實の決意(前編)
武良井寛太郎からのバルバロイ退治の任務を受け、力人と雪音は目的地の荻窪の図書館を訪れていた。
「ここで合ってるよね…………」
指定された場所をスマホで確認する雪音を横目に、力人は勢いよく図書館へと飛び込もうとする。
「ちょっと、リッキー! 待ってよ! まずは状況を確認しないと!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶい」
力人の勢いを抑えようとする雪音の言葉に、彼は少しおどけた様子で答えた。
「待ちな、ここから先は危険だ」
刹那、力人と雪音の前に、二人の男女が現れる。 一人は、背中に竹刀ケースを背負った凛々しい雰囲気を纏う少年。 そしてその隣には、少し緊張した面持ちのセミロングの髪型の少女が立っていた。
「誰?」
「あ、あの……私、バ国会の神楽リコです。こっちはジロちゃ……じゃなくて剣持慈郎さん。よろしくお願いします」
少女ーー神楽リコの丁寧な自己紹介に、力人は少し面食らった表情を浮かべ、不思議そうに二人を見つめる。
「バ国会? ゲーマー協会じゃなくて?」
力人の問いに、雪音は説明を始める。
「私も詳しくは知らないけど、正式名称を『バルバロイから国民を守る会』っていう最近台頭してきたゲーマー達の組織なの」
「なるほどな……」
力人は雪音の説明に耳を傾け、興味深そうに慈郎とリコを見つめる。
雪音の話を聞き終えた刹那、図書館の中から激しい衝撃音とガラスが割れる音が響き渡り、力人は図書館の入口に向かって駆け出した。
「リッキー!待ってってば!」
「待ちな、入るのは少し様子を見てからにした方がいい」
後を追って図書館に飛び込もうとした時、背後から慈郎に呼び止められ、雪音はその足を止めた。
ーーー
一方、力人は構わず図書館に飛び込み、中を覗き込む。
そこは、まさに戦場だった。本棚が倒れ、窓ガラスが割れ、床には破片が散乱している。その中央で、ホースバルバロイが一回りも大きなバルバロイ相手に剣を振るう。対する象の頭を模した頭部を持つバルバロイ〈エレファントバルバロイ〉は周囲の壁や本棚を倒しながらホースバルバロイの攻撃を躱していた。
「あれは……みのるん……?彼も来てたのか」
そう呟きながら力人は近くの本棚に身を隠し、戦況を静観する。その時、背後から誰かに呼び止められた。
「あなた、逃げ遅れた人?」
力人が振り返ると、そこには1人の少女がいた。
「お前こそ逃げた方がいいんじゃねーか?」
「逃げないなら……あなた……死ぬわよ」
その言葉と同時、少女の背中からしなやかで鋭い羽が伸び、バレリーナや白鳥を混ぜ合わせたかのような怪物に姿を変える。そして、飛び去ると同時に窓の外へと飛び去っていった。力人は驚きつつもホースバルバロイの援護と被害の拡大を防ぐべく、変身しながら、2体のバルバロイの前に割って入る。
「おい、バルバロイ!本を大事にしろ!」
「ウザイ説教ご丁寧、メニメニマニマニ聞いてらんねぇ!」
スカイリッキーに挑発するかのようにエレファントバルバロイは、ラップ調に言葉を紡ぐ。
その言葉が図書館の静寂を嘲るかのように響き渡る。
そしてバルバロイはビートを刻むように肥大化させた頭部の突起を振り回す。まるで鉄柱のように宙を薙ぎ払うたび、地面が震え、本棚の本が崩れ落ちる。
リッキーは、コントローラーを片手で操作しながら、もう片方の腕でエレファントバルバロイを攻撃する。しかし、エレファントバルバロイはリッキーの攻撃を軽々とかわし、逆にリッキーを壁に叩きつける。
「ぐはっ!」
スカイリッキーは、壁に叩きつけられ、苦痛に顔を歪める。
「(おかしい……確かに当たっていたはずなのに……)」
その時、エレファントバルバロイはスカイリッキーのコントローラーに狙いを定め、突進してきた。
「やめろ! 俺のコントローラーを壊す気か!」
スカイリッキーは、コントローラーを庇いながら、必死に攻撃をかわす。しかし、バルバロイの容赦ない攻撃に一方的に嬲られるだけだった。
「くそっ、このままじゃやられる!」
起死回生の一手を打つべくリッキーは、コントローラーから取り出したヘラクレスホーンを手に構え、エレファントバルバロイを斬りつける。バルバロイの傷口からサラサラと零れ落ちる灰がヘラクレスホーンの剣先を灰色に染める。
「(コイツ……転生者か……)」
気づくも時すでに遅く、コントローラーが点滅すると同時リッキーの変身が解除され、力人に戻る。
「充電切れか……」
迂闊だった。ゲーマーがバルバロイと対等に渡り合える力〈マナ〉は基本的に倒したバルバロイから回収する。しかし、力人は回収していなかった。復帰したてで忘れていた。回収する必要もないと慢心していた。思い当たることはいくつもあるが今の力人にとって言い訳にする時間は残されても許されてもいなかった。
「こうなったら……」
自分に対する不甲斐なさへの怒りを込めて力人はバルバロイへ拳を叩き込む。
「HAHAHA ユーはルーザーボーイ!」
しかし現實は非情だった。
鳩尾を抉るような激痛と同時に力人の身体は意識とともに壁に叩きつけられる。
「がっ……(肋骨までやられたか……)」
口から吐き出された鮮血が床を染める。その光景に力人は自らの無力感を實感した。
「これでユーはジ・エンド!」
追い打ちをかけるかのようにエレファントバルバロイは象の鼻を模した突起で貫く。
しかしエレファントバルバロイが貫いたのは力人ではなくホースバルバロイ(實)であった。
「ぐはっ!」
傷口からサラサラと灰を流しながら、ホースバルバロイは實の姿へと戻り、倒れる。そして床一面へと広がり、力人の血と混ざり合う灰が力人へ實が転生者であるという事實を突きつける。
「みのるん……お前……」
力人は覚悟を決めると、満身創痍の身体で實を逃がそうとする。しかし力尽き自らの血溜まりに倒れ込む。
その様子にエレファントバルバロイは嘲笑うように鼻を鳴らした。
お久しぶりです。
今回は長めの話なので、前後編になります。
次回は近日公開です。