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瞬足のゲーマーマッハ登場

帝釈台の朝は、ネオンの残光が薄れ、朝陽がコンクリートの隙間を縫うように差し込む。


雪音の家、その小さなリビングに、ぴちゃぴちゃという小さな音が響いていた。力人は、目を擦りながらベッドから這い出した。


視線の先に、豆柴のハティが小さな舌で彼の頬を舐めている。


力人は思わず笑みをこぼし、ハティを抱き上げた。


「ハティか、朝から元気だな……」


ゲーマーズハウスを追い出され、雪音の家に身を寄せて一夜。力人の心はまだ揺れていた。ツルギとの思い出が詰まったあの家を失い、ゲーマーとして再起を決めたばかりの自分。


だが、雪音の家の温もり――アップルパイの甘い香りとハティの無垢な瞳に、彼の胸のざわめきは少しずつ和らいでいた。

「(ここなら……やれるかもしれないな……)」


階段を降り、リビングに足を踏み入れると、雪音がテレビのニュースに目を向けていた。


彼女の黒髪は朝陽に輝き、柔らかな笑顔が力人を迎えた。


「リッキー、おはよう。ゆっくり眠れた?」


「まあな。久々に動いたから、ぐっすりだったよ」


力人はソファに腰を下ろし、ハティを膝に乗せた。


だが、ハティは力人の手をすり抜け、雪音の元へ駆け寄る。


「キャンキャン!」


「ハティ、お腹すいたのね。リッキーを起こしてくれたご褒美、今日はご飯多めにしちゃおう」


雪音はドッグフードをボウルに盛る。


「じゃあ、あげるね」


雪音はさらにドックフードを入れていく。ハティはドッグフードを食べようとした刹那


「待て」


雪音の声にハティはピタッと動きを止める。


「お手」


ハティは、お手をすると、ドッグフードを食べ始めた。


「私たちも朝食食べよっか」


「そうしよう」


テーブルにはアップルパイとサラダ。力人はトマトを見つけるや、顔をしかめた。


「うわ、トマトかよ……無理だな」


「またそれ? トマトソースは平気なのに、まぁ私が食べてあげるから」


雪音は呆れつつ、力人の皿からトマトを自分の皿に移した。


力人はほっと息をつき、アップルパイに手を伸ばす。


その瞬間、雪音の家にいることの気楽さと、どこか落ち着かない感覚が交錯した。


「(雪音の家……悪くねえけど、なんか落ち着かねえな。ツルギさんの家とは違う……)」


朝食後、雪音はハティの散歩の準備を始めた。


「リッキーも行くよ」


「え、俺も?」


「当たり前でしょ。バルバロイが出てもいいように、体力つけなきゃ」


力人は目を丸くしたが、雪音の一言に渋々頷いた。


「はいはい、了解」


二人はハティを連れ、帝釈台の街を歩き出した。かつてフリースクール「rainbow road」に通った道。色褪せた看板や、ゲームセンターの喧騒が、力人の脳裏に過去を呼び起こす。


「変わっちまったな、この街……」


力人が呟くと、雪音が頷いた。


「うん、これから世界はどうなるんだろうね……」


2025年、世界はパンデミックの傷跡から立ち直りつつあった。だが、その平穏は突如崩れ去った。空がガラスのように割れ、異世界の瘴気が溢れ出す。死者が怪物に変貌し、人々を襲う怪事件が続発した。そして7月5日、東京の西部のとある街〈珠宮市〉がバルバロイの襲撃でゴーストタウンと化し、異空生命体(バルバロイ)の存在が日本に知れ渡った。


警察や自衛隊は対応に失敗、信頼を失う中、DREAM AND HOPEが「プロゲーマーによるバルバロイ退治」を提案。2025年冬、ゲーマー協会がバルバロイを殲滅し、eスポーツ団体から対バルバロイ組織へと変貌を遂げた。以来、ゲーマーたちはカセットとコントローラーを武器に、異世界の脅威と戦い続けている。


「リッキー、今朝のニュース見た? カナヴァルが来年、日本でバルバロイ対策を始めるって」


雪音が話題を振ると、力人は鼻を鳴らした。


「カナヴァル? ヨーロッパのゲーマー協会もどきだろ。なんか怪しいよな、アイツら」


「うん、ちょっとね……」


雪音が頷いた瞬間、ハティがハーネスを引っ張り、坂道を駆け下りた。


「ハティ! どうしたの!?」


「リッキー、なんとかして!」


雪音が叫ぶ。力人はハティを追い、腕で抱きかかえたが、小さな身体はすり抜け、車道へ飛び出す。


「ハティ!!」


その瞬間、青年がハティを掬い上げた。茶色がかった黒髪、爽やかな笑顔。


「雪音さんの犬だったんですか。助かってよかったです」


「マッハさん!? ありがとう!」雪音は息を切らし、礼を言った。雨都創亮――マッハファイター、四神の一人。力人は彼を一瞥し、微妙な表情を浮かべた。


「(マッハか……2回も負けた相手。トマト並みに好きじゃねえな)」


マッハはハティを雪音に渡し、呟いた。


「これで5件目か……」


「「5件目って?」」


力人と雪音が同時に聞き返す。


「この一週間、犬や猫が突然暴れ出す事件が続いてる。バルバロイの仕業かもしれない。だから調査してたんだ。リッキーとの話、ちょっと遅れるかも」


「じゃあ、私も協力するよ」


雪音が即答し、力人に視線を向けた。


「リッキーも手伝うよね?」


「え……まあ、でもさ……」


力人は渋ったが、雪音が耳元で囁いた。


「ここでバルバロイを倒せば、最強のゲーマーって認めてもらえるかもよ」


「マジか! ならやるぜ!」


力人の目が輝き、マッハと共に調査に乗り出した。


マッハに導かれ、帝釈台のペットショップにたどり着いた。


「ここで事件が?」


力人が問うと、マッハは首を振った。


「逆だ。ここは町で一番大きいペットショップなのに、事件が一度も起きてない。おかしいだろ?」


「確かに。動物を暴走させるなら、こういう場所を狙うはず……」


雪音が呟いた瞬間、店内からガシャンと大きな物音が響いた。


「マッハ、入るぞ!」力人はバッグに手を伸ばし、突進した。


「待て、リッキー!」


マッハの制止も聞かず、彼は店内に飛び込む。雪音とマッハが慌てて後を追った。


「(またこれだ……リッキーの衝動、ツルギさんにそっくり)」


店内は地獄絵図だった。犬や猫がケージを壊し、暴れ回る。中央に、緑の服をまとい、尖った耳を持つ少年――エルフ型のバルバロイがハンドベルを振っていた。


「キキキ! 楽しいな!」


「エルフか! 準備なんかしなくても、俺が潰す!」


力人はカセットをコントローラーに差し込み、虹色の光に包まれた。『Trans change: スカイ・リッキー!』


翡翠色のユニフォーム、ヘラクレスオオカブトの兜。スカイ・リッキーはエルフにタックルし、蹴りを叩き込む。


「痛いな! ボクの楽しみを邪魔しないで!」


「楽しみ? お前の目的はなんだ?」リッキーが叫ぶ。


「このベルで動物を操って、人々を転生させるのさ! ボクにはこれくらいが限界だけどね!」


エルフがハンドベルを振り、窓を突き破った野良犬の群れがリッキーを襲う。獰猛な牙に阻まれ、彼はエルフを逃がしてしまう。


「クソッ、どうすりゃ……」


その瞬間、赤い閃光が走った。


『Trans change: マッハ・ファイター!』


マッハが現れ、野良犬を一瞬で追い払う。


「リッキー、大丈夫か?」


「すまねえ、一人で突っ走っちまった……」


リッキーは頭をかいた。


「反省は後だ。バルバロイを追うぞ!」


マッハが駐車場を指さす。そこには逃げるエルフの姿。


「今だ、一気に攻める!」


二人はエルフに飛び蹴りを放ち、駐車場の柱に叩きつけた。


「ひどいな、二対一なんて!」


エルフは余裕の笑みを浮かべるが、マッハは冷たく言い放つ。


「命を弄ぶお前には言われたくない。予告する――お前の残りターンはゼロだ」


マッハはコントローラーのBボタンを長押しし、助走をつけてアッパーカットを繰り出す。エルフがよろめく瞬間、リッキーが叫んだ。


「EX奥義: 大竜巻斬(グラン・トルネード)!」


ヘラクレスホーンの剣が虹色に輝き、竜巻を巻き起こす。エルフは恐怖に震え、ハンドベルを落とした。


「あ……あぁ……」


「これでゲームセットだ!」


リッキーの剣がエルフを一刀両断。光を撒き散らし、バルバロイは崩れ去った。


戦闘後、マッハがハンドベルを回収する。


「これで一件落着だな」


「マッハ、ありがとな。それと……ごめん、突っ走っちまって」


リッキーは頭を下げたが、マッハは厳しい目で彼を見た。


「リッキー、勝手な行動は危険だ。仲間がいるのに、なんで一人で突っ込む?」


力人の胸が締め付けられた。


「ごめんなさい……ごめんなさい……俺、ダメだったんだ……悪い子なんだ……」


彼の声が震え、視界が揺れる。


手が震え、呼吸が乱れる。ツルギの死体、ゲーマーズハウスの喪失――全てが頭の中で渦巻き、力人は膝をついた。


「ごめんなさい……ごめん……」


「リッキー!」雪音が駆け寄り、彼を強く抱きしめた。


「大丈夫、落ち着いて。リッキーは悪くないよ。ちゃんとバルバロイを倒したんだから」


彼女の声は柔らかく、アップルパイの香りが力人を包む。力人の呼吸が少しずつ落ち着き、彼は雪音の腕の中で小さく頷いた。


「……ありがと、雪音」


マッハは二人を見守り、静かに口を開いた。


「リッキー、俺も悪かった。言いすぎたよ。実は、俺もツルギの弟子だ。雪音から、ツルギが死んだ後、リッキーのサポートしてくれって頼まれてた」


「え? マッハさんが……兄弟子?」


力人は目を丸くした。


「そうだ。戦い方が似てるだろ? 同じ技法を教わったからな」マッハは笑い、雪音が付け加えた。


「マッハさん、リッキーのこと、どうだった?」


「人の話を聞かず突っ走るのは問題だが、敵の隙を突くセンスは抜群だ。欠点は俺と雪音で補えばいい」


マッハの高評価に、力人はガッツポーズ。


「よっしゃ!」


「喜んでるところ悪いが……リッキーに話がある」


マッハの声が低くなる。


「ゲーマー協会について、どう思う?」

力人の笑顔が消えた。


「……戻れるなら戻りたいけど、無理だろ。俺、ビーストとの試合で不正したって言われて……」


「不正?」


雪音が聞き返す。


「実は、辞めたんじゃなくて……ビーストに規約違反って言われて追放されたんだ」


力人の声は苦々しい。


「何度も理由を聞いたけど、信じてくれなかった……」


マッハは頷いた。


「四神の間でも噂になってた。リッキーが追放されたのは、ビーストの策略じゃないかって。雪音の入る予定だったチームも協会の圧力で解散させられた」


「私の降格も……リッキーを擁護したから……?」


雪音が唇を噛む。


力人は地面に手をつき、愕然とした。


「そんな……俺のせいで雪音が……協会に利用されてたのか……?」


彼の心の中で、信頼していた世界が音を立てて崩れた。


マッハは力人の肩に手を置き、静かに言った。


「リッキー、俺と一緒にゲーマー協会を()()しないか?」


「浄化……?」


力人が顔を上げる。


「今の協会は腐ってる。八百長、不正、隠蔽……挙句の果てに『cheat666』ってドーピング薬が横行してる。ゲーマーが薬で壊されていくのに、協会は見て見ぬふりだ。俺一人じゃ変えられない。だから、リッキーと雪音の力が必要だ。協会の闇を暴こう」


力人は立ち上がり、拳を握った。


「俺は……ゲーマー協会を良くするために戦う!」


雪音が微笑み、マッハが頷く。三人は、腐敗した協会に立ち向かう誓いを立てた。

お久しぶりです。シンワです。

今回は雪音に続くリッキーの相棒になる人物マッハが登場します。

それと色々あったため小説を書くタイミングがなく、リハビリ的な執筆となっていますので、グダグダかもしれませんので、アドバイスや感想をお願いします。

また今回から、登場したバルバロイや設定、世界観を紹介していきたいと思います。

ーーエルフーー

ファンタジーRPGやライトノベルではお馴染みの妖精。

今回のエルフは少年で、謎のハンドベルを使用して動物を操って人間を襲わせる転生殺人を行おうとしていたようだ。

(よく考えてみると犬や猫を使ってどうやって転生させるつもりだったのだろうか……)

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