだな」


 王我は笑顔を浮かべながら返事をした。


「でもビースト様、体を大事にしてくださいね」


「えぇ、わかっていますよ」


「今日はもうお休みになってはいかがですか」


「それもそうですね。では、私は部屋に戻りますね」


「はい!」


「ゆっくり休んでください」


 王我はスタッフたちに見送られながら、自分の控室へと向かった。


 控室に入ろうとしたとき、ある青年が声をかけた。


「ビースト」


 王我は振り返り、冷たい目で青年を見た。


「なんだ、マッハか……格下のゲーマーが俺に話しかけるなんて一体どんな用かな」


 雨都創亮――四神の一角、マッハ・ファイターは、真剣な表情で王我を見つめた。


「ビースト、お前に聞きたいことがある」


「何の話だ。また雑魚のくせに生意気にも俺に戦いを挑んできたのか」


「そんなつもりはない。ただ俺は知りたいだけだ」


「何をだよ」


「ゲーマー協会の腐敗には、お前が絡んでいるんだろ」


 創亮の言葉に、王我の表情はわずかに変わった。だが、すぐに冷静さを取り戻す。


「腐敗? なんの話だ? お前のつまらん妄想に構っている暇はないので失礼する。それとも名誉毀損で訴えてもいいんだぞ?」


 王我は背を向けた。だが、創亮は続けた。


「質問を変える。そういえば、お前に勝ったゲーマーはなぜか不正をしたことになって負け扱いになっているらしいな。なぜだろうな」


 その言葉に、王我の動きが止まった。


「……例えば、スカイ・リッキーとか」


 創亮の言葉に、王我は振り返った。その瞳には、明確な怒りが宿っていた。


「貴様……」


 王我はコントローラーにカセットを挿入した。


「トランスチェンジ!」


 王我はビーストに変身し、マッハに襲い掛かった。


「どうした。いつものようにかかってこいよ。最速さん」


 そう言いながら、王我は創亮の胸ぐらを掴みながら挑発する。創亮もコントローラーにカセットを入れ、装着した。


「トランスチェンジ!!」


 創亮はマッハに変身すると、そのままビーストに殴りかかった。


 だが、ビーストは軽々と避けていく。まるで、マッハの動きが見えているかのように。


「遅いな」


 ビーストは一旦距離を取り、再び接近して拳を振りかざした。マッハはそれを受け止めようとするが――


「甘い」


 ビーストは拳を引き、逆の手で腹部に一撃を叩き込んだ。マッハが息を詰まらせる。


 そして、そのまま腕を掴み投げ飛ばした。


 マッハは壁に激突し、地面に倒れこむ。その衝撃で壁が崩れ落ちた。


「……くっ」


 マッハは立ち上がり、再びビーストに向かって走り出した。


「四神の階級でも、この程度か」


 ビーストはマッハの目の前まで来ると、飛び蹴りを放った。


 マッハはそれをかわすと、ビーストの腹部にパンチを放つ。だが――


「効かないな」


 ビーストはその攻撃を軽く受け流すと、今度はマッハの顔面に膝蹴りを食らわせた。そして、追撃として頭突きをした。


 マッハは吹き飛ばされ、壁にぶつかる。しかし、マッハはすぐに立ち上がった。


「まだやるか。いい根性だ」


 マッハはもう一度、ビーストに突っ込んでいくが、ビーストはその突進をかわして後ろ回し蹴りを叩き込んだ。


 その後、ビーストはマッハの首を掴むと持ち上げて締め付けた。


「ぐっ……」


 さらに首を掴んだまま振り回して、地面へ叩きつけた。


「ぐはっ」


 地面にたたきつけられたマッハに、ビーストは容赦なく追撃を加えていく。蹴り、殴り、踏みつけ――。


「……はぁ、はぁ……」


 マッハは息を切らしながら、それでも立ち上がろうとした。


「おいおい、もう終わりかよ。四神の階級でも所詮はこの程度か。まぁいい、今日はこのくらいにしてやる。もう一つやるべきことがあるのでね」


 ビーストは変身を解除し、王我の姿に戻った。


「次は容赦しないぞ、マッハ。スカイ・リッキーのことを二度と口にするな」


 そう言うと、王我はその場から立ち去った。


 倒れたマッハは、天井を見上げながら、息を整えた。


───


 去っていく王我の瞳には、力人に対する狂気じみた憎悪が渦巻いていた。


 だが、その憎悪の理由を、誰も知らない。

お久しぶりです。

ビーストはリッキー、そしてマッハの宿敵となっていく予定ですので応援よろしくお願いします。

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